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女王様見習いの清楚お嬢様は、○○○の穴を埋めて欲しい  作者: 弥波明希
1章 女王様見習いの始まり

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6話 お嬢様は家に来る

 もう帰りたいと思った後に、ここが自分の家だと思い出した。


 放課後、寄り道ひとつせず帰ってきた。

 高校入学時から住んでいる部屋は、ちょっと広めのカウンターキッチン付きワンルーム。

 端にはベッドがあり、小さなテーブルを挟んで、反対側にテレビを乗せた戸棚がある。


 いつも通り、変わらない。なのに居心地が悪いのは、なぜかテーブルの上を片づけている真白さんがいるからだった。


「大量のカップ麺が積まれていますね。たまに食べるくらいなら、棚の中にしまっておくはずです。まさか、毎日食べて……?」


 真白さんの綺麗な眉間にくっきりと皺が寄る。早く本題に入らないと、このまま説教が始まってしまいそうだ。


「……真白さんさ、本気で女王様になりたいの?」


 自分で話題を変えておいて、まだ説教の方がマシだったかもと後悔。


「はい! 黒川君にはぜひ手伝っていただきたいんです!」


「……」


 今更断れるわけはない。「真白さんはどうなりたい?」って聞いたのは俺なんだから。

 昨日から続く彼女の奇行を考えたら、この答えは十分予想できたはずだけど……だけどさ、まさか本当に「女王様」なんて答えが出てくるとは思わなかった。

 クラスで一番、いや学校で一番の美少女が。清楚で誰に対しても優しく微笑む彼女が、SMって……。


「……ん? なんで自分の頬をつねってるんですか?」


「夢なら醒めないかと」


 ……痛い。最近爪切ってなかった。めっちゃ食い込んだわ。


 真白さんは困ったように首をこてんと傾げた。心配してくれるなんて優しいな、女王様のくせに。


「今更だけど、なんで女王様?」


「言ったじゃないですか。芯のある強い女性になりたいって」


「それでSM嬢を挙げる人って、ツチノコレベルで希少だろ」


「ひとり居れば、ツチノコよりは多いと思いますけど」


 ツチノコ信じない派閥の人か。映画に影響された言動ばかりするくせに、意外と現実的だ。


「そもそも女王様ってさ、なにきっかけで好きになるんだ。SM系のエロ動画でも見てたのか?」


「はぁ、女の子がそんなの見るわけないじゃないですか」


 えっちなお店に行こうとしてたヤツの言葉とは思えないな。


「きっかけはですね、少し前に見たアニメです。タイトルは『転生したら乙女ゲームの悪役令嬢だったので、イケメン王子達を全員下僕犬にします』。略して『イケ犬』、オススメですよ!」


「タイトルだけでキツい」


「ヒロインは前世で我慢ばかりしていた不遇の女子高生。転生してからは自分らしく生きると誓って、バカにしてくる男達を這いつくばらせるざまぁ展開のハートフルな内容です!」


「ざまぁがハートフルと言われる時代なのか」


「ヒロインの名台詞『貴方を私の踏み台にしてさしあげます。さぁ、這いつくばりなさい!』を初めて聞いた時、思ったんです」


 胸の前で祈るように両手を合わせ、とろんとした顔で彼女は続けた。


「私も踏みたいって!」


「人としてのラインを踏み越えててるだろ」


 真白さんの足が床をぐりぐり踏みしめているのは見なかったことにしたい。


「そもそもの話だけど、悪役令嬢とSMの女王様って違うよな? 令嬢はあんなに露出の激しい服は着ないだろ」


「転生特典のスキルが『女王』で、それを使うと衣装が黒いボディスーツに変化するんです。そしてスキルでイケメン王子達を調教すると、立派な下僕犬になるんですよ!」


「下僕犬?」


「調教された男性のことですよ。ヒロインの前で尻尾があるかのようにお尻を振るので、ワンちゃんズと呼ばれています」


「業が深いな」 


 ヤバすぎるアニメだ。現代社会の闇が凝縮している。


「それでね、黒川君」


「な、なんだ……」


 頬をとろけそうに緩ませて、真白さんがにじり寄ってくる。


「協力してくれるって、言ってくれましたよね……?」


 青い瞳が俺を捉えて離さない。

 協力って、つまり俺に、彼女が言うような下僕犬になれってことか?


「それは……」


 さすがに限度がある。這いつくばって、頭を踏まれながらお尻を振れって?

 そんな自分を想像するだけで寒気がする。


「私がしたいことをって、黒川君は言ってくださいました」


「……」


「私は、私を覆う『ガラス』を打ち破る……その勇気が欲しいんです。だから、少しだけお手伝いしてください」


「……ガラス?」

 

 俺の問いかけに、答えはない。それでも彼女の瞳は、何かを強く訴えかけている。


 視線が絡む。やけに長く感じる一瞬の間を置いて、ある疑問が浮かんできた。


「……そもそも、何を手伝えばいいんだ?」


「え?」


 素っ頓狂な声に、嫌な予感がする。


「……そういえば」


 コテンと傾げる首に合わせて、銀の髪がぴょんと跳ねる。


「女王様って、なにをするんでしょう?」


「そこから⁉」


 子供が「赤ちゃんってどこから来るの?」と聞いてくるような穢れなき瞳が、俺に答えを求めていた。


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