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2 鍛冶屋

芝辻清右衛門の鍛冶屋は、根来寺の門前の表通り沿いにある。


月丸は何度か通りかかったことがあったが、清右衛門には会ったことがない。寺の小姓にとって刀鍛冶などは無縁であった。




月丸が鍛冶屋の前まで来ると、客とおぼしき男が出てきた。


中をのぞくと他にはもう客はおらず、若い男がひとり番をしている。


外からじっと様子をうかがっている月丸に気がつき、番の男はけげんな顔をした。子どもがいったい何の用だと思ったのだろう。いや、それよりも、この鍛冶屋が抱え込んでいる秘密のことを思い、番の男の神経も過敏になっていたにちがいなかった。




月丸は、中に入って例の道具のことを聞きたかったが、急に体が動かなくなってしまった。


元来が内気な性格である。寺の外に出て、しかも見知らぬ大人に対して、自分から話しかけることには非常な勇気がいる。




鍛冶屋は、商店ではない。実際に刀鍛冶が刀を製造している工房である。


鋼を高温で熱するための炉があり、熱した鋼を置く台があり、台に置かれた鋼を叩く槌があり、その他たくさんの見慣れない工具と設備がある。




月丸は、鍛冶屋の奥に広がる見知らぬ世界に気を取られ、番の男が目の前に近づいてくるのに気がつかなかった。




「おい、小僧」




月丸は先ほどの男が突然目の前に現れたのに驚き、後ずさった。




「ここはおぬしのような小僧が来るような場所ではない。立ち去れ!」




月丸は男の強い調子にすっかりおびえ、口をパクパクさせることしかできなかった。


それでもその場を動こうとしない月丸に対し、男はさらに怖い顔を作って近づいてきた。




「あ、あの」




月丸はありったけの勇気を振り絞って声を出した。




「雷を落とす道具を見せてくんしゃい!」




男は、きょとんとしたまましばらく黙った。


しかしすぐに顔をこわばらせ、月丸の襟髪をつかむと、無言で脇道に連れ込んだ。




「そのこと誰に聞いた」




「監物様でございます」




「なに、監物様が。なにゆえこのような小僧に漏らされたか。とにかくそちに見せることなど決してかなわぬ。このことは他言無用。よいな?」




月丸は、小さい肩をがっくり落として寺に戻るよりほかなかった。


だが、あの男の言い方からすると、その道具が清右衛門のところにあるのは本当らしかった。


何より、男のひどい慌てようから察するに、やはりとんでもない道具なのだろう。胸の内にふくらんでくる期待は抑えようがなかった。




翌日、気がつくと鍛冶屋の前に立っていた。




「またお前か!」




番の男が、鬼のような形相で中から飛び出してきた。




(ぶん殴られる)




月丸は瞬時に危機を察し、子どもの反射神経で一目散に逃げだした。




どうにか奥の様子をじっくり見る方法はないだろうか。


いっそ夜中に忍び込んでみようか。いや、もし見つかったときはどんな恐ろしい目にあうか分からない。


でもどうしても見たい。




それから月丸は、毎日のように鍛冶屋に出かけて行っては物陰に隠れて観察した。


そして一、二時間そのようにしていても何も変わったことが起きそうもないと分かると、そのたびに名残り惜し気に帰っていった。

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