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4話 末王子の初仕事

今日は、緊張の日だ。

いつもの身支度よりも念入りに、鏡を見る。

髪、乱れていない。

服装、皴もない。

顔色は、ちょっと興奮して赤い。


しょうがないだろう。だって、初めて父王様に玉座の間に呼び出されたんだから。

何年ぶりだろう、幼いころから話した記憶もあんまりないけれど。



「ディルクレウス様、緊張されていますか?」

「ツキ……うん。だって、こんなことなかったんだ。兄様達が戦いから戻ってきたら、ちゃんと報告しないと」



兄様達はまた戦いに行った。

4人揃って、またぼくに何も言ってくれないで。


おととい、ぼくは15歳になった。

だけど、一番上の兄様はぼくと会ってくれなくて、話はできない。

他の兄様も、今回は戦いに出る前に会えなかった。


父王様は、相変わらず王宮に留まって指揮をしてるらしい。

同じ王宮に住んでいるのに、ぼくは遠目から姿を見るしかなかった。

でも今回呼び出されたってことは、もしかして戦いに出してくれるのかな。


心臓が鼓動する。

今日は玉座の間に他の貴族もいるって話だ。

父王様と2人きりじゃない状態で、もし戦いに出ることを許されるってことは?



「ようやく、大人として認められたってことに、なるんだ」

「そう、でしょうか……戦いがいいものだとは、あたしは思えないです」

「女は戦えないからな。ちゃんと端のほうで見ててくれ、ぼくは立派に拝命するよ」



玉座の間の扉は、大きい。

背が高くなった僕の倍はある。

そこをくぐれば、まだ空の玉座を前に数十人の貴族が立っていた。


各家の当主に、令嬢も連れている者がいる。

鮮やかで流行を取り入れたドレスを纏う女性たちは、ぼくを見るとあからさまに微笑んだり、流し目を送ってきた。


変なの。

ぼくに色目を使ったって、第五王子だから意味ないのに。

ぼくを散々生まれで貶めたのは、お前たちじゃないか。

兄様達が今ディオメシアに居ないからって、汚らわしい。


なんだか気分が悪いけれど、玉座の前に立って父王を待つ。


そして、その時は訪れた。



「お前にソルディア・ステラディアへ友好を結ぶ遠征を頼む」



玉座に座った父王様は、ぼくにそう言い渡した。

冷ややかで、気だるげで、目を合わせてくれないけれど、偉大な国王。

その人からここで下される勅命は、どれだけ重大なものか。



「あの結束固い兄弟国に?まだ成人の儀も受けていないだろう、末子は」

「いきなりそんな重大な役目、できるのか」

「でも他のご兄弟を戦場から戻すなど、陛下が認めるはずもない」



貴族たちの声が聞こえてる。

そうだ、確かソルディア国とステラディア国は別名「兄弟国」と呼ばれるほど結びつきが強い国。

海側のソルディア、山側のステラディアで隣り合う2国は、互い以外の他国の干渉を極端に嫌うと聞いたことがあるけれど……。


そこに行って、友好を結んで来いってことか。

戦いじゃないのか……拍子抜け。



「明日、出発せよ。共は好きにするといい、ただし5名以下で向かえ。それに加えて側近から二人、そちらに付かせる」

「戦いでは、ないのですね。ぼくは、力不足でしょうか」

「お前にしかこなせない勅命だ……役目を果たしてから楯突くがいい」



勅命を覆すことはできない。

貴族の人たちの前で言い渡されたものを否定なんて、できない。


ぼくは最敬礼をして「拝命いたしました」と言うしかなかった。





翌朝、ぼくは必要な食料に武具をいくつか袋に詰め込む。

一緒に来てくれるのは、腕の立つ兵士から3人。

それと、ツキ。

あと、父王様がつかせた側近2人。


友好関係を築くための遠征ってこともあるし、あまり仰々しくするなって側近の人には言われた。

たしかに友好結ぼうって言いながら重装備だと、警戒を呼ぶかもしれない。


あとは、ぼくの愛剣を差せば準備は完了だ。

なんだけど。



「ツキ、いないな……誰か、みたか?剣を預けていたんだが」

「ツキの嬢ちゃんなら、さっき側近の人たちと一緒に裏門の近くにいたのを見ました」

「裏門って、何のために?あそこ、ほとんど使われちゃいないだろ」

「ツキちゃん宛てに手紙が来たんだと。あと、なんか大事な話とかで。呼んできましょうか、ディルクレウス様」

「いや、いい。自分で行く、お前たちは待機していてくれ」



同行してくれる兵たちに言い残して、裏門まで走った。

ツキに預けていたのは、ぼくの王族としての地位を示す宝石……黒曜石が鞘にあしらわれた剣。


ディオメシア王族は、皆自分の石を与えられる。

ぼくは黒曜石、ディセル兄様は黄色い宝石……名前は忘れてしまったけれど。


象徴として、王族の紋が入ったもの以上に、各自の宝石があしらわれたものは貴重だ。

しかも、宝石を出して何かを成せば、それはその宝石を持つものの代理として正式に認められることになる。


それだけ、ディオメシアにおいて宝石付きのものは重い。

ツキ以外に、任せられる相手なんかいない。

……のに、それなのに、気づいてないんだから。


いい加減、ぼくの思いに気づけよな。

鈍感。


裏門まで行けば、黒衣の側近2人とツキが話し込んでるのが見える。

今回ついてくる側近たちだ。

2人とも男で、ちょっとむかむかする。

ツキにべたべたしないでほしいのに。



「おい。時間だぞ、何してる」



ちょっと父王様みたいに、威圧して声をかけた。

側近2人はすぐぼくを見た。

ツキもこっちを向いたけれど、ぼくはその顔に足が止まる。


だって、彼女は泣いていたから。

片手にはぼくの黒曜石の剣。

そしてもう片手には、手紙が握られていた。



「ツキに何をした!!」

「落ち着いてください末子殿。我々はただ話をしていただけ」

「目にゴミが入っただけですよ、ツキは。……そうでしょう?」



信じられないような言い訳だ。

なのに、ツキはすぐに目をぬぐって「その通りです」って言う。

嘘だ。

目も鼻も真っ赤で、それなのに何度聞いても「なんでもないんです」なんて。

ツキは譲らないところがあるから、何度聞いてもすぐには教えてくれない。


もっと聞きたいことはあった。

だけど、出発の時間が迫っている。


今回、戦争で馬を使っているとかで、ぼくたちは歩いて行かなければいけない。

父王様が行っていた、兄弟国との会談が予定されているのは三日後。

だいたい2日あればステラディアの国境にたどり着くけれど、余裕を持たせるためにも早く出なくては。



「ディルクレウス様、こちら剣です。手入れはしっかりできていますからね」

「ありがとう。なぁ、本当に大丈夫なのか」

「大丈夫です。女ですが、山道は子供の頃よく通って慣れていますから」



そうじゃない。

でも、無理を言ってただの使用人のツキを同行させたんだから。


ぼくのそばにはいつもツキがいてほしいから。

それに、会談がうまくいったら渡せるように王族紋の入ったブローチを胸に忍ばせてる。

しっかり仕事をこなせるところを見せて、専属使用人になってもらうために。



「それでは、これから出発する!陸路で山を越え、ステラディア国境で先方の兵に城まで案内してもらう。その後は、会談を行って帰還だ!!」



心配事はあるけれど、胸が高鳴る。


王族がぼくひとりの状態で他国に行くのも初めてだ。

冒険の予感がする、何が待っているんだろう。


これが、ぼくの初仕事だ。

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