表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/60

第40話 どうすればいいをどうすればいい

日間ランキングに乗りました。皆様の応援のおかげです。

「…………は?」


 僕は絶句し、その場に完全にフリーズしてしまった。


 ()()()


 理系科目が苦手で勉強会の時には基本問題で詰まっていた彼女が?


 たった数日の勉強会と、あの強烈な執念だけで、一気に僕の順位を抜き去ったというのか。


「うそだろ……」


「嘘ではありませんわ。りんは、あの日から睡眠時間を削ってまで猛勉強していましたからね。彼女の執着心は、わたくしの想像を遥かに超えていたようです」


 結城ゆうきさんがくすくすと笑いながら、恐ろしい事実を口にした。


()()()……」


「あのりんが、ここまで爆発させるとは……灰原はいばらさん、あなた、愛されていますわね」


「愛されてるっていうか、執着されてるっていうか……」


 僕は背筋にゾクゾクと悪寒が走るのを感じた。


 学業の順位で、冬峰ふゆみねさんに完全に敗北してしまった。


 それはつまり、僕が彼女に『たっぷり罰を与える権利』を奪われ、彼女の好きなようにされる未来が確定したことを意味していた。


「……灰原はいばらくん」


 不意に、背後から底冷えするような、それでいて甘く震える声が響いた。


 振り返ると、そこには黒縁眼鏡をかけた冬峰ふゆみねさんが、静かに立っていた。


「ふ、冬峰ふゆみねさん……」


 冬峰ふゆみねさんは掲示板の僕の順位と自分の順位を交互に見比べた後、ふっと口角を上げ、誰にも見えないような極上の笑みを浮かべた。


「……私の、勝ちね」


 その一言には、音楽で完璧なテイクを録り終えた時と同じくらいの、圧倒的な達成感と優越感が込められていた。


 僕の隣にいた花穂かほが、冬峰ふゆみねさんの登場に少しだけ警戒して身を固くする。


冬峰ふゆみねさん、十三位なんだね。すごい……」


「ええ。目標があったから、頑張れたの」


 冬峰ふゆみねさんは花穂かほには冷たい視線を向けたままだが、僕の方へ視線を移すと、瞳の奥だけで熱く語りかけてきた。


『約束、覚えてるわよね?』


 その視線に射抜かれ、僕は完全に白旗を上げるしかなかった。


◇◇◇


 その日の放課後。


 僕の部屋には、僕と冬峰ふゆみねさんの二人きりになった。


「わたくしは家での作業がありますので、今日はこれで失礼しますわ。……お二人とも、テスト明けの解放感に任せて、あまり無茶はしないように」


「あたしも、今日は打ち上げで友達と駅前にカラオケ行ってくるね! 奏多かなた、また明日‼」


 結城ゆうきさんは全てを察したような笑みを浮かべて帰り、花穂かほもテストの解放感から早々に遊びに出かけていった。


 部屋の扉がガチャリと閉まり、鍵がかけられる。


 先日、妹に乱入された反省を活かし、今日は念には念を入れて鍵を二重に確認した。


 外の喧騒が完全に遮断され、濃密な静寂が部屋を満たす。


 冬峰ふゆみねさんは部屋に入るなり、学校でかけていた無骨な黒縁眼鏡を外し、机の上にコトンと置いた。


 そして、ふうっと深く息を吐き出し、僕のベッドの端に腰を下ろした。


「……やっと、()()()()()()()()()


 その声は、学校での冷たい『氷の令嬢』の面影は微塵もなく、ただ純粋に僕の温もりを求めて甘える、ドロドロに溶けきった少女の響きだった。


「……まさか、十三位を取るなんて思わなかったよ。本当に驚いた」


 僕がキャスター付きの椅子に座りながら素直に称賛すると、冬峰ふゆみねさんは立ち上がり、ゆっくりと僕の方へと近づいてきた。


 一歩、また一歩。


 彼女の甘いシャンプーの香りが、部屋の空気を満たしていく。


()()()。私、絶対に負けたくなかったもの」


 僕は後ずさりしようとしたが、背中がパソコンデスクにぶつかり、逃げ場を失ってしまった。


「あでっ‼」


「……あなたから、あの権利をもらうために」


 冬峰ふゆみねさんは僕の目の前で立ち止まると、スッと両手を伸ばし、僕の首に腕を回してギュッと抱きついてきた。


「っ⁉」


「……約束、覚えてるわよね?」


 胸元に顔を押し付けられ、冬峰ふゆみねさんの柔らかな体温と、狂おしいほどに速い心拍数が直接伝わってくる。


 制服越しでもわかるほどの熱量。


 冬峰ふゆみねさんは僕の胸にすりすりと頬を擦り付け、さらに強く抱きしめてきた。


冬峰ふゆみねさん……あの、これは……」


「私が勝ったんだから、私があなたにたっぷり()を与えていいのよね? あなたが日向ひなたさんと仲良くしてたことへの罰も込めて」


 上目遣いで覗き込んでくる冬峰ふゆみねさんの瞳には、隠しきれない独占欲と、僕に対する重たいほどの愛情が渦巻いていた。


「罰って……具体的に何を……」


 僕が震える声で尋ねると、冬峰ふゆみねさんは悪戯っぽく微笑み、僕の耳元にスッと顔を近づけた。


 甘く湿った吐息が、僕の鼓膜をくすぐる。


「……()()()()()


 冬峰ふゆみねさんが、僕の部屋でだけ見せる甘すぎる命令。


 それに逆らうことなんてできるはずもなく、僕は言われるがまま、ゆっくりと目を閉じた。


 視覚が遮断されたことで、他の感覚が異常なほどに研ぎ澄まされていく。


 防音室の無音の世界の中で、衣擦れの音がひどく生々しく響いた。


 彼女が僕の膝の上に、ゆっくりと跨るようにして密着してくる気配。


 柔らかな重みが僕の太ももに乗せられ、彼女の両腕が僕の背中へと深く回される。


灰原はいばらくん……」


 僕の頬を、彼女の熱く湿った吐息が優しく撫でた。


 顔が近い。


 唇と唇の距離が、もう数センチもないことが気配でわかる。


 僕の心臓は口から飛び出しそうなほど激しく鳴り響き、繋がれた手から伝わる彼女の脈動と完全に同調していた。


「私、ずっと……()()()()()()()()……」


 震える声が耳元を掠め、僕の全身に甘い痺れが走る。


 見えないからこそ、次に何が起こるのかという期待と焦燥感が際限なく膨れ上がっていく。


 冬峰ふゆみねさんの髪の毛先が僕の頬をくすぐり、ふわりとした柔らかいものが僕の唇の端に微かに触れた。


冬峰ふゆみね……さん」


「……これが、()()()()()よ。絶対に、逃がさないから」


 甘く、切実な宣告。


 僕はもう完全に理性を手放し、唇を受け入れようと顎を少しだけ上げた。


 距離がゼロになる。


 しかし。


 ――柔らかく温かいものが触れたのは、僕の唇ではなかった。


「……んっ」


 ちゅっ、という微かな水音と共に、僕の右頬に、冬峰ふゆみねさんの震える唇がそっと押し当てられたのだ。


 ほんの一瞬の、けれど確かな熱を帯びた、不器用なキス。


「……え?」


 予想外の感触に僕が目を開けると、そこには耳の先まで茹でダコのように真っ赤に染め、涙目になっている冬峰ふゆみねさんの顔があった。


 自分の大胆すぎる行動と、唇を奪う直前で恥ずかしさに耐えきれなくなって逃げてしまった自分自身への羞恥で、完全にパニックに陥っているようだった。


「ひゃああっ‼ ち、違うの‼ 本当はもっとちゃんと……でも、恥ずかしくて……‼」


 冬峰ふゆみねさんは両手で顔を覆い隠し、僕の胸元にぐりぐりと頭を押し付けてきた。


 先ほどまでの挑発的な態度はどこへやら、完全にキャパシティオーバーを起こしてドロドロに溶けきっている。


「……君から仕掛けてきたんだろうに」


「だって、だってぇ‼ いざとなったら、心臓が爆発しそうになっちゃったんだもの……‼」


冬峰ふゆみねさん……」


 僕が苦笑しながら冬峰ふゆみねさんの華奢な背中をそっと撫でると、彼女はさらに僕の胸に強くしがみついてきた。


灰原はいばらくんのバカっ‼」

カクヨムでも同作品を先行して投稿しております。

先が気になった方はそちらもご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 凄まじい、恋愛奥手臭。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ