90話 兄弟国への提案
兄弟国。
我とアンナで打倒し、属国とした国。
よく覚えている。
奴らの策に翻弄されたことも、ジークたちの力を借りたことも、それより以前に我が初めて殺されたときのことも。
その積み重ねの上に、現状がある。
ソルディア、ステラディア両国の王が我が眼前に腰かけ、居心地悪そうに見つめる。
当然だな。
機嫌を損ねればどうなるか、想像できないものは王に向かない。
「それで、本日はどのような用件でしょう……」
「いきなりの来訪、とても驚いている」
「お前たちに、機会をやろう。戦いから数年経っても復興が難しい貴様らに、喜ばしい話だ。属国になって、よかったな」
「機会とはまた。もしかして、援助をしてくださるのですか!?」
「なんということだ。ああ、あの日の降伏は無駄ではなかった……!」
喜ぶ両国の王たちは、我よりも年を重ねている者たち。
年齢ですべてを図ることなど不可能だ。
だが、想像はできないのだろうか。
我が、何を求めてここまで来たか。
我は、足りないものを求めてきた。
我は、どこまでも簒奪者なのだ。
「我が娘、ディアーナを嫁にやる。帝国ディオメシアの王族と姻戚となれば、影響力は計り知れないだろう」
「ディルクレウス王の、しかも次期女王となられるディアーナ様を!?でも、それは」
「お待ちください。それは、その、誰に嫁入りするのです?ソルディアとステラディアは実に親密ですが、独立している国なのです。夫婦は一夫一妻が普通、であれば問題が」
「察しがいいな。それは、これから決める」
「こ、これから!?」
「お前たちの未来を担う次期国王である王子二人を、ディオメシアに寄越せ。二人を競わせ、ディアーナに選ばれたほうに嫁がせる」
「そんなこと、我々の子に、国を代表して争えと言っているようなものですぞ!!」
「そう言っている。貴様らの息子たちは優秀だと聞き及ぶ、我はどちらでもいいのでな」
属国の中で、最も有能かつ万が一側近がやってきても跳ね返せるだろう国。
それが、ソルディアとステラディア。
我が望むのは、ディアーナの安寧。
エラを守る手立ては見つかった、だが時期にディアーナは10歳になる。
初潮が来れば、残った側近どもが男を用意してくるだろう。
それまでに、ディアーナを逃がす。
ディオメシアの影響がない属国以外に話を持ち掛けたいが、大事の際に駆けつけることができたほうがいい。
後妻が決まった今、ディアーナの夫を決めると言えば側近どもも邪魔はしないだろう。
「どちらか、一人か」
「選ばれなければ、それは」
「そのまま祖国に帰れば、負け犬になるだろう。生憎、兄弟国と言えど2国に支援する気はない。ディアーナが嫁いだら、金も地位も手に入るのはどちらかだけだ」
「そんなの、耐えられない……!」
「だろうな、だから救済案をやる。選ばれなかったほうは、我の側近にしよう」
我が欲しいものは二つ。
ディアーナの逃亡先と、側近の代わりを務められる有能な人間。
代わりを用意すればいい。
そうすれば、側近を根絶やしにしてもディオメシアは回る。
何より、我の言うことを忠実に聞く犬がいい。
いずれ起こす、ディオメシア王政の崩壊すら加担できるような。
「王子を差し出し、競わせれば王族の加護がどうあれ手に入る。貴様らにとって悪い話ではあるまい」
「そうですね、それがわかるのであればルシアンも少しは心安らかでしょう」
「ああ、レオンに責を負わせてしまうのは酷だが、王のなるのであればこれくらいは」
「言い忘れていた。それぞれの王子にこの会談の内容を口外するのは禁止とする。負ければ国が没落すると思ってもらわなければ、死力を尽くして競わんだろう」
「そんな!!ディオメシア王にも子がいるのであればわかるでしょう!?我が子に辛い思いはさせられません」
「同意する。ステラディアはまだ子がいるが、ソルディアはもうレオンしか後継がいない。大事に育てたく」
「貴様らがぬるい競い合いをして、それがディアーナの何になる」
「あなたには、親心というものがないのですか」
「貴様ら普通の人間と、我々ディオメシア王族は違う。その娘を嫁にやる意味も、我の側に置く意味も、等しく重い。ディアーナが抱える重責など、貴様らの足元にも及ばん」
呪いを背負い、多くの国を背負い、民を背負い。
信頼できるものも限られ、心を病み、戦いに赴かねばならない。
わかってたまるものか。
理解されたいとも考えないがな。
しばらくの後、王たちは各々次期国王となる息子をここに呼んだ。
断れるわけがないのだ、困窮する国と自分の子一人を天秤にかけて、子をとる王はそういない。
現れた青年二人は、ちょうど昨日出くわした側近と年近い若者だった。
「ソルディア国第一王子、レオン。召喚に応じ参じました」
「ステラディア国第三王子、ルシアン。同じく、参りました」
太陽降り注ぐソルディアらしく、日に焼けて体躯にも恵まれたレオン。
山に囲まれたステラディアの、星のようにたおやかで無駄な肉のないルシアン。
先の戦いで、兄弟国の王族は何人も死んでいる。
その影響で、後継者は特に厳しく教育をしたらしい。
国の仇である我を前にして、目を逸らさず礼をする姿。
その心意気は、買うべきものだ。
「話は聞いたな。貴様らには、我が娘ディアーナをめぐって争ってもらう。選ぶのは我ではなく娘だ、祖国のために気に入られるよう奔走するんだな」
「はい、ですがいいのですか?我々とディアーナ様では10歳年の差がある」
「レオンと言ったな、問題はない。我が娘は、貴様らよりも頭が切れる。せいぜい置いて行かれないよう、励め」
「っ……無礼を申しました」
「わかればいい。ルシアン、貴様はどうだ」
「え……はい。あの、特に、ありません」
「そうか、ではディオメシアに戻る。すぐに準備をしろ」
気質の違う二人の王子。
せいぜい死力を尽くすがいい。
争いの中で、生物は成長する。
成長しない者は、そばに置けやしない。
我ながら、妙案を思いついたものだ。
これは、3つのものを得る策。
ディアーナの逃亡先、側近に代わるもの。
そして、兄弟国の不満を高める。
いずれ滅ぶために。
恨まれても、心臓の温度は変わらない。
感情というものは、捉えることが難しいな。
アンナ。




