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欲しいのは毛布と君――朝焼け図書館の生徒会クーデター  作者: 乾為天女


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12/20

第12話 見出しは反乱

 翌朝、校内新聞の号外が掲示板を占領していた。


 『生徒会クーデター勃発』


 文字が大きすぎて、隣の献血案内が完全に負けている。


 見出しの下には、智が腕を組み、明日香と向かい合う写真があった。実際は安全確認表を見ている場面なのに、切り取り方だけで政権交代の直前に見える。


 「クーデターしてない」


 私が言うと、新聞部の三科結衣は胸を張った。


 「会則に基づき、執行部の決定へ異議を申し立て、臨時総会で再審議を求める。十分に反乱的です」


 「合法的な再審議」


 「見出しが弱い」


 「事実を弱い強いで決めないで」


 「本文には書いてあります」


 号外を読む。


 一段目には、手続きが正式なものであること、総会で決められる範囲が生徒会回答の撤回と継続要請までであること、施設を開ける判断には校長判断が必要なことが記されていた。


 二段目には、二十三人の利用者、必要な機能、黎明館の安全上の問題。


 三段目には、誤植騒動が『副会長の私情による蜂起との疑念を招いた』とある。


 「最後はいらない」


 「読者が一番知りたいところです」


 「違う」


 「閲覧数では一番です」


 結衣は数字の記録を見せた。


 智が横から号外を読み、表情を硬くした。


 「鳥羽会長が、冷酷な権力者のように見えます」


 「本文では安全上の懸念を述べる慎重な会長と書いています」


 「見出しと写真だけを見る人もいます」


 「だから全文を読んでほしいんです」


 「強い言葉で呼び込み、本文で修正する方法は、人物へ傷を残します」


 結衣の眉が少し上がった。


 智は注目が集まることを、これまで有利な条件として扱っていた。閲覧数が増えれば、聞き取り結果も読まれる。誤植さえ利用できると思っていたはずだ。


 けれど、自分たちではなく明日香が悪く見える号外を前に、数字だけでは決めなかった。


 「訂正版を出してください」


 「どこを訂正しますか。事実の誤りはありません」


 「見出しです」


 「見出しは評価です」


 「では、抗議文を出します」


 「同じ大きさで載せます」


 二人とも引かなかった。


 明日香が掲示板の前へ来た。


 号外を上から下まで読む。


 「反旗は校則で禁止していません」


 結衣が笑った。


 「会長公認ですね」


 「ただし、廊下で振ると危険です」


 明日香が視線を動かす。


 廊下の角で、智が丸めた白布を背中へ隠した。


 「それは何」


 「公開討論用の視覚資料です」


 「旗でしょう」


 「文字を印刷する前なので布です」


 「棒が付いています」


 「掲示補助具です」


 「没収します」


 智は本物の反旗を渡した。


 「なぜ用意したの」


 「見出しに合わせれば参加者が増えるかと」


 「さっき強い言葉を批判したばかりでしょ」


 「反省しています」


 「旗を作る前にして」


 明日香は布を生徒会室へ運ばせた。


 結衣がその場面まで撮ろうとしたので、私はカメラの前へ立った。


 「訂正要求だけでは、また見出しの話になる」


 「では、どうしますか」


 「公開討論をする」


 智と結衣が同時にこちらを見た。


 「号外を消さない。見出しだけ見た人に、全文を読ませる」


 「方法は?」


 「新聞部が司会。生徒会長、副会長、早朝利用者、図書室側が出る。最初に、見出しから想像した内容を参加者へ聞く。その後で実際の手続きと安全条件を説明する」


 結衣はすぐ手帳を開いた。


 「面白いです」


 「面白さだけで決めないで」


 「訂正より届きます」


 明日香は少し考えた。


 「発言者の家庭事情は聞かない。利用者名を本人の許可なく出さない。施設を残すか、という二択にしない。それなら参加します」


 「二択にしない?」


 「黎明館を継続使用するには一億二千万円前後かかる可能性があります。建物保存だけを議題にすれば、必要な居場所まで一緒に否定されます」


 母が示した旧食堂区画の図面を思い出した。


 場所を守ることと、そこにあったものを守ることは、同じではない。


 「議題を変える」


 私は言った。


 「『黎明館を保存するか』ではなく、『早朝の居場所をどう継続するか』に」


 智が腕時計を見た。まだ始業まで七分あるのに、彼の時計では四分しかない。


 「臨時総会の告示を修正するには、今日の正午までに生徒会執行部で文案を確定し、選挙管理委員会へ提出する必要があります」


 「間に合う?」


 「三分早く動けば」


 「時計の三分を制度に使わないで」


 明日香が、生徒会室の鍵を出した。


 「今から作ります」


 私たちは朝の廊下を走らず、できる限り速く歩いた。


 生徒会室で議題案を並べる。


 『黎明館の保存および早朝開室の継続について』


 智が旧案へ線を引いた。


 新しい文案を書く。


 『早朝に登校する生徒のための、理由を求めず安全に滞在できる場所と支援機能の継続について』


 「長い」


 結衣が言った。


 「見出しにできません」


 「見出しのための議題じゃない」


 「でも読まれません」


 瑚大が、横から紙を見た。


 「朝の居場所を残す、ではだめですか」


 短い。


 建物名はない。


 けれど、私たちが残したいものは入っている。


 「正式議題は長い方。通称はそれにする」


 明日香が決めた。


 結衣は手帳へ『朝の居場所を残す』と大きく書いた。


 「次の号外は?」


 私が警戒すると、彼女は笑った。


 「見出しは『反乱、目的地を変更』です」


 「まだ反乱を残すの」


 「連載なので」


 正午前、修正版は受理された。


 臨時総会で問うのは、古い建物への愛着だけではない。


 誰が朝の責任を負うのか。


 何にいくらかかるのか。


 安全を守りながら、理由を説明したくない人をどう受け入れるのか。


 数字と勤務体制を示さなければ、賛成は集まらない。


 放課後、尚久さんが厚い封筒を抱えて生徒会室へ来た。


 「年間運用費を出しました」


 机の上へ置かれた紙束は、毛布より重そうに見えた。


 「百七十八万円です」


 数字を聞いた瞬間、反乱の見出しより現実が大きくなった。



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