表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/71

53話 隠す苦痛

時間が経つのは早い。

すでに、アンナが嫁入りして5か月が経つ。

この王宮は、彼女がいるために少々騒がしくなっていた。


今日も執務室には、大臣と側近が来る。

だがそれに加えて、兵士は朝と夕に一人、訪れるようになった。



「陛下、おはようございます!!王妃殿下から、今日の訓練を始めるとのご伝言です」

「今日の訓練内容は」

「はっ。午前は東に20キロの村まで歩兵訓練、午後は帰還しながら途中の村にて武器なし手合わせです!!」

「アンナの装備は」

「過不足なく、大事ないとのこと!!」

「いい。下がれ」



これが新しい日常になっていた。

暇を持て余したのか、我との手合わせだけでは足りないのか。

アンナは、非の打ちどころのない兵士の訓練工程を提案し、その指揮を自分で取ると言い出した。


当然、側近はそんな暇があるなら子供をと噛みつく。

だが、夜には戻るという条件付きで我が許可した。


アンナが無事であれば、戻らず訓練に集中してもいい。

彼女を拘束する気はない。

それを受け入れられないのは、側近。

……だが、不満は残る。


指揮官はアンナだ。

兵隊長ではなく、朝夕の報告は彼女がすべきではないか。


書類や、各村々や町の資料に目を通していると扉が叩かれる。

目を向ければ、側近の年嵩な男がいた。



「失礼します陛下。ご機嫌はいかがでしょう」

「何の用だ。呼んでいない」

「最近王妃の勝手が目立ちましてね。そのお話をしたかったのですが、また外に出てしまう」

「すべてディオメシアのためになるものだ。兵の力量は以前より明確に上がっている」

「ええそうですね。で、戦争はいつですか」

「する気はない。まずは国内の情勢の安定を図る」

「もっと大国に、もっと家族を増やしたいという始祖ディオメシウスの思いを無碍になさると。なんと嘆かわしい」



泣きまねをする爺めが。

側近一族はこうして嫌味を言うことで、生きる喜びを得ているのではないか?

数年続いた戦争から衰えた国力を戻しているのが、誰だと思っている。


嫌な顔をしようが、舌打ちをしようが、奴らにとっては響かない。

無視をすれば、ここぞとばかりに無駄なことしか言わない。

追い出せば、アンナがいる時を狙って嫌味を言いに来るだろう。



「百年前の人間が、現在に何をする。呪いだけ残して消えただろう」

「仕方ないのですよ、祝福はそういうもの。王位を譲るか、60歳を数えたら消えてしまう。我々はその祝福をくださった始祖に感謝し、多くの国を従えることこそ使命」

「くだらない」



なぜ、歴代の王は戦争ばかりしていた。

なぜ、誰も血を絶やそうとしなかった。


人間でありたいと願って子孫を残したか?

それとも、限られた時間で贅沢な暮らしがしたかったか?

どれも我はいらない。


戦争をして、早く蘇生が見たいだけの奴らの言い分に、乗ってやるものか。



「時に陛下。お子はまだですかな」

「まだ5か月だ」

「でしたら愛妾を迎えましょう。いいのがきっとおりますよ?ほら、探せばあの黒髪のツキだって」

「その名を、出すな。殺すぞ」

「ええ、ええ。次代を作れるのであればそれで構いませんとも。行方はつかめませんがね?あの女を、昔陛下お好きだったでしょう!?一度だけでできているとも思えませんし」



右腕を、何とか左腕で抑える。

服の下で、虫が這うような怖気がする。

生々しい感触を、思い出しそうになる。


その口、切り裂いてしゃべれなくしてやろうか。

お前の代わりはいるんだろう。


近頃、思い出すことが多くなってきた。

アンナ嬢が温かいと知ってしまった日から。


ツキの体温がどこかで重なる。

もういるはずがない、一度だけの生暖かさに吐き気がする。


まだ、そのような行為に至ったことすらないというのに。



「……アンナのことで来たのだろう。話が終わったなら戻れ」

「ああそうでしたそうでした。で、王妃様は何をしに?」

「兵たちの、訓練と、移民の村の視察だ」

「よく働きますね。そんなことをするくらいなら、励んでほしいものだ」

「……貴様も働け。戦争は、国が安定するまでしない」

「陰に日向に、働くのが側近でございますよ。では、ここらでお暇しましょう」



側近を睨みつけたまま、奴が出ていくのを待った。

足音が遠くなった瞬間に、心臓が大きな音を立てる。


息が苦しい。

喉が渇く。

ひどく寒い。


アンナがいない。

温かい、彼女がいない。

使用人に火を起こさせても、心臓が寒い。

まだ、冬は先だというのに。



「陛下?……陛下!!どうされました!?」

「さわ、ぐな。すぐ、おさまる」

「どこが痛みますか。胸ですか!?側近を呼びますか」

「やめろ。言うな、それ、と」

「わかっております。王妃様にも秘密ですね」



騒々しい声は、幼いころから聞いたメイド長のもの。

彼女が手を握るが、どこか違う。

硬くない、武器を握らない手。


死なないのだ、死なないがこの発作はどうにもならない。

アンナには、言えない。

あの日、背後から抱きしめられた日から、この発作が起きるなどと。


呼吸を整えようと目を閉じる。

そのまま数分、ただ耐えた。

激しい心臓の鼓動と、悪寒と、震え。

それだけだ、病でも何でもない。



「……迷惑を、かけたな」

「いいえ。薬草茶を持ってまいりましょう。落ち着かせる作用があるんですよ」

「聞いたことが、ない。茶だろう」

「最近城下で話題なんですよ。ちゃんと毒見をしました茶葉ですからね」



メイド長が部屋を出ていく。

情けない話だ、最近になって、アンナがいないとこうなる。


毎回ではないが、外傷でも病でもないこの症状。

密かに医者を一度頼ったが、原因がわからないという。


問題は、ない。

耐えればいいだけだ、死の気配もない。


アンナは、移民を受け入れた村々の視察と、環境改善に余念がない。

着々と信頼と、この王室の支持をあげていると報告が入った。


その彼女を、精力的な彼女を、止める理由などありはしない。


メイド長の持ってきた茶は、妙な味がした。

だが、これを飲むと発作がわずかに楽になる。

出所がはっきりしないものなど、飲むべきではないのだろう。


だが、秘密にすればいい。

言わなければ、知られなければ、それはないことと同義だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ