表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/130

104:公開交渉 密室を拒否し、全員の前で交渉

昼下がり。


広場には人が集まっていた。


農具を置いた者。


狩り帰りの者。


子どもを連れた者。


誰もが、中央に設けられた簡易の台を見ている。


その上に立つのは――


マリナ・クローネ。


「今日は“密室”じゃやらないわ」


最初の一言で、空気が変わる。


「全部、ここでやる」


視線は正面。


その先には――


再び現れた使者。


だが今回は違う。


護衛は少ない。


態度も、前回より慎重だ。


「本日は正式な交渉の場として――」


使者が口を開く。


だがマリナは遮る。


「長い前置きはいらない」


笑顔。


だが切れ味は鋭い。


「まず確認する」


「今回は“本物”?」


静かに。


だが全員が聞いている。


使者は頷く。


「正式な文書です」


カイゼルが横で紙を受け取る。


一瞥。


それで終わり。


「本物だ」


短く。


ざわめきが落ち着く。


「じゃあ話を進めましょう」


マリナが一歩前に出る。


「徴収内容は?」


使者が読み上げる。


「穀物三割、木材二割、労働力――」


「却下」


即答。


間を置かない。


広場がざわつく。


使者の眉が動く。


「理由を」


「簡単よ」


マリナは肩をすくめる。


「それ、村が死ぬ」


直球。


誤魔化さない。


レイナが口を挟む。


「三割抜かれたら、次の収穫まで回らない」


「木材も同じ」


「インフラ止まるわ」


淡々と。


現場の言葉。


使者が言う。


「それは貴村の都合――」


「違う」


今度はエルダが口を開く。


「崩れたら、守れない」


静かな声。


だが重い。


「守れない村から徴収しても意味はない」


論理。


そして現実。


使者が黙る。


カイゼルは何も言わない。


ただ見ている。


流れを。


「代案を出すわ」


マリナが言う。


「穀物一割」


「木材はゼロ」


「その代わり――」


少しだけ間を置く。


全員が聞く。


「加工品を出す」


料理人たちが顔を上げる。


保存食。


乾燥肉。


発酵食品。


価値が違う。


「価値を上げて渡す」


マリナが続ける。


「量じゃなく質で払う」


使者の目が細くなる。


「……それでは足りない」


レイナが笑う。


「足りるわよ」


「流通を組む」


地図を広げる。


「この村を中継にする」


「物が通る場所にする」


指で線を引く。


新しいルート。


「通るたびに税を取れる」


「継続的に入る」


使者が考える。


「一度きりの徴収より、長く取れる」


マリナが補足する。


「どっちが得?」


沈黙。


だが答えは出ている。


エルダが最後に言う。


「防衛は保証する」


「この村は落ちない」


「だから流れは止まらない」


それが信用。


使者は深く息を吐く。


「……条件を整理する」


「穀物一割」


「加工品の納入」


「交易路の提供」


「防衛保証」


マリナが頷く。


「そういうこと」


「ただし」


使者が続ける。


「監査を入れる」


一瞬、空気が張る。


だがカイゼルが口を開く。


「問題ない」


全員が見る。


「全部公開する」


それだけ。


レイナが笑う。


「隠すものないしね」


マリナも笑う。


「むしろ見せた方がいい」


エルダは黙って頷く。


使者が言う。


「……了承する」


その瞬間。


広場が揺れる。


歓声ではない。


だが確かな安堵。


誰も奪われない。


それが伝わる。


マリナが振り返る。


村人たちを見る。


「聞いた通りよ」


「この村は売らない」


「でも、閉じない」


レイナが続ける。


「流すわよ」


「止めない」


エルダが言う。


「守る」


短く。


それだけ。


リナが前に出る。


「怪我人も出さない」


柔らかい声。


日常に戻す声。


カイゼルは一歩下がる。


もう口を出す必要はない。


全てが回っている。


交渉。


防衛。


流通。


医療。


それぞれが動く。


それぞれが噛み合う。


使者が最後に言う。


「……変わった村だな」


マリナが笑う。


「そう?」


「普通よ」


レイナが肩をすくめる。


「止まらないだけ」


エルダが言う。


「崩れないだけだ」


カイゼルは空を見上げる。


風が吹く。


穏やかだ。


「回ってるな」


小さく呟く。


この村はもう――


密室で決まらない。


全員で決める。


全員で守る。


そして――


全員で回す。


明るく。


強く。


止まらずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ