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女王様見習いの清楚お嬢様は、○○○の穴を埋めて欲しい  作者: 弥波明希
1章 女王様見習いの始まり

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3話 お嬢様は誘う

「おはようございます、黒川君」


 朝の登校時間。男子達の注目を集めながら校門の前に立っていた真白さんが、朝の日差しよりも眩い笑顔で俺に手を振ってきた。


「おはよう、真白さん」


 嫉妬と興味の視線がグサグサと刺さってくるが、彼女はなにも気付いてなさそうな顔で笑い、駆け足で俺の横へと並んできた。


「何か用でも?」


「はい。えっとですね……」


 歩幅を合わせる。肩が並ぶ距離になると、彼女は顔を近づけ、こそっと耳打ちしてきた。


「昨日は色々とお世話になりました。……例の件は、間違いのないようにお願いしますね」


 それは「約束破ったらただじゃおかないぞ」という警告だ。さすがお嬢様、脅しも上品であらせられる。


「わざわざそれを言うために待ってたのか?」


「いえ、それだけではなくてですね……。昨日気になったんですけど、黒川君ってお夕飯はいつもどうされてるんですか?」


「夕飯? いつも適当にやってるけど」


「適当に……カップ麺や炭酸飲料を?」


 チクリと言葉で刺してくる。昨日の買い物の内容を見せちゃったもんなぁ。


「俺はひとり暮らしだからさ。自炊はコスパもタイパも悪いし……」


「いけませんっ!」


 急に立ち止まった真白さんは、子供を「めっ」と叱るように人差し指を俺に突きつけた。


「あのですね、黒川君。適当という言葉は本来『ちょうどいい』って意味なんです。あなたの言うそれは、適当ではありません。いい加減な方の『てきとー』です!」


「国語の授業は三限だったと思うが」


「タイパとかコスパとか言って、栄養のバランスを全く考えてませんよね? そんな食生活を続けていては、今度はアタマがパーになってしまいます!」


「アタパってか」


「というわけで、今日は黒川君のためにお弁当を作ってきました」


「は?」


 話が飛躍し過ぎだろ。お前こそアタパか?


「忘れたんですか? お礼をすると昨日言ったじゃないですか」


「それでわざわざ弁当を?」


「お礼で納得いかないなら、秘密を守っていただくための賄賂ということにしますか? 賄賂って響き、映画の悪者みたいでかっこいいですね」


 真白さんがふふんと楽し気に笑う。親に隠れてスマホで何か見るのが趣味って言ってたもんなぁ。


「なのでお昼休みは一緒にお弁当を食べましょうね。今日は天気がいいですし、お外で食べるのも気持ちがいいと思いませんか? お花見には少し遅いかもしれませんが」


「もう桜も散ったもんなぁ」


「お日様の下でポカポカするだけでも、気持ちがいいですよ、きっと」


 真白さんは空を見上げ、眩しそうに目を細めた。

 染みひとつない肌に光がこぼれる。完璧で、だけど無防備な表情に視線が吸い込まれてしまいそうになる。

 ぼんやりとした間を置いて、桜色をした薄い唇がゆっくりと開いた。


「……実はですね、私の秘密を知ってしまった黒川君にご相談がありまして」


 さっきまでより一音低い、真面目な声。


「相談?」


「はい。あまり人に聞かれたくはないので、詳しくは昼休みに……」


 不審者丸出しでコスプレ衣装を眺めてる女の悩み事かぁ……。


「俺には荷が重い気が……」


「そこをなんとかお願いします! 私には黒川君しかいないって昨日気付いちゃったんですから!」


「気付いちゃったかぁ」


「はい、気付いちゃいました!」


「そんなの勘違いで、俺じゃだめかもってことには気付かない?」


「いいえ、黒川君なら私のよき理解者になってくれると確信しています!」


 疑いを微塵も感じさせない瞳がキラキラと俺を見る。

 意味が分からない。理解なんてしているわけがない。そんな言葉が喉につっかえて出てこない。

 昔からの悪い癖だ。期待されると応えようとしてしまう。唇を噛んで、今みたいに空っぽの笑顔を作って。……自分の心を見ないふりして。


「そこまで言うなら……昼休みにな」


「はいっ! 楽しみにしてますね」


 曇りなき彼女の笑顔に、胸の奥がモヤモヤする。少し意地悪な気分になってきた。


「そういえば昨日、俺と買い物中に会った後どうしたんだ?」


「どうとは?」


 きょとんとする真白さん。自分が音声入力していたことを覚えていないのだろう。

 約束を破る気はないので、彼女にだけ聞こえる声で、


「女王様にはなれたのかってこと」


 そう呟くと、真白さんはビクンと肩を跳ねさせた。


「っっ!? ななな、何を言ってるんですかっ! 私は別に、そんなの全然欲しいなんて……」


「今更無理だろ」


「いっ、いえいえ! だからあれは、ハロウィンの衣装のためで――」


「わざわざえっちな店に行こうとしといて?」


「――ふにゃあああっっ‼‼」


 俺の言葉は、真白さんの奇声によって消し飛んだ。

 ほっぺどころか耳まで真っ赤にして、彼女は今にも噛みつきそうな顔で俺を睨む。


 さすがにやり過ぎたと思って、謝ろうとした瞬間――。


「黒川君の……変態盗聴ストーカーあぁぁぁぁ!」


 彼女は俺に背を向け、すごい勢いで校舎へと一人走り去ってしまった。


 残されたのは周りから刺さるたくさんの侮蔑の視線。冤罪ってこうやって生まれるのかな。


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