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6話 地下教会での決意

温かい体温が、抱えている。

ぼくの、この体を。


痛くもない、もう傷一つない。

背中もきっときれいだ。


だけどぼくは覚えている。


側近たちの会話を。

何かの祈りを捧げていたことを。

ステラディア国境での仕打ちを。


ぼくが、間違いなくあの時死んだことを。



「ディセル、兄様……」

「起きた、起きて、しまったんだな。ディルクレウス」

「どうして、ここに」

「お前が、お前が死んだと。蘇りのために運ばれたと……すまなかった、父王が約束を破るなんて、思わなかったんだ」



目を開けて、周囲を見渡す。

広くて、天井が高い空間だ。

見下ろせば、ここは数段高い場所になっているらしい。


赤い絨毯がまっすぐ引かれ、燭台がいくつも並べられて、すべてに火がついている。

絨毯が伸びる先は、ぼくが寝ていた祭壇。

まるで生贄だ。



「お前には、お前だけにはこんな思いさせたくなかったのに」

「それは、捨て石になること?死んでも生き返るって、兄様も姉様も、知っていたの?知っていて、黙っていたの」



ディセルの兄様から流れる涙が、何の涙なのかはわからない。

だけど、これで合点がいった。


兄様姉様が、ずっと隠していた秘密。

それが、ぼくらが死んでも生き返れるということだって。

言葉より何より、兄様の顔が本当だって言ってる。



「ディルクレウス。すまない、わたしは、父上を止められなかった……!」

「ディセルの兄様。兄様だけです、心配してくれたのは」

「何を言う!他の兄様たちも、姉様たちも皆お前のことを心配して」

「もう、わかった。……駒だ、王の、駒でしかない」

「ディルクレウス……?」



わかっている。

兄様たちは、戦いの最中に何度も死んで、何度も甦らされて病んでしまった。

姉様たちは、政略結婚のためにディオメシアに気軽に帰ることができない。


それでも、どうしても、子供のように考えてしまった。

『どうしてディセルの兄様しか、そばにいてくれないのか』


こんな目に遭って、ようやく合点がいった。


ぼくは、兄様姉様たちに、本当に大切に育ててもらったこと。

そして、あの父王は生まれて一度として、自分を息子だと見ていなかった事実。


ひょっとすると、兄様姉様たちすらも……。



「安心してくださいディセル兄上。あなただけは、無事に逃がしましょう。兄上様姉上様は……逃げられるなら逃げればいい」



戦争は、何度もあった。

前線に居たら、いくつ命があっても足りない。


父王様は、わかってて兄様達を戦地に送り出したんだ。

ステラディアに、わざとぼくが行く連絡なんてしなかったように。

『何度も蘇る王子』なんて、都合がいいことこの上ない。


魔法みたいだ。

始祖ディオメシウスが、何度倒れても戦い続けた逸話。

文字通り、何度死んでも生き返って戦っていたなら。



「いい、いいんだディルクレウス。休もう?一度死んでいるんだ、心に深い傷が」

「兄様達は、何度死んだの。何度『生きさせられた』の」



思い出す。

ディオメシウスの逸話の物語を書き写したときの、姉様たちの顔。

戦いの後、見舞いすら許してくれなかった兄様達。


皆、等しく呪われている。

それを利用して、飼い殺されている。


姉様たちの婚姻は、遅い方だった。

兄様達だって、誰かと結婚していてもおかしくないのに皆独り身で。

誰がそうした?


父王以外、いないだろう。


その父王だって、もしかしたら王になる前は同じことをさせられていたかもしれない。

だからといって、情は一つも湧いてこない。



「ディセル兄様、決めた。すべて、終わらせる」

「ディルクレウス……」



15年、優しい世界で生かしてくれた兄姉たちに。

今度は、自分が返す番だ。


全て知った。

もう子ども扱いはさせない。


我が、守ろう。

すべてから、解き放とう。


呪いを終わらせるためには……。





「負傷者多数!前線崩壊、退却をお命じください!」



馬の蹄の音、味方が動くごとに擦れあう鎧、怪我をして苦しむ兵士のうめき。

ここは、ステラディア国境近くの森。

ほんの数か月前、一度自分が死んだ場所。


『無抵抗のディオメシア王子を瀕死に追い込んだ』


その大義名分を盾にして始まった戦争は、小国のはずなのに連携の取れた2国のせいで消耗が激しかった。


愚王はいつものように兄様全員を前線に投入していたが、心を病んだ者が突撃できるわけがない。

突撃すれば死。

それだけで終わるならまだしも、我らはあの生贄の祭壇のような地下教会に連れていかれれば蘇生してしまう。


普通であれば、ここで撤退すべきだろう。

だが、相手が悪かったな。


我は、呪いに復讐するもの。

死なないのであれば、好都合だ。



「動ける者は我と共に来い。5分だ、それだけ生きられる自信のあるものだけでいい」

「し、しかしどうされるのですか。他の王子方は皆後方へ下がってしまわれました」

「我が出る。来ないものは後方へ行け!!そのまま王宮へ戻れ。なんと言われようが戻れ。戦果は我らが持ち帰る」

「無茶です!!だってディルクレウス様はこれが初陣で」

「問題ない。何があっても『我は』王宮へ戻れる」



森の木々に紛れた人影を視認する。

ステラディアでも、ソルディアの兵でもない。

無論、我らディオメシアの軍勢の者でもない。


見覚えのある黒衣、見えるだけで2人はいる。

側近一族がいるだろうことは兄様達から聞いていた。

王族を何があっても死んだら運び、蘇生させるために戦場にはいつも潜んでいるのだと。


であれば、恐れるものはない。



「準備はいいな?これより、5分間で突撃を行う。一人2人は殺せ。ここで意欲を示したものは、褒賞を与えよう」

「ですが、敵の矢が厄介です。近づけません」

「盾でもあれば……ですが、皆の分はありません。先ほどの攻撃で壊れています」

「盾ならあるだろう。……我が盾だ」



死なない体、何度でも生き返る体。

利用しないでなんになる?


兵たちを背に、剣を抜いた。

研ぎ澄ませた我の剣技が、一人でも多くの武功を上げるのであれば。

迷いはない。



「我が名はディルクレウス!!始祖ディオメシウスの伝説を体現するものなり!!……突撃!!!!」



雄叫びと共に、少数ながら飛び出す。

矢が降り注ぐ。

剣で薙ぎ払うも、鎧を、皮膚を突き破る痛み。

額に掠って、あの時のように血で前が見えなくなる。


構うものか。


この戦いから始めるんだ。


我の、復讐の覇道が。

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