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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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114/120

114:思想衝突 村人に迷い発生。

村は変わらず、明るかった。


朝はパンの香りで始まり、畑には露が残り、子どもたちは走り回る。狩猟隊は森へ向かい、鍛冶場では火が絶えず、料理人は鍋を振るう。


いつも通りの一日。


――のはずだった。


「……なあ、本当にいいのか?」


ぽつりと、そんな声が漏れた。


広場の片隅。


農具を手入れしていた男が、隣の仲間に言う。


「何がだ?」


「神だよ」


空気が少しだけ重くなる。


「最近、外の連中……言ってるだろ」


「ああ……異端だってな」


笑い飛ばせば終わる話。


だが、完全には消えない。


「もし本当だったら……」


その一言が、残る。


村の中に、小さな“揺れ”が生まれていた。


カイゼルはその報告を受けていた。


「……出たか」


短い言葉。


予想通り。


マリナが椅子に寄りかかる。


「当然ね。外から圧をかけて、内側を崩す。王道よ」


レイナは肩をすくめる。


「一番効くやつ」


エルダは腕を組む。


「剣で斬れない」


沈黙。


それが本質だった。


カイゼルは立ち上がる。


「見に行く」


それだけ言って、外へ出る。


広場。


市場。


人の流れ。


笑い声はある。


だが、ほんの少しだけ。


「間」がある。


カイゼルは何も言わずに歩く。


パン屋に寄る。


「どうだ」


「売れてるよ、いつも通り」


笑顔。


だが、少しだけ目が揺れる。


次に、畑へ。


「収穫は?」


「順調だ」


こちらも同じ。


問題はない。


でも――


完全ではない。


カイゼルは理解する。


これは“不安”ではない。


「疑問だ」


エルダが横で言う。


「否定じゃない」


「揺れてるだけだ」


正確だった。


マリナが後ろから来る。


「ここで強く否定すると逆効果よ」


「分かってる」


カイゼルは止まる。


広場の中央。


人が集まる。


自然と。


「話す」


一言。


ざわめきが収まる。


カイゼルは見渡す。


一人一人を。


「聞く」


それだけ言った。


村人たちは戸惑う。


「……何を?」


「疑問」


カイゼルは続ける。


「あるなら言え」


強制ではない。


否定もしない。


ただ、出させる。


沈黙。


だが――


一人が手を上げる。


若い男だ。


「……神を信じないのは、いいのか?」


率直な問い。


逃げない。


「知らない」


カイゼルは答える。


その場がざわつく。


「信じたいなら信じろ」


「信じたくないなら信じるな」


単純な答え。


だが――


重い。


「強制はしない」


「それだけだ」


別の声が上がる。


「でも……罰とか……」


恐れ。


それも当然。


カイゼルは指をさす。


「今、罰はあるか?」


誰も答えない。


「飢えてるか?」


首が振られる。


「病気か?」


否定。


「奪われてるか?」


また否定。


静かに積み上げる。


現実を。


「それが答えだ」


カイゼルは言う。


「今の選択で困っているなら変えろ」


「困ってないなら、そのままでいい」


正しさは押し付けない。


結果だけを提示する。


レイナが小さく笑う。


「やり方がずるいのよ」


マリナも頷く。


「でも、一番強い」


エルダは黙っている。


だが、目は鋭い。


村人の反応を見ている。


一人の老人が口を開く。


「……ワシはな」


ゆっくりと。


「前の村で、神を信じてた」


静まる。


「でも、飢えた」


「祈っても、何も変わらなかった」


重い言葉。


「ここに来て、初めて腹いっぱい食った」


一拍。


「それで十分だ」


それが答え。


誰かが笑う。


小さく。


そして――


広がる。


空気が変わる。


完全ではない。


だが、戻り始める。


カイゼルはそれを確認する。


「終わりだ」


短く言う。


強制はしない。


議論も引き伸ばさない。


余計なことはしない。


エルダが歩き出す。


「訓練だ」


いつも通り。


レイナが声を張る。


「荷の再配分するわよ!」


マリナが指示を出す。


「価格調整、続けるわ」


日常が動く。


止めない。


それが重要。


カイゼルは空を見る。


問題は終わっていない。


「外は続ける」


マリナが言う。


「当然ね」


レイナが笑う。


「でもこっちも止まらない」


エルダが一言。


「崩れない」


それでいい。


夜。


村は明るい。


料理人が腕を振るう。


薬師リナが子どもを診る。


笑い声が響く。


カイゼルはその光景を見る。


「……大丈夫だ」


確信する。


思想はぶつかる。


だが――


生活が勝つ。


人は“楽な方”ではなく、“納得できる方”を選ぶ。


この村は、それを満たしている。


だから崩れない。


そして――


さらに強くなる。


カイゼルは小さく息を吐く。


「次だ」


止まらない。


この村は。


思想すら飲み込んで、前に進む。


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