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32話 突然の使者と襲撃

書状が届いたのは、一年後のことだった。

国家間での重大な連絡に使用され印がされたそれは、以前何度も見た国の物。


相も変わらず、王として内政に口を出し、諸外国の動向に気を配り、属国の統治に気分が悪くなる生活。

それに加えて、一年のうち半分は戦いだ。

もちろん、我はすべて前線に出ては幾度となく死んでいる。


直近ではステラディアの武器産業に茶々を入れた家臣のせいで勃発した小競り合いの鎮圧。

備に追われていると、それはやってきた。



「失礼いたします!!ヴァルカンティア国軍、兵隊長であります!!ディルクレウス陛下に、我が王からの書状をお届けに上がりました!!」



突然の大きな声に、門番は腰を抜かしたという。

忘れていたが、ヴァルカンティア人の大声は本当に大きい。

近頃忘れていた、普通の人間の強度を再確認した。


急遽あつらえられた謁見。

権威を示すためと用意されたマントを床に捨て、玉座に座る。

玉座すら投げ捨てたいのだが、床に座るわけにはいくまい。


国書を携えやってきた人間は、大柄で髪が赤く、重装備な鎧を着たままだった。

顔に見覚えはない、ヴァルカンティア側から特に連絡もなしの来訪。

そばに来た側近は、不遜な態度をとっていた。



「いきなりたった一人で来て、ここをどこだと思っているんです!?あなた方の野蛮な国とは違います!!」

「国王から迅速にと承った次第!!時間がないので、早急にお返事をしたためていただきたい!!」

「なぜ謁見まで希望したのです!?陛下はお忙しいんです!!あなた方に構っている暇はない!!」

「おい、口を閉じろ」

「そうだ!!お前が口を利いていい相手ではないんだぞ兵士風情が!!」



その喉笛はそろそろ処分してもいいだろうか。

黙るのはお前だ側近。

カラスごときが聞いていい口ではない、相手は人間だろう。


剣を抜きそうになったが、やめる。

ここで血しぶきを出しては、国書が汚れてしまう。

いきなりの謁見でこの場に三人しかいないとはいえ、客人を汚い血で汚すわけにもいかん。


側近を謁見室の隅まで下がらせ、国書を受け取る。

その場で開封すると、予想もしなかった文字が羅列されていた。



「おい、これは本当に国王からか?アランと名が入っているぞ」

「間違いございません!!先月譲位された、アラン国王によるお手紙です!!」

「聞いていない話だ。そのような大事、なぜ秘密にする」

「ヴァルカンティアにおいて、真の王と認められた時にこの事実は国外へ通達するもの!!ひとえに当然のことでございます!!なぜご存じないのか!!」

「貴様、ディオメシアを馬鹿にするか!?」

「側近、黙れ。……では、まだアランは真の王ではないと。なぜだ」

「ひとえに、ディルクレウス王の不勉強かと存じます!!実際の戦いに出て勝つまでは未熟なり!!我が国での出来事はクソと共に排出してしまわれたようだ!!」



声を張り上げ、堂々と胸を張って答える男。

見事なほどの直立不動に、発するだけで部屋中が震えるような大声。

そして王を前にして恐れすらない物言い。


ただじっと男を見据えた。

怒ろうなどとは微塵も思わない。

一年の間に、ヴァルカンティアでの感覚が薄れつつあったのも事実だからだ。


それよりも、この言葉選びには覚えがある。

赤毛の男の、声の覇気に見合わず表情が死んでいることも。

側近ではなく、真正面にいる我に向けられたものだった。


ああ、あっぱれだヴァルカンティア。

何と豪胆か。

どうやらまだ我は、かの宰相殿に勝つことはできないらしい。



「側近、出ていけ。二人で話がしたい」

「なりません。何かあったら危険ですからお守りします」

「我より弱い貴様がいて何になる?邪魔だ」

「勝手はやめていただきたい!!」

「それが遺言だな」



玉座に坐したまま、剣を抜く。

離れた位置にいる側近が、怒りのままに数歩寄ってきたのを確認して剣を投げた。

ちょうど、奴の喉元を貫くように。


見事当たったそれに、側近は仰向けに倒れた。

貫くだけでよかったのだが、戦いのために研ぎに出したせいだろう。

首と胴が分かれ、転がるのが見えた。


今の攻撃も避けられないのに、守るとは笑わせる。



「これで聞く者はいない。話の続きを」

「投擲とか、あの頃はしませんでしたよねぇ?うわ、見事な切れ味。あーあ、側近でしょう?殺していいんですか」

「どうせ明日には別の人間が入る。これで4回目だ、不要なものを処分して何が悪い」

「知りませんけどね?こんな奴がアンナの婚約者とか倫理観が滅亡なさっている。王に必要な素質の中に、人殺しの度胸とかあるんですかぁ?俺でも王になれますかね」



処分するのは側近だけ。

間違ってもその他の自国民に刃を向けるなどしない。

このように立場の分からない能無しは、いるだけで不利益だ。


男の声は、先ほどまでの野太いものとは違った。

中性的で、いつも我に敵意を向けながら決定的なことはしない、宰相家の義息子のもの。


奴は暑い暑いと言いながら、床に座り込んだ。

敬いなど微塵もない。

彼に関して、我に向ける敬いなどあるはずもないのだから。



「ジーク、その顔と体格は何だ。異常に大きいな」

「これ?スパイの変装術ですよ、今回は正式な国王軍の足じゃ間に合わないってボスが言ってたんで。面白いでしょう?」

「赤毛も、その顔も、実在の男か」

「架空の男ですけど、ヴァルカンティア人の髪は赤銅色だ。そこ間違えるな殺されるぞ」

「何が違うというのだ。色にこだわりがあったとはな」

「そういうもんなんですよ。絶対アンナに赤毛って言わないでくださいよ?首脱臼されますから……って、さっさと国書読んでください。俺が休まず運んでやったんで」



ジークは見たことがないほど焦っていた。

先ほどまで余裕のある態度だったが、妙に急かす。


先ほどすぐに返事をと言っていたな。

重要な国書の返事を即日で持たせろなど、無理難題にもほどがある。

王国外から来た国書は大臣に共有しなければならないというのに。



「いいから早くしてくださいよ、じゃないと来ますから!!」

「来る?何がだ」

「早く!!さもないと」

「謁見中失礼し……うわぁ!?そ、側近様!?これは一体」



謁見の間に、使用人が飛び込んできた。

扉を閉めていたのに入室するとは、よほどのことだろう。


使用人の足元に転がった首に躓いて悲鳴を上げるので、少々不憫だった。

そんな汚れたもの、触れたくもないだろうに。



「なんだ、手早く済ませよ」

「えっ、は、はい!!あの、ぐ、軍隊!!他国の軍隊が攻めてきました!!」



焦る使用人を前に、ジークの声だけが微かに届く。

「遅かったか」と嘆く声は、噓のないため息が込められていた。

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