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45話 突然の乱入者と与えられた石

「僕の名はアラン!!ヴァルカンティア国の国王にして、このアンナの幼馴染だ!!」



壇上にいるこちらからは、すべてが見えた。

どよめく貴族、焦る側近、捕まえていいものかと思案するディオメシアの近衛兵。


だがそれ以上にいたたまれなかったのは、ハイネ殿とアニータ殿だった。

ハイネ殿は手で顔を覆って下を向き、アニータ殿は天井を見上げている。

どうやら、共に来たらしい二人にも予想外らしい。



「陛下、あの男ひっとらえましょう!!近衛兵、ひっとらえ」

「待て、相手は同盟国の王だ。貴様は責任が取れるのか」

「しかしこれはディオメシアに泥を塗られたようなもの!!」



側近の思う泥など知ったことではない。

それよりも、これは最後の好機だ。


身分差があるならば、簡単に止められるだろう。

だがアランはもう王様。

我と同格であれば、ここでアンナ嬢を攫ってくれればいい。


暑苦しい男だが、幸せにできる人間だ。

最後にいいことをしてくれたではないか。



「ディルクレウスには悪いと思うが、僕はこの思いを伝えなければやりきれない!!親友の彼の妻にアンナは素晴らしいが、僕のほうが先にアンナが好きだった!!」



こちらは親友になった覚えもなければ、アンナ嬢を好きだった覚えもない。

一年くらいでは、勝手に思考が走る癖は直らないらしい。


よくわからないが、貴族の参列者の女性の何人かは興奮してアランを見ている。

劇的かつ、アランは顔が整っている上に強い男だ。

画になる、とはこのことだろう。


思い返せば、アンナ嬢のロマンス小説の中にこのような状況があった。

なるほど、これは彼女好みのロマンか。


これは期待できる。

そのまま逃げてくれ。



「アンナ、君はとても美しいうえにヴァルカンティアで一番強い女性だ!!武闘会も見事だったし、先日の戦争終結の功績も華々しい。ディオメシアは必ず繁栄するだろうが僕のプロポーズを受け」

「うるさい」



それは目にもとまらぬ速さだった。


アランの称賛を遮ったアンナ嬢は、動きづらいドレス姿のまま、彼を投げた。

文字通り投げたのだ。

アランの体は飛び、絨毯の道を一瞬で通り抜けて、我のすぐそばで「べふっ!!」と声を上げて落ちた。


アンナ嬢といえば。

なんでもなさそうに裾を直している。


そして周囲の視線に気が付くと、一通り見渡してから恥ずかしそうに笑った。



「ディルクレウス陛下も、人が悪い。アランを使って、私の紹介をさせるとは」

「……アンナ嬢」

「彼はよき幼馴染であり、ディルクレウス陛下の友。外国から嫁ぐ私を皆様に覚えてもらうために、このような余興をしたのでしょう?皆さま、お騒がせいたしました。アランは少々、大げさなのです」



アンナ嬢はそのまま、ゆっくりと絨毯を踏んで我の前に進み出る。

ドレスの裾が長く、白く流れる様子は、重そうでナメクジのようだ。


うまいこと通路を避けて落とされたアランは、白目をむく。

それが見えない者たちは、余興であると信じ込んでいる。

ハイネ殿はすでに頭が痛そうにしているし、アニータ殿は笑いをこらえていた。



「アンナ嬢、何をしたかわかっているのか」

「何か悪いことでも?私はルクの妻になりたいんだ。プロポーズなんて受けないさ」

「穏便にできなかったのか」

「アランは様子がおかしかった。それだけだ……さあ、進めてくれ陛下。もう邪魔者はいない」



小声でアンナ嬢は、そう言った。

この声だけは、誰にも聞こえなかっただろう。


どうやら、ここまでのようだ。


どうあれ、彼女と結婚することは避けられない。

それならば、仕方がない。



「……これより、貴殿に王族の証である石を渡す。これはディオメシア国内において、すべて貴殿を表す最上級の証となる」



側近が、箱をもってそばに来る。

我が作らせた、彼女に似合いの首飾り。


伝統とはいえ、首輪をつけるようで気が進まなかったそれ。

だが、アンナ嬢は喜色満面で受け取るのだろう。


自分に絡みつく秘密を、野望を、すべて飲み込んで。

それでも共に王政廃止をしようと、両親や親しい人にすら明かせない秘密を共に抱える。


あなたが、そこまですべてを投げ打って隣を選ぶならば、こちらももう迷わない。

行く先が地獄でも、付き合ってもらおう。



「貴殿に授与するのは、エメラルド。この先、この石が貴殿を表すだろう」

「……はい。頂戴いたします」



箱の中に、純度の高い、大きな緑がある。

それを手に取って、頭を下げるアンナ嬢の首にかけた。


ちょうどよく、元からそこにあったように石は輝く。

彼女の髪色ではなく、瞳と同じ色。

これ以降、それを背負って生きていくのだ。



「逃げられないぞ」

「望むところだ」



この日、王族に新しい人間が加わった。

自分から地獄に飛び込んでくる、奇特な女が。

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