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箱の外側で、君は死んでいる  作者: みぎみみ


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18/61

第18話 同じ実験記録が、二通ある


 郡司から電話が来たのはその翌朝だった。


「昨日、機構の正門にいらっしゃいましたね」


「監視ですか」


「入構申請の記録が残ります。断られた記録も残ります」


 僕は受話器を持ち替えた。


「何の用ですか」


「お見せしたいものがあります」


    ※


 場所は霞が関ではなかった。


 指定されたのは四谷の、小さな貸会議室だった。ビルの四階で看板も出ていない。部屋には長机がひとつと、椅子が四脚。窓にはブラインドが下りていた。


 郡司は先に来ていた。


 机の上に、書類の束が二つ、並べて置いてあった。


「お座りください」


 僕は座った。


「高梨さん。私はあなたに黙っていていただくためにここにいます。ですが黙っていただくには、あなたが何を黙るのかをご存じである必要がある」


「回りくどい」


「そうですね」


 郡司は右側の束を、僕のほうへ押した。


    ※


 ——第三隔離実験室 実験記録(WF‐3/第七回)


 その下に、時刻が並んでいた。


 13:00 被験者入室(望月榛名/非常勤職員)

 13:04 閉扉・遮蔽開始

 13:12 内部計測系 起動確認

 14:32 内部圧 急減 警報

 14:33 外部観測者、観測窓より内部を視認

 14:41 開扉

 14:41 被験者 心肺停止 確認

 15:09 医師到着 死亡確認


 僕はその表を三回読んだ。


 三回読んでも、字は変わらなかった。


    ※


 郡司が左側の束を押した。


 ——第三隔離実験室 実験記録(WF‐3/第七回)


 同じ表題だった。


 13:00 被験者入室(望月榛名/非常勤職員)

 13:04 閉扉・遮蔽開始

 13:12 内部計測系 起動確認

 14:32 内部圧 変動(許容範囲内)

 14:33 外部観測者、観測窓より内部を視認

 14:41 開扉

 14:41 被験者 自力退室

 15:10 健康診断 異常なし

 18:20 被験者 退所(同行者 高梨透)


 僕は椅子の背にもたれた。


 もたれてから前に戻った。


 もう一度、両方を見比べた。


 一四時三二分までは、一字一句、同じだった。


 一四時三三分も、同じだった。外の人間が窓から中を見た。


 違うのはその次の行からだった。


    ※


「どちらも、機構の正式な記録です」


 郡司は言った。


「タイムスタンプは同一のサーバから発行されています。改竄の痕跡はありません。第三者機関に二度出しました。二度とも、両方とも真正であると返ってきました」


「そんなことは」


「あります」


 彼は書類の端を揃えた。


「私どもは、こういうものを年に十数件、処理しています。ほとんどは登記や名簿です。人が二人分になるのは、五年に一度あるかどうかです」


「処理ってどうやって」


「片方を捨てます」


 あっさりと、彼は言った。


「捨てたほうが正しくないと分かって捨てるのではありません。どちらが正しいかは、我々には決められない。決められないから、多いほうを残します」


「多いほう」


「他の記録と整合するほうです。死亡届。火葬許可。保険の支払い。年金の停止。市の記録。それらは全部、右の束と整合します」


 郡司は右の束を軽く叩いた。


「左の束と整合する記録は、この三年間で四つしか出ていません」


「四つ」


「レシートが三十七枚と、医療費の明細と、写真が一枚と、それから」


 彼は顔を上げた。


「あなたです」


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