↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
92/112

91話 側近の崩壊

王宮に長く滞在するのは、久しぶりのことだった。


多くの使用人の足音、大臣たちとの討論、少なくなってきた側近たちの報告。

それに加え、ディアーナ、エラ、レオン、ルシアンの気配。


年若いものが多いからだろうか。

王宮内の空気は、どこか落ち着きがない。



「ディルクレウス王、先日の月光国の件ですが、新しく交易のための承認をお願いいたします」

「裏カジノのことか。交易は、聞いていない」

「先日、ディアーナ様が裏カジノと交渉したのですよ。彼らは荒くれ者ばかりと思っていましたが、独自の交易ルートを持っておりまして。ディアーナ様が間を取り持つことで、ディオメシアにも恩恵をと」

「まさか、裏カジノを懐柔したか。以前、裏カジノを国として認めるよう申請があったのはそれか」

「はい。ディアーナ王女は素晴らしいですね、長らく険悪だったというのに、話し合い一つで解決されてしまう。アンナ王妃譲りですかな、これは」



我が王宮を空け、兄弟国へ赴いている間にディアーナはかなり暴れたらしい。

話し合いで解決と大臣は言うが、本当かどうか。


王宮内で、細かい傷だらけのディアーナの専属使用人たちを見た。

想像することしかできないが、己の手足である専属使用人たちをうまく使ったのだろう。


アンナに似て、うまいことだ。

承認のサインをしてやれば、大臣は機嫌よく戻っていった。

新たな交易とあれば、ディオメシアが潤う。

経済も下向きだった現在、国を憂う大臣たちは喜ぶのだろう。


我としては、王族の評判をあげることは思わしくないのだが。

ディアーナの功績は、うまく立ち回ったことは、それは素晴らしいことだ。



「やはり、ディアーナはすぐにディオメシアを出て行ったほうが」

「失礼いたします陛下。本日おそばにつかせていただく側近の」

「ノックもなしに入室とは礼がなっていない側近だな」

「ノック、しました。ごめんなさい、お返事がなかったので」

「許可があるまで入るな。なぜそれができない」

「申し訳、ございません。あの、王族の返答はいらないと、申し送り書に」



考え事をしていたら、側近のノックの音に気が付かなかった。

我の耳が鈍ったか、側近のノックが弱いのか、どちらなのだろう。


今日来た側近は、まだ十代だろう少女だった。

最近、いや前にかなりの数の側近を粛正してから、ずっとこの状態だ。

二十代の若者か、十代の少年少女。

我が若者を殺さないと考えているのかと疑ったが、そうでもないらしい。



「貴様、おとといも来ていたな。別の者はどうした」

「もう、人数がそんなにいないんです。皆、陛下に」

「それほど殺していたか。まだいると踏んでいたが」

「わたしの、おじさんが大人一人だけで。引き継ぎもあんまりできていないんです。申し訳ございません、陛下」

「そうか。どうも、我は貴様らを崩壊寸前にまで至らせているのだな」

「……は、い。だから、どうか、殺さないでください……!!」



耳を疑った。

殺さないでくれと、この少女は我に向かって願ったのか。


殊勝な心掛けだ。

これまでの側近は皆、命の危機に瀕して初めて命乞いをしたものだが。


気まぐれに少女をよく見れば、手が震えている。

床に、水滴をいくつも垂らしている。

うつむいているとは思ったが、泣いているのか。



「貴様は、我を恨むか」

「そ、れは。でも、そんな」

「構わん、申せ。貴様は切り捨てないと誓おう。この執務室に二人のみの今は、何を言おうとも不問だ」



幼い少女だ。

ディアーナと大きく年も違わないだろう。

この年代の子供を、繁殖ではなく執務目的で送り込まれたことはない。


つまり、側近一族の生き残りは皆若いとみるべきだ。

不死を至上とする思想に飲まれず、人間らしい人間の可能性は捨てきれない。


少女は、崩れ落ちた。

そして、大声で泣き声をあげたのだ。



「う、わぁぁぁぁ……かえして、おとうさ、おかあさ、おじいちゃ、おばあちゃぁ」

「死人は生き返らない。貴様らは狂ってはいるがただの人間だ」

「でもっ、でもっ。なんで、なんであの日、殺したんですか!!わたしの、みんな!!」

「貴様らが、我の血族を殺してきた報いだ」

「ころしてないっ!!殺してないもん!!みんな、生き返らせたくて」

「死にたい者を生に縛り付け、何度病もうが構わず、産ませ増やさせて何を言う」

「何も悪くない!!みんないい人だった!!祝福、繋いでいくのが使命なんだよって、お父さんも言ってた!!」

「では、貴様らの使命は大本から間違いなのだと知れ」



椅子から立ち上がり、少女の前に膝を折る。

片手で頭を掴み、顔を上げさせれば、涙と鼻水にまみれたひどい顔。

しゃくりあげ、体を震わせる姿はただの子供だった。


我への憎悪、祝福への執着、王族への愚弄も何もない。

側近ではない、これは、ただの人間だった。


情けないほどに、純粋で、我が殺すべきではない者だった。



「聞け。お前たち側近が死んだのは、報いだ。我は、お前たちを根絶やしにする」

「ふっ、うう、や、やだ」

「嫌だと言ったな。では貴様に問う、王家の祝福の存続は、真に必要か?」

「なんで、だって、祝福は、すばらしいって」

「違う。その頭に刻め、祝福を尊ぶあまりに貴様らは死に絶える」



だから、潰えろ。

そう言いたかった言葉は、喉の奥で潰れた。


『そこまでにしろ』と。

『まだ子供だ』と、聞こえるはずのない声が頭に響く。


少女の頭を掴んだ手を緩める。

これ以上、痛めつけてはいけない。

これ以上、責めて泣かせるべきではない。



「へ、へい、か……?」

「貴様、今の声は」

「こ、え?わた、なにも」

「ああ、そうか、ならば、幻聴か」



聞き忘れるはずのない声、夢の中だけで聞こえるはずの声。

赤銅色の髪も、緑色の瞳も見えはしない。


それでも、忘れるはずがないのだ。

アンナの声を。



「……貴様、選べ。使命か命、命を選べば逃がしてやる」

「えっ……そんなの、えらべない」

「命を選び、ディオメシアから出ていけば放置してやる。生き残りに伝えるがいい」



心臓が燃える。

痛みとも、熱さともわからない。


これは、わかる。

感情がひどく動く感覚だ。


その感覚を鎮めようとするうち、気が付けば少女はいなくなっていた。

馬鹿げたものだ、奴ら一族皆殺してやると息巻いていたというのに。

だが、アンナがなだめるのであれば、仕方がない。


数日の後、側近一族の年若い者たちが消えたと報告を受けた。

どこに行ったのか、知る由もない。


側近一族がほぼ壊滅した知らせは、ディアーナたちの耳に入らぬまま時間は過ぎた。

大きな波も、立たなかった。


溜飲は、下がることがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。