表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲しいのは毛布と君――朝焼け図書館の生徒会クーデター  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/13

第10話 鳥羽会長、鳩に敗れる

 鳩は、窓の外から黎明館を見ていた。


 正確には、窓枠に止まり、首を前後させながら室内をのぞいていた。


 明日香は大型書架の陰から動かなかった。


 「鳥羽会長」


 「静かにしてください」


 「鳩は人の会話を理解しないと思う」


 「理解するかもしれません」


 「さっき瑚大が、おはようございますって挨拶したけど無視された」


 「油断させています」


 彼女は片手に安全確認表、もう片方に筆記具を握っている。顔だけが書架から少し出ていたが、鳩がこちらを向くたびに引っ込んだ。


 昨日まで、生徒会長は何が起きても机の前から動かず、必要事項を順番に片づける人だと思っていた。


 今は書架の陰で、鳩との長期戦に入っている。


 「窓は閉まってます」


 智が確認した。


 「入ってきません」


 「ガラスの存在を鳥が尊重する保証はありません」


 「物理的にはあります」


 「想像力が足りません」


 「僕は発想が豊かだと言われます」


 「今はいりません」


 瑚大が窓へ近づいた。


 「鳩さん」


 「話しかけないで」


 「会長は本日不在です」


 鳩は首を傾げた。


 「交渉が通じました」


 「こちらを見ただけ」


 私は笑いそうになったが、明日香の手が白くなるほど確認表を握っているのを見て、やめた。


 苦手、という言葉では足りないらしい。


 「外が見えなければ動ける?」


 「たぶん」


 「目を閉じて歩くのは危ない」


 「分かっています」


 私は毛布棚から、威厳ある虎と会議後の虎を取った。


 「毛布を何に使うんですか」


 「壁」


 智と瑚大に端を持ってもらい、書架の陰から廊下側の出入口まで、窓を視界へ入れずに歩ける短い導線を作る。


 「前だけ見て」


 「虎が二頭います」


 「鳩よりいいでしょ」


 「比較対象としては」


 明日香は虎柄の間を歩いた。


 瑚大が後ろから、反省中のパンダを追加する。


 「後方も守ります」


 「何から」


 「鳩の増援です」


 窓の外には一羽しかいない。


 それでも明日香は振り返らず、出入口までたどり着いた。


 廊下へ出て扉を閉めると、肩から息を吐いた。


 「ありがとう」


 短い声だった。


 「誰にも言わない」


 私が言うと、明日香は眼鏡の位置を直した。


 「別に秘密ではありません。鳥類を避けて行動しているだけです」


 「校内放送のカモメで机の下へ入ったことも?」


 「音響設備の下を点検しました」


 「机の裏側を?」


 「念入りに」


 明日香は話を終わらせるように確認表を開いた。


 もう一度黎明館へ入るとき、智が窓へ段ボールを立てた。鳩はいつの間にか飛び去っていたが、明日香は段ボールが外されるまで書架の陰を通った。


 安全確認は容赦がなかった。明日香は重い東窓を何度も動かし、非常口前の折り畳み机をずらした。延長コードは一本ずつ床へ固定させ、暖房器具の周囲から毛布を遠ざける。補修済みの天井板には毎朝目を向け、最後に「責任者が不在なら開室しない」と太い線を引いた。


 「最後は困ります」


 智が言った。


 「尚久さんか道貴さんのどちらかが急に来られないだけで、二十三人が使えなくなる」


 「責任者がいないのに開ける方が困ります」


 「代替責任者の制度を」


 「先に学校が任命し、勤務として扱うなら可能です。生徒が勝手に代役を決めるのは不可」


 明日香は線を引いた。


 「善意の人が来られるときだけ開く場所は、続く仕組みとは言えません」


 言い方は厳しいが、閉めるためではない。


 続ける条件を示している。


 私は確認表の余白へ、さっきの毛布導線を描いた。


 「これは?」


 「窓を見ずに歩ける道」


 「鳥対策を正式な安全表へ入れないでください」


 「視界を遮る必要がある人の誘導には使える。体調が悪くて光を避けたいときとか」


 明日香は図を見た。


 「毛布を人が持つ方法では、両手がふさがります。衝立か、壁面の誘導幕に変更してください。通路幅も最低限確保すること」


 赤いペンで、私の図を直す。


 否定ではなく、使える形へ変えていた。


 「鳥羽会長」


 「何ですか」


 「反対するために来たんじゃなかった?」


 「危険な運用には反対です」


 「安全なら?」


 明日香のペンが止まった。


 「必要性と費用を見ます」


 すぐ賛成とは言わない。


 でも、最初から結論を決めているわけでもない。


 確認を終え、朝の利用者が教室へ向かった後、智が明日香を生徒会室まで送った。私も記録紙を持ってついて行く。


 廊下の窓へ雀が二羽いたので、明日香は内側を歩いた。


 生徒会室へ着くと、彼女は扉を閉め、智へ向き直った。


 「一つ、確認します」


 「何でしょう」


 「なぜ、会長を通さず始めたの」


 智は答えなかった。


 黎明館を手伝い始めたのは、私が声をかけ、彼が規則の中で方法を探したからだ。


 けれど、智は生徒会副会長だった。


 会長へ相談せずに、会長が撤回を求められる側へ回る流れを作った。


 明日香の問いは、手続きの話だけではないように聞こえた。


 「私が反対すると決めていたから?」


 智の三分進んだ腕時計が、静かな室内で小さく秒を刻んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ