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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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105/150

105:貴族の動揺 情報隠せない → 崩れ始める

その報告は、静かに、だが確実に広がっていた。


「……公開、だと?」


重厚な机の向こうで、男が顔を歪める。


領主――バルディウス伯。


金で飾られた部屋。


だが空気は重い。


「はい。村は交渉を“全員の前”で行いました」


部下が答える。


「内容も……全て共有されています」


沈黙。


ありえない。


本来、交渉とは密室で行うものだ。


言葉を選び、裏を取り、条件を捻じ曲げる。


それが“支配”だ。


だが――


「全部、見せたのか……?」


「はい」


部下の声は震えている。


「契約条件、納入内容、税率……」


「すべて村人が把握しています」


バルディウスの指が机を叩く。


カン、と乾いた音。


「馬鹿な真似を……」


そう言いながらも、違和感がある。


「……なぜ成立した」


それが問題だ。


公開すれば崩れる。


情報は武器だ。


隠すから価値がある。


だが――


成立している。


「理由は……不明です」


部下が答える。


「ただ……」


言い淀む。


「何だ」


「……損をしていません」


部屋が静まる。


「どういう意味だ」


「村側も、我々側も」


「どちらも“得をする形”で成立しています」


ありえない。


そんな交渉は存在しない。


誰かが得をすれば、誰かが損をする。


それが現実だ。


それなのに――


「……ふざけるな」


低く呟く。


だが、部下は続ける。


「さらに問題があります」


「まだあるのか」


「はい」


一歩、前に出る。


「情報が……漏れていません」


意味が分からない。


「公開しているのに?」


「はい」


「しかし……」


「歪められていないのです」


バルディウスの眉が動く。


「噂になっても、内容が変わらない」


「誇張も、捏造も、混ざらない」


「そのまま伝わっています」


沈黙。


それは、もっとも都合が悪い。


「……管理されているのか」


「おそらく」


部下が言う。


「情報網が構築されています」


その瞬間。


バルディウスは理解する。


「……なるほど」


「“流れ”か」


物資だけではない。


情報も流れている。


しかも――


止まらない。


歪まない。


操作できない。


それは支配の崩壊を意味する。


「他の貴族は?」


問いかける。


「動揺しています」


即答だった。


「一部は強硬策を検討」


「一部は様子見」


「一部は……」


言葉を選ぶ。


「……接触を試みています」


バルディウスは笑う。


乾いた笑いだ。


「早いな」


「はい」


「価値を見たのでしょう」


当然だ。


あの村は、もう“ただの村”ではない。


「どこまで把握している」


「交易路の再構築」


「加工品の価値向上」


「防衛の安定」


「そして……」


部下が息を飲む。


「人口増加」


それが一番厄介だ。


人が集まる。


それは、全てが集まるということだ。


技術。


知識。


金。


そして――


力。


「止められるか」


短く問う。


部下は沈黙する。


それが答えだ。


バルディウスは立ち上がる。


窓の外を見る。


広がる領地。


だがその先にあるのは――


あの村だ。


「……崩れるな」


ぽつりと呟く。


何が?


自分の領地か。


それとも。


支配の構造そのものか。


場面は変わる。


村。


夕方。


畑では収穫が続いている。


笑い声。


子どもたちが走る。


リナが薬草を選別している。


「これ、間違えたらお腹壊すからね」


柔らかい声。


だが手は正確だ。


料理人たちは鍋を囲む。


「今日は保存食の試作だ!」


香りが広がる。


レイナが荷の確認をしている。


「そっちのルート、明日出るわよ」


「遅れるなら今言って」


現場は動く。


止まらない。


マリナは帳簿を見ている。


「……いい流れね」


小さく笑う。


数字が揃っている。


嘘がない。


だから読める。


エルダは訓練場にいる。


「構えが甘い」


バレット銃を構えた村人に言う。


「撃つ前に終わるぞ」


一歩踏み込む。


指導は厳しい。


だが確実に強くなる。


カイゼルはその全てを見ている。


一歩引いた位置から。


手は出さない。


必要ない。


仕組みは動いている。


「情報も回ってるな」


小さく呟く。


魔導通信。


掲示板。


口伝。


全てが繋がっている。


歪まない。


隠れない。


だから――


強い。


レイナが近づく。


「ねえ」


「何だ」


「向こう、焦ってるわよ」


軽く言う。


だが目は鋭い。


「分かるのか」


「流れが乱れてる」


それだけで十分だ。


マリナも来る。


「動きが雑になってる」


「いい兆候ね」


エルダが言う。


「来るなら叩く」


シンプルだ。


リナが笑う。


「怪我しない程度にね」


空気が柔らかくなる。


だが芯は変わらない。


カイゼルは空を見る。


夕焼け。


穏やかだ。


「崩れ始めたな」


誰に聞かせるでもなく。


ただの事実として。


隠せない。


誤魔化せない。


止められない。


それが広がる。


そして――


この村は、今日も回る。


明るく。


静かに。


確実に。


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