表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/130

103:鑑定の力 契約・文書の嘘を暴く

朝の空気は澄んでいた。


だが、その静けさは長くは続かない。


村の入口に、一団が現れる。


鎧。


旗。


そして――


書類を持った男。


「徴発通達である」


高らかに読み上げられる声。


「本日よりこの村は領主直轄下に置かれる」


「食料、資材、人員の一部を徴収する」


ざわめきが走る。


村人たちは顔を見合わせる。


不安。


怒り。


だが――動かない。


誰も飛び出さない。


その理由は、すでに決まっているからだ。


前に出るのは――


マリナだった。


「ずいぶん急ね」


柔らかい声。


だが一歩も引かない。


「正式な文書?」


男は鼻で笑う。


「当然だ」


「領主の印もある」


紙を掲げる。


確かに。


それらしく見える。


だが――


「見せて」


マリナが手を伸ばす。


男は一瞬迷う。


だが周囲の兵に目をやり、差し出す。


「どうぞ」


余裕の笑み。


だが――


それが崩れるのは早かった。


マリナは受け取らない。


横に立つカイゼルに視線を送る。


それだけで十分だった。


カイゼルは一歩前に出る。


「借りる」


短く。


紙を受け取る。


視線を落とす。


その瞬間。


世界が変わる。


文字。


インク。


紙質。


魔力の流れ。


すべてが見える。


「……なるほど」


小さく呟く。


その声は、誰にも聞こえない。


だが次の言葉は、はっきりと響いた。


「偽物だな」


一瞬の沈黙。


そして――


ざわめき。


「何だと?」


男の声が強くなる。


「無礼だぞ」


カイゼルは顔を上げる。


淡々と。


「印は本物に見せている」


「だが、押された位置が違う」


「本来の文書はここに押される」


指で示す。


わずかな差。


だが――決定的。


「それに紙だ」


「これは王都製ではない」


「この地方の工房製だ」


「繊維の混ざり方が違う」


男の顔が変わる。


「……でたらめを」


「まだある」


カイゼルは続ける。


「インクに魔力が混ざっている」


「本物は混ざらない」


「契約魔術の偽装だな」


マリナが笑う。


「へえ」


「随分手が込んでるじゃない」


レイナが肩をすくめる。


「でも詰めが甘いわね」


エルダは剣に手を置く。


だが抜かない。


まだその段階ではない。


男が叫ぶ。


「証拠はあるのか!」


カイゼルは紙を返す。


「ある」


短く。


そして――


「今から見せる」


その瞬間。


空気が変わる。


カイゼルの指先に、淡い光が宿る。


光属性。


精製。


真実だけを残す力。


紙に触れる。


すると――


じわりと、文字が歪む。


インクが浮き上がる。


偽装された部分だけが、浮き出る。


「な……」


男の声が震える。


そこにあったのは。


修正跡。


上書きされた文言。


「徴収量も改ざんされている」


「本来の三倍だな」


マリナが笑う。


冷たく。


「強欲ね」


レイナが続ける。


「しかも雑」


エルダが一歩出る。


「つまり――」


剣の柄を握る。


「これは正式な命令ではない」


「ただの詐欺だ」


その一言で。


空気が固まる。


兵たちがざわつく。


男が叫ぶ。


「違う!これは――」


「証明は終わった」


カイゼルが遮る。


それだけで、終わる。


マリナが前に出る。


「さて」


笑顔。


だが目は笑っていない。


「どうする?」


「引くなら、今よ」


レイナが軽く言う。


「このまま続けるなら、損しかしないわよ?」


エルダが静かに告げる。


「ここは“弱い村”じゃない」


その言葉は重い。


男は歯を食いしばる。


周囲を見る。


兵。


村人。


そして――


完全に崩れた“正当性”。


「……撤退する」


絞り出すように言う。


兵たちが動く。


去っていく。


静かに。


だが確実に。


村に残るのは――


安堵。


そして、確信。


「すげえ……」


誰かが呟く。


「騙されてたのか……」


リナが前に出る。


「怪我人はいない?」


いつもの声。


日常に戻す声。


それが、村を落ち着かせる。


カイゼルは一歩下がる。


役目は終わった。


あとは――


回る。


マリナが言う。


「いいわね、あれ」


「契約の嘘を暴く力」


レイナが笑う。


「商売殺しじゃない」


「使い方次第よ」


マリナは楽しそうに言う。


エルダはカイゼルを見る。


少しだけ。


評価が変わる。


「……使えるな」


短く。


それだけ。


だが十分だった。


カイゼルは肩をすくめる。


「道具だ」


「使い方次第だろ」


その言葉に。


三人がそれぞれ反応する。


マリナは笑い。


レイナは頷き。


エルダは黙る。


村はまた動き出す。


農作業。


狩猟。


料理の煙。


子供たちの声。


すべてが、いつも通り。


だが――


一つだけ違う。


この村は、もう騙されない。


価値を知っている。


守り方も知っている。


そして――


回し方も知っている。


カイゼルは空を見る。


「問題ないな」


小さく呟く。


流れは止まらない。


この村は――


もう、奪われない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ