92話 二人の王子
レオンとルシアンは正反対なようでよく似ていた。
乱暴や横暴が目立つが、カリスマ性で目を引くレオン。
繊細で頼りない一面もあるが、誠実で実直なルシアン。
見た目も正反対な彼らは、その実、性能がよく似ていた。
「もう終いか、口ほどにもない」
「くそっ、行くぞルシアン!!」
「うん、打ち合わせ通りだね!!」
王宮内の剣術訓練場にて、我は二人を同時に相手していた。
もちろん持つのは真剣、斬って突けば死ぬ。
だが、戦いとは常に生存の奪い合い。
自分が打ち取られれば破滅に繋がる王に必要なものは、経験だ。
双方向からくる斬撃は、なかなかに重い。
剣一本では防げないと考えているのだろうが、それは甘い。
一歩早く届いたレオンの剣は、我が剣で受け流す。
続けて届くルシアンの一撃は、鞘を取り出し受け止める。
「えっ」
「そんなっ」
レオンを受け止めた剣をちょうどよい位置に滑らせれば、全体重の乗った攻撃の重さそのままにルシアンにそれは降り注ぐ。
勢いよく斬りつけたレオンは、すぐには止まれない。
回避しようとするルシアンも、我が鞘が邪魔で剣で受け流せない。
二人が目を閉じた頃合いを見計らって、レオンの腕を蹴り上げて剣を落とさせる。
続けて鞘に込めた力を抜き、ルシアンの顎下を強く突いた。
吹き飛んだ体は、同時に地面につく。
動きは悪くなかった、太刀筋もよく似通っている。
兄弟のように同様の教育を受けたのだろうか。
「レオンは体格に寄りすぎている、制御を覚えろ。ルシアンは制御はできるが大きな爆発力がない。何度でも挑んで来い、死なせはしない」
「へっ、こんなんで、まだまだぁ!!」
「待ってよレオン!!陛下、ご指導ありがとうございます。でも僕たち、そろそろ予定があって」
「ルシアン、今いいところだっただろう!?俺たちは弱い、ここで強くなれば、守るために」
「でも、この後ディアーナ様とエラ嬢とお茶の約束があるでしょう?それはすっぽかせないよ」
「それは、いけない。エラが待つなら……」
王宮での過ごし方は、特に制限をしていない。
我に教えを乞うてもいいと申し付けてあるが、彼らにとってディアーナを篭絡することのほうが重要だ。
あのディアーナが、誰かに惚れるなど万に一つも考えてはいない。
合理でありながら、大胆に行動する娘だ。
しかも、自らの動きを止められることは、好きではない。
だが、すべてに肯定で返すものも良しとしない。
気難しく、頭の切れるディアーナだ。
あれが選ぶ男は、ディアーナにとって最大に利益をもたらすだろう。
なおのこと、ディアーナはこの国に居られては困る。
まだ、王位排斥ができない中で多くの支持を得られるわけにはいかない。
「おい、ディアーナとはどうなっている」
「どう、ですか?う~ん……僕はこの間、泥遊びをしました。とても楽しかったです」
「ルシアン、泥遊びだと。我は聞いていないが」
「ディアーナ様が提案されたんです。一緒に遊んだんですけど、見事に服泥だらけで。でも、専属使用人のメリーさんに洗ってもらいました」
「王子とは思えんな」
「ステラディアは農業ばっかりで、僕は暇さえあれば畑仕事してたんで慣れてます」
「レオン、貴様はどうだ」
「俺は……泥遊びはしてないです。あまり、馴染みがないもので。本当に、王族らしくもない」
「レオン!!ごめんなさい陛下、ソルディアは海に面してるから、泥には慣れてないだけなんです」
「余裕だな。それとも、ディアーナに媚びない策か、あるいは、子供だと侮っているか。期限は、長くないぞ」
二人に告げているのは、ディアーナが正式に婚約者をとれる10歳になったその日、決めるということ。
その時点で選んだことには、責任が生じる。
属国の二人は、逆らえないことだ。
残り一か月ほど。
人間の心というものは何で動くかわからない。
無駄にできる時間は、そうないはずだ。
「っ、陛下だって、エラを後妻にって聞きました。15は年が違うのに、庶民なのに、よく妻として考えられる」
「や、やめよう?やめようねレオン。すみません陛下、僕たちはこれで……ほら行くよ」
「離せルシアン、まだ言いたいことが、エラは」
「だめだって!!えと、失礼します陛下―!!」
華奢だと思っていたルシアンは、見た目よりも力があるらしい。
我に噛みつかんばかりだったレオンの腕を引き、走って王宮へ戻っていった。
勢いというものか、無謀というべきか。
我があのくらいの頃は、何をしていたか。
そうだな、ヴァルカンティアで武者修行をしていたか。
そうであれば、彼らは今、大きな成長のただ中にあると言える。
肉体も、精神も。
ここで何を選ぶかで、彼らは国の命運すら決めてしまう。
奇妙なことだ、あの時代の我とここまで似通うとは。
「どーも、随分と余裕ですね。自分の娘をかけて、王子たちが競ってるっていうのに」
着替えようと私室に向かう途中、話しかけてきたのはジークだった。
王宮内で話しかけてくるのは、珍しい。
別邸には何度も来る奴だが、王宮内ではディアーナの専属使用人としての態度を崩さずいたというのに。
気配は一つ、単身でここに来たようだ。
「何の用だ」
「共有だけ。最近、側近たちほぼいなくなったんでしょう?なら、詳細な王女争奪戦を知らせておこうと親切心を発揮しました」
「必要ない、去れ」
「おやおや相変わらず。でも、俺がたまに来るおかげでディアーナ様の事把握できて、安心して好き勝手させてるのわかってます?そうじゃなかったら、月光国のことだって早々に承認できなかったでしょう」
「裏カジノの話は、事後報告だ。得意げに言う前に、過程から報告すべきだろう。二重スパイのつもりか」
「残念、三重スパイ。ヴァルカンティアの仲間と連絡は取りあってますし、ディアーナ様の専属使用人は今の本職。あんたは最後のついでです」
「頼んだ覚えはない」
「あたりまえでしょう。ディアーナ様が動きやすくするために、俺が勝手にしてることですから。もしかして、自分のためとか思ってました?」
「要件を言え。時間の無駄だ」
のらりくらりとやってきて、たまに情報を落としていく。
ジークの言うことはもっともだが、完全に信頼もできない。
側近の裏側も、不死の呪いも、アンナとの約束も、知らないだろう。
知ってほしいなど、微塵も思わない。
「特報。レオンは、ディアーナ王女なんて眼中にない!!エラにご執心で、隠そうとはしてるけど俺にはバレバレですね。どうなんです?あんたがエラを後妻にしようとしてる噂なんか、みんなすっかり知ってるんですけど」
「わかりきった情報だ」
「同年代に惚れるのは仕方ないですかねぇ。逆に、ちゃんと付き合ってるルシアンがすごいというかなんというか」
今日の打ち合いの時の噛みつき様、我への態度。
ディアーナではなく、エラの名を呼ぶ様子。
現状、庶民という立場でしかないエラを、次期国王たるレオンが気に掛ける利益は薄い。
ルシアンは、わかっていて隠そうとした。
「レオンは、激情がある。あれは、面白い」
「え、気持ち悪っ。今時寒いですよ、というか感情理解できてるじゃないですか。進化おめでたくないけどおめでとうございます」
何が起こるか、まだわからない。
どちらかが我の側近となり、どちらかはディアーナの伴侶となる。
すべてはディアーナの采配次第だが、どちらを選んでも我は構わない。
しいて言うならば、動かしやすい者ならば、よい。
「じゃ、また何かあったら来ますよ。さっさとくたばってることを願って」
「来なくていい」
ジークは、足音小さくどこかへ行った。




