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24話 残った4人

右足、掴んで捩じり上げ体勢を崩したところに腹部一撃。

左足、足を払って重心を乱したところを投げる。

左腕、掴まれたが剣の柄で顎を強打し脳を揺らす。

右腕、折られた部分を狙って拳を入れられたが鞘を取り出し顔面に叩き込む。

頭、頭突きを食らって一瞬意識が飛んだが、男の急所を蹴り上げて場外へ。


都度響き渡る「勝者、ディルクレウス!!」の声が、回を重ねるごとに大きく野太くなっていった。



「おいおい、体積倍はあるやつにも勝っちまった」

「ヴァルカンティア人じゃないのによくやるな」

「おれアラン王子に賭けてるからよ、あいつ今日は一段と張り切ってる。なんでだろうな」

「こっちじゃ次ジークだってさ。ここまで無傷だって、さすが宰相家の育てた秘密兵器」



すでに何試合が行われたのだろう。

自分がもう何人を伸したのか数えていない。


中央部に貼られた紙に書かれた現在の勝者を見に行けば、我を含めて10人が勝ち残っていた。

なるほど、歓声が大きくなっていったのは、自分の試合を終えて暇になった奴が多いからか。


息を整え、次に指示された枠へ進む。

だんだんと戦いの数が減っていく度、使われる試合の場所が狭まっていく。

稼働しているのは、中央の王夫婦と宰相夫婦の眼前にある2つの正方形のみだった。


次の対戦相手は、今行われている戦いの勝者になるだろう。

だんだんと精鋭だけが残っていくこの場面にあって、これまで通りに安全に事が進むかは疑問だ。

軍事における最高峰の国家であるヴァルカンティアで、身一つでここまで勝ち上がる戦闘センスを持つ猛者。

一人一人が一騎当千の英雄足りうる強さがある以上、白熱した結果何が待つのかはわからない。


現に今、試合中に二人の男が同時に倒れた。

大方、拳をお互いの顔に叩き込み、脳が揺れたのだろう。

相打ちだ。



「おっとぉ!?まさかのここで二人が敗退―!!」

「相打ちの場合は二人とも敗退か。最後に立ってたやつが勝つもんな」

「にしても、これで一気に二人減ったぞ」

「いいや、他にも相打ちがあったから6人ごっそり敗退だ」

「上位十人ともなると、ついやりすぎちまうんだよな」

「これ、決勝で相打ち起きたらどうなるんだ」

「そりゃ……どうなるんだろうな?」



驚いた、相打ちはどうやら頻繁に起きるらしい。

武闘会は兵個人の力が評価される場。

今後の戦いでの昇進もかかっているのだろう。


それにしても、6人が敗退か。

すると残るはあと4人。

武闘会も終わりが近い。


中央の紙を見れば、勝ち残った者の名が大きく書かれているところだった。


紙にはアラン、ジーク、我の名前。

ここまでは予想通りだった。

だが最後の一人は見知らぬ名がある。


『ジョン ドゥ』


ほぼ一か月の間、精鋭の訓練に参加した兵たちの顔と名前は把握している。

だが、そんな人間はいなかったはずだ。

思い出せずにいる我の背を、何者かが力いっぱいに叩いてきた。


大きな破裂音がして振り向けば、そこには白い歯を見せて笑うアランの姿。



「よっ、やっぱりディルクレウスも残ってたか」

「何をする。何のために叩いた」

「次の試合、僕と君なんだ。へへっ、昨日は手加減とか言ってたけどやっぱりなしにしようって言いに来た!!」

「理解しがたい。アンナ嬢はどうする」

「正々堂々強い男じゃないと、逆に嫌われるって思いなおした。僕は、アンナに選ばれる男になりたいから」



そのためには勝ち残って、彼女を選ぶ権利を得なければ元も子もないのではないか。

理想を追い求める人間というものは、なんとも度し難い。

それを言ったところで、昨日同様聞く耳があるとは思えない。


勝手に言わせておく。

だが、アランがいるならちょうどいい。

我よりもヴァルカンティアを知る彼であれば、今勝ち残っている人物も知っているだろう。



「勝ち残っているジョンについて、何か知っているか」

「ああ、あいつか。僕もよく知らないが、見た目だけはわかる。すごく特徴的だからな、ほら、彼だ」



アランが指差す先。

そこにいたのは人だかりの中にいながら、一言も発する様子のない包帯人間だった。

武闘会開始前、我が見たその人物がジョンだというのか。


背筋に冷たい何かが伝う。

汗だろうか、これは汗のはずだ。


得体のしれない人間がここまで勝ち残るなど。

一体、どんな手を使ったというのか。


多少汗ばむ暑さの中、ここまで戦いを勝ち抜いて動いているはずなのに包帯は緩みもしていない。

それほどまでに隠した素顔があるのだろう。


やはり、気味の悪い。



「得体のしれない人間の参加を許すのか、ヴァルカンティアは」

「強いやつが勝つ。もし異議があるなら、叩きのめす!!それに、ディルクレウスだってヴァルカンティアの人間じゃないだろう?」

「我が、あの人間と同じだと言いたいのか」

「見た目も国も、重要じゃないってことだ!!ほら、行こう。みんなが僕たちが戦うのを待ってる」



また背中を強く叩いたアランは、そのまま正方形の中へ。

戦いが始まると歓声を上げる男たちの声は、ヴァルカンティア国中に充満するように大きい。


やっと気が付いたが、知らぬ間に武闘会参加者以外も観客がいる。

近所の女子供、老人だろうか。

戦いの行方を見ようと男たちに混ざって白熱するのだろう。


裏で実権を握る宰相家の一人娘の婿選びだ。

これも当然。

当のアンナ嬢の姿は、どこにも見えないが。


気が進まない。

アランがもし負ければ、我はどんな扱いを受けるだろう。


嫌悪や侮蔑は恐ろしくない。

だが、今後の同盟のために悪印象は残したくない。

ここは、右腕が痛むふりをして手加減するとしよう。



「さあこれから始まる二試合!!アラン対ディルクレウス、そしてジーク対ジョン!!」

「ここでの勝者が最後の戦いに進む!!」

「戦いのぉ~……始まりだ!!」



何とも観客を煽るのがうまいものがいる。

静かに入場したかったが、これでは期待の視線が刺さってどうしようもない。

雄々しい雄叫び、女子供の高い声、急かすような手拍子。


好戦的な民族で、実に困ったものだ。


正方形の中に入れば、アランが左手を差し出してきた。

意図がわからないその行動に立ち尽くしていると、強引にこちらの左手を握ってくる。

力強いその握手に、この男の面倒さを再確認した。



「僕は長剣だけで戦う。今日は、同じ武器で君と戦いたかったんだ」

「実に愚かだ、双剣術が得意ではなかったか」

「こっちもちゃんと得意だ。よろしくな、ディルクレウス」



そして手が離された。

数歩距離をとった位置から、アランが長剣を抜く。

刃渡りは我のものと大差ない、重さもそれなりだろう。


我も冷たい愛剣を抜く。

黒曜石の鞘が日の光を受けて光る度、妙な気分に支配された。


隣の正方形では、ジークと包帯人間が見合っている。

どちらが勝つにしろ、ここが重要局面だろう。


我は、そこそこの力を見せて負ける。

そのための、茶番な戦いだ。



「では、いくぞ」

「おう!!」

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