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「神獣さんより先に、イドラ殿下の遺産を回収しますよ。ファイトー!」
「………………」
お城に連行されて暫く。
私はある日、ふと思いついたことがあり、用意された豪華な寝室で皇帝さんがやってくるのをただ待つ気がなく、執務室に突撃した。
名分としては「スレイン王朝の直系の姫を妻に迎えて統治する」というものを掲げた皇帝さんは、自分で王族皆殺しにしたことは棚に上げて「俺が姫を娶ればこの国の王家の血も続くだろう」と、家臣の方々に言い放った。
恐怖政治をしているのだろう。誰も異論を唱える者はなく、ラト伯爵が唯一「正式な婚礼を!!」と粘った。二年の妃教育を受けた後に、婚礼のお式をとそういう取り決めがされ私の身分が保障された。
「泣き暮らす気はないと?」
「私が??どうして????」
「ここへ来てから毎日のようにあれだけ泣いていた奴が何をいうのか……」
たかが一か月鬱ってたくらいで判断しないでほしいと私は鼻を鳴らした。
お仕事中の皇帝さんは私の突撃訪問に嫌そうな顔はしつつも、人払いをしてくれる。非常識も非常識だが、皇帝さんも毎晩暗い寝室でべそべそしてる私を見るより、太陽の光の差し込む部屋の中で私を見た方が良いだろう。たぶん。
「ということで皇帝陛下。ここに三つ、イドラ殿下の遺産があります」
「物騒な物を俺の机に置くな」
「ラト伯爵が回収してくれたんですけど、これ、まだちゃんと「怖い」感じがします」
飲み込めばあら不思議、神獣の対なる魔獣の出来上がりというブツだ。飲み込める条件はあるが。
【話を】
キィイイイン、と金属音。
私は眩暈がした。
一瞬顔を顰め、そして目を何度か瞬かせると、皇帝さんが停止している。
【そなた、なぜ魔獣の欠片を集めようとするのか】
停止した皇帝さんの後ろにいる、かろうじて人の形っぽく見える異形が、口らしい部分を震わせて私に問いかける。
【神獣が】
【ソレを集めきれば我を潰す力を取り戻すであろう】
【なぜそなたはそれを阻むのか】
【魔獣になることを拒んだのではないのか】
声は一度は若い女性、そして男性、老人、子供の声にと次々変わる。
【捨てられて】
【置き去りにされて】
【もう一度価値を取り戻したいと】
【焦がれているのか】
神様らしい存在は容赦なくズケズケ言ってくる。
なるほど、確かにその線も考えられるだろう。私は頷いた。私がソドムさんに捨てられたことがショックで、苦しくて、「あの素晴らしい愛をもう一度」と願って手を伸ばしているのかもしれないと、そう神様が考えたのも無理はない。
うんうん、と私は頷いた。
三流悪魔さんあたりが考えそうなシナリオである。神様も所詮その程度か。
「神様」
【何か】
「人を動かす最も強い感情はなんだと思いますか」
【……愛では?】
「ノン、恨みですよ」
私の前世はジャパニーズ。
喜怒哀楽だけでは説明のつかない複雑な感情を恨みつらみと表現するとても詩的な民族だ。
「人を散々悩ませてぐちゃぐちゃにして振り回しておいて……手垢がついたからあっさり捨てやがりまして私がどうしていつまでも泣いていないといけないんですか??????」
推しと目の前の存在と。人と鯨とペンギンと。
これでも理解しようと努めたのだ。自分の中の価値観、概念、これまでの人生観の色んなものをミキサーでかけながら、頭の中を駆け巡る色んな感情となんとか折り合いをつけようと。
「あんな顔を向けてきたくせに」
今も、ふとすると頭の中に浮かんでくるあのひとの顔と声。
べそべそ泣いて、皇帝さんにご迷惑をかけ続けて私の出した結論は一つ。
「魔獣になってソドムさんをぶん殴って、振る」
神様はその後また私にキィインってして泥を吐かせてくださいと、ちゃんとアフターフォローをお願いする。
【……………ひとの子の考える事が】
【よくわからぬ】
【つまりただの意趣返し?】
私の前世の文化ではケジメというのだが、異界の神様にそれを言っても通じないだろう。




