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新たな命~終章

 読んで戴けたら倖せです。


 間違えて終章の方を先に投稿してしまったので置き換えたら終章が入らなくなってしまいました。

 ので「新たな命」の後に終章が入ってます。

 読みずらくてすみません。

   新たな命


瑞基は、隆一朗と云う存在を失くした時から、この世界で自分か存在する意味を失くしていた。


 瑞基の手首に隆一朗と同じ傷が刻まれた。


 瑞基は手首に巻かれた包帯を見ながら、彼女を失った時の隆一朗の苦しみを思い出していた。


『隆一朗はもっと辛かったんだ

 でも隆一朗、オレも凄く辛いよ

 お願いだからオレを連れに来て』


 瑞基はベッドに伏して泣いていた。


 チャイムが聞こえた。


「まあ、可愛い」


 玄関から綾子の黄色い声が聞こえた。


 暫くして部屋のドアがノックされた。


 瑞基は無視した。


 少しして、もう一度ノックされた。


「瑞基君、入っていいですか?

 森詩織です」


 瑞基は思わずドアを振り返った。


 ドアが恐る恐る開かれた。


 すっかり大人くさくなった森詩織が立っていた。


「森さん……………………」


「隆一朗さんの訃報を知ったの

 どうしても瑞基君が心配で来てしまった」


 森詩織は申し訳なさそうに言った。


「あの時は酷いこと言ってごめんなさい」


 瑞基は顔を背け俯いた。


「今のオレを森さんには見られたくないよ」


「もしボクが瑞基と離れる事があったら瑞基を支えて欲しいって隆一朗さんに言われた事があるの」


 瑞基は大きく目を見開いた。


「隆一朗が? 」


 瑞基は森詩織を振り返り見詰めた。


「瑞基君が変な噂でバスケの選手を下ろされた時に、まだ高校生だったワタシに深々と頭を下げて

 だから、ワタシは心に決めてた、瑞基君が隆一朗さんと離れる事があったら、何があろうと支えようって

 今がその時かなって逢いに来た」


「隆一朗………………」


 瑞基の目から涙が溢れた。


 赤ん坊の泣く声がした。


 綾子が赤ん坊を揺すりながら現れた。


「オムツかしらねえ」


「おいで、隆一朗」


 森詩織は赤ん坊を綾子から抱き上げた。


 瑞基は驚いて赤ん坊を見詰めた。


「隆一朗って」


 森詩織は赤ん坊をあやしながら言った。


「瑞基君が一番口にする名前にしたかったの」


「じゃあ、その子は………………」


「勿論、瑞基君の子でしゅよ

 ねえ、隆一朗」


 綾子は仰天した。


「瑞基の子!? 」


「隆一朗、パパにご挨拶は?

 瑞基君、抱いてあげてくれる? 」


 瑞基は車椅子のタイヤを押して赤ん坊の傍に寄った。


 森詩織が赤ん坊を差し出すと、瑞基は恐る恐るぎこちない手つきで赤ん坊を抱いた。


「一歳になったの」


 淡いブルーのベビー服を着た小さな隆一朗は、瑞基の腕の中で小さな手足をバタバタと元気良く動かしていた。


 その感触は小さいのに力強く生命力に溢れていた。


 その様子を森詩織の陰から覗き込むように見ていた綾子が言った。


「新米パパは抱っこが下手でしゅねえ」


 瑞基は森詩織を見上げて言った。


「どうして、堕胎したなんて嘘言って去ったの? 」


「つわりが辛くて瑞基君に電話した時、叫び声が聞こえて瑞基君隆一朗さんの名前呼んで通話を切ったの

 その前にワタシのアパートで、人一倍責任感の強い隆一朗さんが仕事ばっくれたって聞いたから、きっと隆一朗さんに大変な事が起きてるんだって思った


 どう頑張ってもワタシは隆一朗さんに勝てないのは解っていた

 だからあの時言った言葉は本音なの

 いい意味でも悪い意味でも


 でも、瑞基君の負担にはなりたくなかった

 それはワタシの意地だった

 ワタシは美裕(みゆ)ちゃんの言う通り、どこまでも都合のいい女なのね

 だから、実家に帰って一人で瑞基君の子を育てようって心に決めたの」


「森さん……………

 オレ、なんて言って謝ればいいんだろう」


「謝って欲しくて来たんじゃ無いよ

 瑞基君を支えたくて来たの


 隆一朗さんを失った瑞基君の空白をワタシ一人が埋められないのは解ってる

 でも、今は隆一朗がその分を埋めてくれるって思ってる


 もしできたら、隆一朗を池旗隆一朗にしてあげて欲しい

 認知されてないから隆一朗は私生児なの」


「オレにそんな資格あるの?

 ずっと森さんをないがしろにして来たんだよ

 チビ隆一朗の事も……………」


 森詩織は哀しげに笑った。


「でも、瑞基君にしかできない事だよ」


 瑞基は小さな隆一朗を見詰めた。


 小さな隆一朗は目を開け、じっと瑞基を見ていた。


 その目はとても澄んでいて、この世の醜さに染められない、本当に純粋で無垢な輝きを放っていた。


 瑞基の中で小さな灯火が灯り始めた。


 瑞基は隆一朗の言葉を思い出していた。


「森さんて云う女性が、平気で一つの命を殺してしまうとは思えない

 まして心から愛するキミの赤ちゃんを堕胎すなんて考えられない

 今度もし、森さんに逢うことがあったら、今度こそ彼女の為に生きて欲しい」


 瑞基は目を閉じた。


「森さん、言葉で謝って許されない様な事をずっとオレは森さんにして来たんだ

 それでも、森さんはオレを支えに来てくれたの? 」


 瑞基は小さな隆一朗の手のひらを指で触れた。


 小さな隆一朗は瑞基の指を握った。


 柔らかい温もりが瑞基の指を心地よい力で包んだ。


 森詩織は言った。


「隆一朗には瑞基君が必要なの

 瑞基君に隆一朗を愛して欲しい」


 瑞基は森詩織を見詰めた。


 森詩織は問うような表情を瑞基に向けていた。


 瑞基は目を伏せて言った。


「オレ、隆一朗に言われてるんだ

 もし、もう一度森さんに逢うことがあったら、今度こそ森さんの為に生きて欲しいって」


 瑞基は森詩織を見上げた。


「オレの中の隆一朗は消えない

 それでもオレに、このチビ隆一朗の父親になる事は許されていい事なんだろうか」


 森詩織は屈むと瑞基に優しい笑顔を向けた。


 森詩織の頬に涙が伝った。


「その言葉をずっと待ってた

 何年もずっと………………」


 瑞基は片手で森詩織の手を握った。


「隆一朗、チビ隆一朗に逢うのをとても楽しみにしてたんだ…………

 きっと喜んでくれたよ

 オレと森さんが倖せになるのを心から願ってくれてたから」


 瑞基は小さな隆一朗の頭にそっと頬ずりした。


 柔らかな髪が瑞基の頬をくすぐった。


 暖かな匂いがした。


 瑞基の腕の中で、小さな隆一朗はいつの間にか、やすらかな顔で眠っていた。


 それはまるで、瑞基が誰なのかを知っているかのように。




     第三章  fin



     終章


「瑞基君とワタシは隆一朗さんの喪があけると籍を入れ結婚しました


 瑞基君は隆一朗を、それこそ目に入れても痛くないほど可愛がっていました

 三歳になかったらピアノを習わせるのだと口癖のように言って


 よく、同じ夢を見たそうです

 お天気の良い初夏の午後、緑の鮮やかな庭で、歩けるようになったばかりの小さな隆一朗がはしゃぎ回っているのをワタシが追い駆けているのだそうです


 それを椅子に座った隆一朗さんがとても嬉しそうに見ていて、その隣で瑞基君が紅茶を飲んでいる、そんな夢を


 でも瑞基君はずっと歩く事ができませんでした

 そして、弱って行った


 原因不明の激しい頭痛に悩まされ、ある朝寝室のベッドで、苦しんだのでしょう、乱れたシーツに伏して亡くなっていました

 でもその死に顔は驚くほど穏やかで、手には隆一朗さんからの想い出のピックが握られていました


 奇しくもその日は隆一朗さんの二度目の命日でした


 ワタシは思うのです

 二重の意味で愛し合う事が許されなかった隆一朗さんと瑞基君はきっと前世からの恋人で、求め合うあまり同じ子宮から生まれ、互いを守ろうとするあまり二人共男として生まれたのではないのかと


 今は何処かで生まれ変わり、巡り逢うのを心待ちにしながら、誰かの家の子供として育てられているのでしょう

 そしていつかまた巡り逢い、あの哀しいほど儚い時間を力強く愛し合うのでしょう


 ワタシのお腹には瑞基君との二人目の子が宿っています

 こうして命は巡り、誰かと愛し合える時を待っているのかもしれません

 抗(あらが)うことのできない前世からの愛を………………」




        ラプンツェルの接吻  fin






    Ship building

 

  船を築こう この風の海を越えて


  果てのない地上の享楽の地で


 全裸のボクとキミは飾りのない言葉で


 語り合うんだ


 とても他愛ない話を




 船を築こう


  この紺碧の空を超えて


  果てのない砂漠を見渡して


  もう一度ボクとキミは


  幻想に惑わされながら


 考えなおすんだ


  とても 日常的なことがらを




  船を築こう


  壊れても また 築こう


  大勢の貧しい人々が


 愛を語っている


 大勢の哀しい人々が


  生を語っている


 そして ボクにはキミが


  与えられたんだ




 船を築こう


  この星と月と黒い空間に


 砂と塩水と風と僅かな花びら


 それらでできた船を


 手探りしながら浮かべて


 永遠に揺られていよう


 


 船を築こう


  キミはボクに言う


 友人の名前や今日のできごとなんかを


 そして 微笑むんだ


 ひまわりのように太陽に似せて


 緋色の光を浴びて


 とても 日常的に


     by 隆一朗









 長い間、お付き合い有り難うございました。

 よく跡を追うようにと言う表現がありますが、仲のいい夫婦の片方が亡くなると残された方も時をおかずに亡くなる事があるとよく話に聞きます。

 隆一朗と瑞基もそうなんじゃないかなと思っています。

 隆一朗と瑞基の物語を読んで下さり有り難うございました。


 ずっと毎日、読んで下さり感想を書いて応援して下さった水渕成分様、本当にご苦労様でした。

 そして、有り難うございました。

 途中色々ありましたが、お陰様で完結することできました。


 皆様にはこの作品が心の何処か片隅に残ってくれたら嬉しいです。

 

Ship buildingと云う隆一朗が瑞基の為に書いたと云う設定で書いた詩を最後にくっ付けました。

 良かったら読んでみて下さったら嬉しいです。<(_ _*)>


 ラプンツェルの接吻 聖流編の修正版も投稿しようと思っています。

 いつになるか解りませんがまた、お付き合い戴けたら倖せです。

 

 それでは皆様お身体大切に、またお逢いできたら倖せです。




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― 新着の感想 ―
ふたりの愛が本当に切なく、しかしその大切な人を互いを思いやる想いの強さと弱さも含めて、真っ直ぐに描かれていて。読み進めるごとに私の心はじんわりと満たされていきました。哀しいけれど、たくさんの幸せも感じ…
2024/10/29 05:41 退会済み
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[良い点] 2つの魂を受け止めて、1つの魂を育んだ、この物語の日陰の主人公(ごめんなさい)である森さんによるナレーションでの終わり方が、映画のエンドロールのように素晴らしく心地よかったです。 [一言]…
[一言] 最後、涙が出ました…素敵なお話を、ありがとうございました。
2023/01/02 01:12 退会済み
管理
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