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女王様見習いの清楚お嬢様は、○○○の穴を埋めて欲しい  作者: 弥波明希
2章 偽物わんちゃんの気付き

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11話 お嬢様とえっちな衣装

 放課後の俺の部屋。妙に気分が落ち着かないのは、小気味のいい包丁の音が聞こえるから。


「夕飯は親子丼でいいですか? 冷蔵庫が空っぽなので、買ってきた材料的にあまり選択肢ないですけど」


「なぁ、真白さん」


「今ならお味噌汁とサラダもついてきます。わぁお得」


「胡散臭いテレビショッピングの真似とかいらないから。それよりなんで料理を始めてるんだ?」


 家に帰ってからしばらくして、チャイムが鳴ったので扉を開けたら両手に買い物袋を提げた真白さんが居た。

 彼女は有無を言わせぬ笑顔のまま家に押し入り、今では包丁を持って台所を占領している。


 お嬢様な真白さんと袋からはみ出すネギ。そのギャップのせいか、家までの道中に何人もの男に声を掛けられたらしい。


 鴨がネギを背負ってくるという言葉があるが、真白さんは鴨の仲間なのかもしれない。


「なんでって、黒川君が悪い子だからです。あんな食生活だといつか絶対に身体を壊します」


「真白さんには関係ないと思うけど」


「関係大ありです! 『イケ犬』のアリスも言っていました。『わんちゃんの管理は飼い主の仕事』だって! だから黒川君の食生活は私が管理します。反論は受け付けませんから」


「今の強引さ、ちょっとだけ女王様っぽかったな」


 普段の姿に比べれば、だけど。


「ふふ~ん、そうでしょう。だから黒川君には、私の管理の元でしっかりとした食生活を送ってもらいます。明日の朝食分も用意しておくので食べてください。お弁当は私と同じメニューになりますけど、いいですよね」


「それはちょっと待て」


「なんです? お礼の言葉ならいくらでもお聞きしますが」


「さすがに弁当はだめだろ。今日は拾った犬の里親の話ってことでごまかしたけど、毎日一緒に食べるとまた周りにやかましく言われるぞ」


 今日一日だけでも男子達が殺気立っていた。それが毎日になったら凶行に走るやつも現れるかもしれない。

 それは困る。授業中におちおち寝ていられなくなる。


「別々に食べたらいいのでは? 私はいつも一緒に食べている人が居ますし」


 中身が同じなのは見れば分かる。誰の目にもつかない場所でこっそり食べるしかないとするなら……。


「便所飯をするしかないか」


「ベンジョメ? カフェの名前か何かですか?」


「真白さんが知るわけないよな」


 ネギを持ってるだけで声をかけられる美少女だし。


「異国感溢れる素敵な名前ですね。今度私も連れて行ってほしいです」


 もし一緒に行くなら男子トイレか女子トイレ、どっちがいいかな。


「……真白さんと行くことは絶対にないから、忘れていいよ」


「……急にいじわるです。そんなこと言うなら、私にも考えがありますよ? 躾も主人の大切なお仕事なんですから」


「考え?」


「ネギをとっても大きく切ってあげます。なかなか噛み切れなくて苦労する上に、ツンとした辛みのダブルパンチです。ふふっ、恐ろしいでしょう?」


「食べ応えがありそうだな」


「わんちゃんにはご褒美でしたか」


 クスクス笑いながら真白さんが料理を続ける。リズミカルな包丁の音は、きっとネギを切っているのだろう。


 すっかり「わんちゃん」呼びが定着してしまった。

 真白さんにそう呼ばれるのは嫌じゃないけど、たまには反撃したくなるな。


「買い物のレシート持ってきた? 払うから後で出しといて」


「別に構いませんよ。お小遣いはそこそこ貰ってるんですけど、あまり使うことがないので余ってるんです」


「さすがにそれは申し訳ないからなぁ。じゃあ違う形で返すよ」


「別の形、ですか?」


「女王様の衣装を欲しがってたし、俺が通販で買ってプレゼントする」


「へぁっ!?」


「今の声どっから出た?」


「な、ななななんで黒川君が私の衣装を買うんです? ありえません!」


「届いた荷物を家族が受け取ったら困るだろ?」


「で、ですがコンビニ受け取りとかもありますし……」


「買った後はどうする。部屋にずっと置いておくのは不安じゃないか? 親が掃除に入った拍子にみつかったりとか……」


「そ、それは……」


「洗濯はどうする? 親に隠して干せる場所があるのか?」


「うぐぐっ……!」


「俺の部屋に届けて、そのまま保管しておくのが一番安心だろ?」


 包丁の音が止まる。気になって彼女の方を向いたら、カウンター越しからジト目でこっちを睨んでいた。


「なんだよ」


「黒川君の変態」


「は?」


「お礼とか言って、本当は私にそういう服を着せたいだけですよね!? 分かってるんですからね、あなたが私のこと、そ、そういう目で見ていること……」


「そういう目?」


「え、えええっ、えっちな目です! 昨日あれを大きくしてたの、ちゃんと気付いてるんですからねっ! ああもうっ、何言わせるんですか!?」


 真白さんがキッと目を吊り上げる。

 だけどその顔はりんごのように真っ赤で、羞恥にぷるぷると肩を震わせていた。

 もう一押しだな。


「そうだな。昨日気付いたんだけど、どうやら俺は真白さんのことをえっちな目で見てしまっているらしい」


「~~! さいっていのわんこです! あなたなんてわんちゃんじゃなくて、わんこで十分ですっ‼ めっですよ、めっ!」


 さすが女王様。罵倒も個性的だ。


「そんな真白さんに可愛い服を着て欲しいって思うのは、当然だろ?」


「なにが当然ですか! ただ私にえっちな格好をさせたいだけのくせに!」


「わんちゃんの世話もご主人様の仕事だろ? わがままも聞いてくれないと」


「ぐっ……ずるいです、その言い方。そんなこと言われたら断れないじゃないですか……」


「任せろ。女王様にぴったりの衣装をプレゼントしてあげるから」


「りょ、良識の範囲内で……お願い、します……」


 顔を真っ赤にしたまま、真白さんは視線を手元に戻し料理を再開した。小さな声で「くそぉ、後で覚えとけよぉ」と聞こえてきて笑ってしまう。


 女王様が黙り込むと、お湯が沸騰する音が微かに聞こえてきた。

 誰かの料理する音を聞くのはいつぶりだろうなんて、詮無い感傷だよな。


「さて、どんな衣装がいいかな」


 とってもちょろい真白さんが、いつか悪い男に騙されないか心配になる。

 もちろん俺はいい人だから、俺が思う良識の範囲内でとっておきの衣装をポチっておいた。


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