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女王様見習いの清楚お嬢様は、○○○の穴を埋めて欲しい  作者: 弥波明希
1章 女王様見習いの始まり

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4話 お嬢様とお食事

 今日の午前は散々だった。

 真白さんに「ストーカー」と言われ、クラスの女子達からは不審者扱い。

 変な空気になっていることに気が付いた真白さんが、「ただの冗談です。私達仲良しなので、えへへ」と訂正して女子は引いたが、今度は男子達から「どうやって仲良くなったんだ」と質問責めに合ってしまった。


 仲良くなった覚えはないし、仮に良かったとしてもきっかけを言えるわけがない。

 真白さんにも会話が聞こえていたのだろう。俺がうっかり秘密を漏らさないか不安だったのか、ずっと上の空に見えた。

 だからだろうか――。


「真白さぁん、日直だよぉ。早く黒板消さないと」


「……え、あっ、すみません! うっかりしていました!」


 名前を知らないギャルに呼びかけられ、真白さんは慌てて黒板消しを手に取り、なぜかこっちに向かってきた。


「待って待って! それは黒板じゃなくて黒川君だって! そんなに強くこすったらのっぺらぼうになっちゃうよぉ!」


「ひゃあっ! ごめんなさい黒川君っ! 私ぼーっとしてて……」


「さすがにそうはならんだろ」


 何をどうしたら黒板と人間を間違えるんだ?


「あーあ、黒川君。顔も制服もチョークの粉で真っ白じゃん。これが本当のお色直しってことでさ、いっそ白川君に改名しちゃう? お望みなら真白でもいいけどぉ」


「ななな、何を言ってるんですか! 黒川君とはそういう関係ではありませんし、そもそも黒を白にはすることはできません。改名しても灰川君ってとこですよ!」


「お前こそ何を言ってるんだ」


「その顔で動画投稿したら子供の時みたいにバズるんじゃない? 撮っていい?」


 ギャルが構えたスマホを押しのけ、俺は席を立つ。


「冗談は真白さんだけで腹いっぱいだわ」


 ケタケタ笑ってるギャルを尻目に顔を洗いに行く。教室に戻ると、真白さんが黒板の一番上をぴょんぴょんしながら消していた。見てると怒る気力も失せてくるな。


 そうして迎えた昼休み。


「くっ……くろきゃわ君っ!」


 ふたつのお弁当箱を両手で抱えた真白さんは、開口一番盛大に噛んだ。何をそんなに緊張した顔をしているのか。

 食事の前から噛んでいたら、顎が疲れるだろうに。

 

「どうしたんだい、まひぃろさん」


「だ、誰ですかまひろって! まさか、今日は私と約束していたのに、他の女性とも……!?」


 噛み返してみただけなんだが。


「くろきゃわ君こそ誰だよ。今朝は俺しかいって言ってたのに、もう他の男をみつけたのか?」


「失礼です! その言い方には語弊があります! まるで私が多くの男性をたぶらかす女スパイみたいじゃないですか!」


「そこまでは言ってないけど」


 また映画か何かの影響か? 女王とか女スパイとか、趣味が広いな。


「今日の黒川君はなんだか意地悪ではありませんか? ……もしかして私の弱みを握ったのをいいことに、好き放題するおつもりですか!?」


「普段どんな映画見てるんだ?」


「やめてください! そういうことを企む悪役は志半ばで退治させるのがお約束なんですからね!」


「語弊があるのはどっちだよ。……それで、お昼にするんだろ?」


「そうでした。……ふたりっきりになれる場所、ずっと考えていたんです」


 真白さんの言葉に連鎖するように、どこかでシャーペンの芯やら本体やらが折れた音が聞こえた。

 右を向くと殺意の波動を帯びた視線が刺さる。左にはブツブツと何かを呟きながら、血走った目でカッターを眺めているやつが居る。


「本当に語弊がありすぎる……」


 背中から襲ってくる殺意に身を縮めながら真白さんについていく。


 彼女が向かったのは、グラウンドの端にある大きな木の下だった。

 見晴らしがいい場所でベンチなどもなく、周りに人がいないという意味では密談にぴったりの場所だった。


「ふふん。伊達にスパイ映画で勉強していませんからね」


 ドヤ顔でそう言うと、真白さんは手早くレジャーシートを敷き、その上で正座になると丁寧にお弁当を広げ始めた。

 丁寧に揃えられた彼女の靴に見劣りしないよう、自分の靴を並べ、俺はシートの上であぐらをかく。


「お弁当は真白さんが作ったの?」


「そうですよ。料理は好きなんです」


 お弁当の中身は色鮮やかだ。梅干しとふりかけの乗ったご飯に、おかずは唐揚げ、卵焼き、キャベツのサラダに玉ねぎのベーコン炒め。

 俺のお腹がぐぅと鳴り、真白さんがクスリと笑った。


「時間も限られていますから、どうぞ召し上がってください」


「ありがたくいただきます」


「家族以外に料理をふるまうのは初めてなので、お口に合うといいのですが」


 期待と不安の混じった視線を感じながら、まずは卵焼きに箸をつけた。

 本当は唐揚げからいきたかったけど、もし冷凍食品だったら感想を言っても微妙な空気になりそうだから避けることにした。


「……ん。上手いなこれ。ふんわり柔らかくて、噛んだらじゅわっと出汁が口に染みこむ。店に出せるレベルだよ」


「本当ですか? よかった。親は美味しい以外言わないから、本当に美味しいかずっと不安だったんですよ。……ふふっ、嬉しいものですね。作った料理を喜んでもらえるのって」


「いやマジで美味いって。この玉ねぎも甘みがベーコンとばっちり絡んでて最高だし、正直想像以上だ。ありがとう」


「私の方こそありがとうございます。想像よりもずっと褒めてくれて」


「……食レポの才能あるだろ?」


 俺は誤魔化すようにおどけて見せる。

 意識していなかったが、つい彼女の期待に応えようとしてしまっていたらしい。

 もちろん言葉に嘘はないんだけど。


「黒川君って、お昼はいつもどうしてるんですか? 教室にはいないですよね」


「ああ、適当に売店でパンを買って、そこら辺で食べてる」


「ここでもてきとーな食生活を……。せめて食堂で食べてはいかがです? お野菜の多い定食メニューもありますし、自分で料理をしないなら、お昼くらいはちゃんとしたものを召しあがった方がいいと思いますけど」


「人の多い所は好きじゃないんだ。一緒に食堂に行く人もいないしな」


 真白さんの目が気まずそうに泳ぎだす。まぁ友達がいないって言ったようなもんだし、反応に困るよな。


「……えっと、そういえば黒川君ってひとりでいることが多いですよね。ちゃんと話したのは昨日からですけど、すごく話しやすいですし、人付き合いが苦手というふうには思えないんですけど」


「まぁそうだけど、人と一緒にいるのは疲れるんだよ」


 彷徨っていた青い瞳が、再び俺を捉える。

 緊張の色を浮かべた、真剣な眼差しで。


「それは、やっぱり――」


 真白さんは中身の残った弁当箱をシートに置き、その上に箸を揃えて乗せる。


「……黒川君の過去の話と、関係があるのでしょうか?」


 本題に入った。そう思える、声だった。


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