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40話 ディルクレウスの本領発揮

空は曇っていた。

雨が降るだろう暗雲が立ち込め始め、光を遮る。


我の後ろには、おおよそ50人のディオメシア人。

そして、煙から逃れて後方へ来た100人ほどのヴァルカンティア人。


煙がもたらされてから一時間後だというのに、すべての勢力がここにある。

つくづく、ハイネ殿が育てた特殊スパイたちは優秀だ。



「これより、最後の戦いに向かう。狙うはそれぞれの王、殺さず降伏に応じさせるか、とらえてここまで戻ればいい」



全部で150人ほど。

現在残存しているだろう兄弟国の兵は、この10倍はあるだろう。


10人一組、15組が一つ大きな荷物を抱えていた。

ヴァルカンティア、ディオメシア、それぞれ残った者たちは覚悟ができている。

これで、戦いを終わらせるという熱意。


武器は持った、馬も前を見据えている。

ようやく、見知った空気というものか。



「では、先陣は我が切る。皆、口と鼻を布で覆え。どんな毒か興味はないが、気休めにはなる」

「ディルクレウス待ってくれ!!私が、私も」

「ついてくるな。あなたが死んだら、ヴァルカンティアがどうなるかわかっているのか」



アンナ嬢の声が後ろからする。

どんなに不服だろうと、ここから先は譲れない。


ここで退いては、眼下で死んでいったヴァルカンティアの戦士たちの死が無駄になる。

お前たちは、一度死んだらそれまでなのだから。



「行くぞ。手筈通り、城の近くまで駆けろ!!」



大きな太い声たちが響き渡った。

1日目と比べたら、あまりに小さくなった規模。


それでも、ついてくるといった人間たちよ。

お前たちは、素晴らしい。


だからどうか、この戦いのすべての恨みは我に預けろ。

我がすべて、引き受ける。


黒い煙が晴れた地面には、敵味方関係なく屍。

その横を、我は駆けた。

引きつけるように、すれ違いざまに多くの敵の首を落としながら。



「我はディルクレウス!!先王が起こした戦いを、清算に参った!!」

「あいつだ、あいつさえ殺せば終わる!!」

「引き止めろ!!何としても殺せ!!」

「毒は、毒はまだか!!」



愛馬は我が切りやすいように、敵の近くを、敵そのものを踏みつけるように駆ける。

我が動くほどに、躍起になる兵たちがこちらを追う。

矢が降ろうが、槍を突かれようが問題はない。


その程度の痛み、すでに感じるものか。


横目で見れば、大荷物を抱えた味方たちが走っていく。

塊になった人間たちが、何かを抱えて皆一直線に城を目指す。



「敵だ!!剣頼むぜぇ!!」

「任されよ!!」

「赤いの、もっと速く走れるか!?」

「おうよ、お前らもちゃんと切ってくれよな!!」



ヴァルカンティアの戦士たちが大きな荷物を抱えて走り、その肩にディオメシアの兵が乗る。

馬は人数分ない、ならば馬以上の肉体を持つ彼らと役割を分ければいい。

さながら人間騎馬ともいうべきか。


赤銅色の髪が、人間を抱えているにもかかわらず軽快に動いていく。


そして、ついにそれはやってきた。



「煙だー!!」

「ディルクレウスを逃がすな!!」

「走れー!!早く城へ!!」



事態は混戦。

我を殺したい者、我の作戦通りに動くもの、訳も分からず我が兵たちに刃を向けるもの。

重要人物が毒霧の範囲にいる今、使わない手はないと思っていた。


兄弟国必死の抵抗は、まだ続く。

一度起きた戦争は、双方の了承なしに終わらない。

終わらせる方法があるとすれば、確実な『頭』をつぶすか、脅威を見せつけるか。



「毒霧は脅威だ。我以外には」



味方の兵には、皆に毒を避けるための布当てを指示した。

だが、我だけはそれをしなかった。


死のうがどうでもいいが、この体が役に立ちことはあるものだ。

敵の兵士と、目が合う。

喉をかきむしり、目を血走らせ、歯を食いしばっていた。


痛いのだろう、喉が焼けるだろう。

まるで燃やされたような熱さを感じて、全身が痛んで、呼吸が苦しくて、命が消えるのだろう?



「なん、で……このどく、は。しんしゅ、なのに」

「そうか、だから強靭なヴァルカンティア人をも殺せたと」

「やだ、いやだ……おまえも、みち、づれに」

「この程度の死であれば、以前経験した。焼死を追体験して死を誘発するとは、趣味の悪い毒だな」



我にも毒は効いている。

だが、すでに痛みに鈍いこの身では、さほど劇的な変化はないらしい。


後から死ぬかもしれないが、そうなれば側近どもが回収するだろう。

癪だが、我に毒が効かないと思わせることで戦意を削げるはずだ。


戦争というものは、簡単に死んでしまう人間がするものではない。



「そろそろ、やつらも力を発揮するころだ。解毒薬があるか知らんが、降伏まで生きるといい」



城の近くに行くことができた仲間たちは、荷物を場内に投げ込む。

大きな、ちょうど人間一人分ほどの大きさの布袋を。


投げ終わった後は、地面から距離をとるように城壁によじ登った。

毒の回避方法も、指示通り。


我らの『脅威』は、投げ込まれたときに動き始める。

今頃、袋の中から出たジークをはじめとするハイネ殿の傑作たちが、城を制圧する。


自軍の力で勝てないことが歯痒いが、仕方がない。

今回をもって、ヴァルカンティアと密接に関わることは確定している。

ならば、この『脅威』を我が一時的に使うことも許されるはずだ。



「ブルっ、グルルッ」

「……辛いか。もう戻るぞ、あとは報を待つのみだ」



馬が鳴き始めたので、戻ることとする。

息がほとんどできず、体内で燃えるように熱が上がっていく。

そろそろ、体が苦痛を感じる頃だろう。


激しく咳き込む中、視界の端に黒い服が見えた。

執念深い側近が、死にはしないかと待っているのだろう。



「……まだ、まだ死んでやるものか」



後は彼らに任せるとして、戻らなければアンナ嬢がこちらに来てしまう。

それは、させられない。


なんとか、姿勢を正して後方へ戻る。

今頃、ヴァルカンティアの『脅威』が牙をむいているだろう。


それだけを思い、戦場から少し離れた場所の茂みにたどり着いた。


そして、そのまま落馬した。

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