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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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119/120

119:奴隷流入 逃亡者が村に来る。

朝は静かだった。


畑に水が引かれ、苗は均等に並び、風車型の魔道具がゆっくりと回る。水路は澄み、子どもたちは桶を持って笑いながら走っている。


変わらない、明るい朝。


ただ一つ。


門の外に、人影が増えていた。


最初に気づいたのは見張りの少年だった。


「……誰か、いる」


遠く。


森の陰から、数人。


いや――十人、二十人。


ゆっくりと近づいてくる。


歩き方がおかしい。


足を引きずる者。


肩を貸し合う者。


倒れそうになりながら、進んでくる。


「……呼べ」


エルダの声は低く、短い。


すぐに動きが伝わる。


門が半分閉じられる。


民兵が配置につく。


魔導式バレット銃が、静かに構えられる。


カイゼルは門の内側に立つ。


前にはエルダ。


その後ろに、レイナとマリナ。


そして、リナが薬箱を抱えている。


やがて、先頭の男が倒れた。


砂埃が上がる。


動かない。


後ろの女が叫ぶ。


「お願い……!」


声は枯れていた。


「助けて……!」


沈黙。


門の上から、民兵が問いかける。


「何者だ」


返ってきたのは、簡単な言葉だった。


「……逃げてきた」


それだけ。


カイゼルは一歩前に出る。


鑑定。


一瞬で情報が流れ込む。


疲労、栄養失調、軽度の外傷。


そして――


「拘束歴あり」


「奴隷契約の痕跡」


「逃亡者」


全員ではない。


だが、かなりの数が該当する。


カイゼルは目を細める。


「追っ手は?」


倒れた男の代わりに、別の男が答える。


「……いない」


「もう、切り捨てられた」


声に力はない。


エルダが小さく舌打ちする。


「捨てられたか」


合理的判断。


価値がなくなった。


だから切る。


マリナが肩をすくめる。


「よくある話ね」


レイナはじっと観察している。


「……まだ動けるやつもいる」


「使える」


その視点。


カイゼルは頷く。


「門を開ける」


エルダが即座に反応する。


「リスクは?」


「低い」


カイゼルは即答する。


「戦闘能力はほぼない」


「追跡もない」


「意図的な侵入の可能性は低い」


判断。


エルダは一拍だけ考え、頷く。


「開けろ」


門がゆっくり開く。


軋む音。


逃亡者たちの目が揺れる。


信じられないものを見るような顔。


「……入れ」


エルダの声は変わらない。


だが、拒絶はない。


最初の一人が、震えながら一歩を踏み出す。


それが合図だった。


一斉に崩れ込むように入ってくる。


何人かはその場で倒れる。


リナが即座に動く。


「水!」


子どもたちが走る。


桶が運ばれる。


リナは手際よく処置を始める。


「大丈夫、大丈夫」


「死なないから」


明るく言う。


その声に、何人かが泣いた。


レイナはすぐに動線を作る。


「こっち、寝かせる場所ある」


「動ける人は手伝って」


無理はさせない。


だが、止めない。


流れを作る。


マリナは横で観察している。


「……増えるわね」


「人口が」


カイゼルは頷く。


「増やす」


当然のように言う。


エルダが横を見る。


「守れるのか」


問い。


カイゼルは迷わない。


「守れる構造にする」


それが役割だ。


戦うのはエルダ。


回すのはレイナ。


広げるのはマリナ。


自分は――整える。


一人の少女が、カイゼルの袖を掴んだ。


細い指。


震えている。


「……ここは……」


言葉が続かない。


カイゼルは視線を落とす。


「働く場所だ」


短く言う。


少女は目を瞬く。


「働く……?」


「食べる」


「寝る」


「動く」


「それだけだ」


余計な言葉はない。


だが。


少女は、ぽろぽろと涙をこぼした。


「……いいの?」


その問いに。


カイゼルは一度だけ頷いた。


「いい」


その一言で、崩れるように泣いた。


周囲でも、同じような声が上がる。


誰も止めない。


止める必要がない。


エルダは少しだけ目を細める。


「……甘いな」


呟く。


だが、その声は強くない。


レイナが笑う。


「回るなら、問題ないでしょ」


マリナも続く。


「利益が出るなら、歓迎よ」


三者三様。


だが、否定はない。


リナは薬を塗りながら言う。


「ここは死なないから」


それが、すべてだった。


夕方。


新しく来た者たちは、簡単な食事を受け取る。


スープ。


パン。


温かい。


それだけで、震えている者もいる。


ルークが笑いながら言う。


「そんな大げさなもんじゃねえぞ」


「普通だ、普通」


その言葉に、何人かが顔を上げる。


普通。


それが、彼らにはなかった。


カイゼルは遠くを見る。


門の外。


もう誰もいない。


追ってくる者も。


奪いに来る者も。


今は、いない。


「……流れが変わったな」


小さく呟く。


マリナが隣で笑う。


「ええ」


「“持たない側”が流れてきてる」


レイナが腕を組む。


「止めないわよ」


「全部回す」


エルダが槍を担ぐ。


「来るなら、守る」


それだけ。


カイゼルは目を閉じる。


開く。


「じゃあ、やるか」


止まらない。


この村は。


流れが来るなら。


受ける。


そして――回す。


それができる構造になった。


それが、この村の強さだった。


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