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第5話 明るくて熱くてひどく賑やかな

 人気のない階段の踊り場まで連れてこられた僕は、居心地の悪さに身じろぎした。


 冬峰ふゆみねさんの唯一の友人である彼女が、僕に何の用だろうか。


「単刀直入に言います」


「はい。」


 結城ゆうきさんは背筋を伸ばし、凛とした声で告げた。


りんと一緒に、音楽をやってくれませんか」


「なっ……!!」


 心臓が跳ね上がった。


 僕が過去に曲を作っていたこと。


 旧音楽室での出来事。


 すべて知られているというのか。


「どうして、結城ゆうきさんがそのことを……」


「当然です。わたくしもあの場にいましたので」


 やられた……あの光景をほかにも知っている人がいたというのか。


 いや、よく思い返すとそれも自然な形か。


 あの日、聞こえた言葉を思い返してみる。


りん、今日もあそこで待ちましょうか?』


『場所は分かりますか? わたくしが案内しましょうか?』


 ()()()、と結城ゆうきさんは言っていた。


 つまりは、前々からあの旧音楽室を使用していたことは知っていたわけで……当然あの日もいた。


 というのはつじつまの会う話だ。


「それで……知ったところで……」


「ああ、失礼しました。実は、わたくし、あなたと会話をするのは初めてではないのですよ?」


「え?」


 思わず、目が点になる。


 どっかで出会った記憶はない。


 とすると……


「お久しぶりです。ネット上では『ダチA』という名前で、凛の動画編集やアカウントの管理、広報などを担当している裏方です」


「『()()A()』……!」


 やはり……インターネットの海か。


 その名前に、僕は聞き覚えがあった。


 動画プラットフォームにおいて、非常に高い編集技術と洗練されたサムネイル作りで、一部のクリエイターから一目置かれている覆面のアカウントだ。


 表には一切出てこず、素顔を現したこともない。


 僕も一度だけ動画作成を依頼したことがあるが、その編集技術は間違いなく一級品だということは衝撃を受けた。


 まさか、それが目の前にいる大人しそうなクラスメイトだったなんて。


「あの時は……ありがとうございました。」


「いえ、ここからは本題です。りんが『アルタ』という作曲家の曲に、どれほど執着していたか。わたくしは一番近くで見てきました」


 結城ゆうきさんは静かに語り始めた。


りんは、圧倒的な歌の才能を持っています。でも、不器用すぎて、自分の魂を乗せられる曲に出会えずにいました。どんな名曲を歌っても、どこか空虚で、自分の声が浮いていると嘆いていたんです。……そんな彼女が、唯一涙を流して聴き入ったのが、あなたの作ったあの曲でした」


「……僕の曲は、ネットで心がないって叩かれた作品ばかりだ。あんなものに、才能豊かな彼女が執着する理由なんてない」


 僕が自嘲気味に吐き捨てると、結城ゆうきさんは一歩前に出て、僕の目を真っ直ぐに見据えた。


「ネットの有象無象の評価なんて、どうでもいいんです。重要なのは、りんの歌声を一番輝かせることができるのは、灰原はいばらさんの曲だけだという事実です」


結城ゆうきさん……」


「わたくしは、りんに笑ってほしい。彼女が心から音楽を楽しめる場所を作ってあげたいんです。……灰原はいばらさん、あなたのその才能で、りんを本当の天才にしてあげてくれませんか」


 それは、冬峰ふゆみねさんの言葉と同じくらい重く、深く僕の胸に突き刺さる言葉だった。


 ()()()()()()()()()


 僕の作った旋律が、誰かの魂の居場所になる。


 それは、僕が音楽を始めたころに思い描いていた、最も純粋で、最も欲しかった夢の形そのものだった。


「それは……高い夢ですね。非常に」


「ええ。それはもう、天高く舞い上がるような」


「あなたと彼女の熱意には負けました。」


 僕が諦めたように、苦笑いを込めると結城ゆうきさんはぱぁっと明るくなった。


「では!」


「ただし!」


 僕が指をさすと、結城ゆうきさんはびっくりした表情を見せる。


 条件というのは常に対等で無くてはならない。


「ただし、僕からも条件が一つあります」


「何でしょう?」


「それは……」


 結城ゆうきさんとの会話を終えた僕は、気がつけば旧校舎へと足を向けていた。


 もう逃げるのはやめよう。


 才能がないと諦めて、灰色の高校生活を送るなんて、ただの言い訳にすぎない。


 僕の中にはまだ、どうしても鳴らしたい音がくすぶっているのだから。

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