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20話 次期国王となる男の告白

ついに武闘会を翌日に控えた今日。

訓練場では一対一の手合わせのみが行われていた。


殺害禁止。

武器はどんなものでもいい。

だいたい5mほどの正方形の線が引かれ、この中から出たら失格。


これが武闘会の守るべき規則だと。

あまりにも簡素でわかりやすく、伝統的なヴァルカンティアの戦いらしい。


なんと、何でもありなことだろう。



「あーっ!?今蹴り一発で二人とも線でた!」

「これどうするんだ?あ、先に出たほうが負けか」

「じゃあディルクレウスが勝ち残りだな、誰がやる?」

「すごいな、もう7人倒したぞ」



ヴァルカンティアで過ごすうち、体術の技術が向上した。

まさか飛び蹴りだけで数メートル飛ばせるようになるとは。

今しがた蹴った相手は腹を押さえて起き上がっていたが、ヴァルカンティア人でなければかなりの大怪我だろう。


この訓練は予行練習。

おそらく、ここで実力を示したものが明日注目される。


汗をぬぐい、次の挑戦者を待っていると別の場所で歓声が上がった。


見れば、茶髪のジークが赤毛のヴァルカンティア人を枠外に吹っ飛ばしていた。

筋骨隆々で赤毛のヴァルカンティア人たちが活躍している様子が目に付く。

だが、アンナ嬢と年近い男での有力候補は限られるだろう。


我、ジーク、そしてもう一人。



「じゃあ僕が行こうかな。お手柔らかに頼む、ディルクレウス」



ちょうど我の前に立つ、ヴァルカンティア人の中でも一際輝くような赤毛の男。

我と同じくらいの体格で、人当たりもよく、いつも周囲に人が絶えない明るい男。


短剣と長剣を携え、握手を求める彼は『ヴァルカンティア国民が求める像』を体現した存在。



「おっ!?次期国王がディオメシアの王様と決闘だ」

「いいのか明日当たるだろうに」

「優勝候補二人の訓練なんてなかったしな」

「おれは王子に勝ってほしいな~ほんと絵になるし」

「バカ、勝った奴が正義だぞ」



国民感情としては、次期国王が正々堂々アンナ嬢を娶るのが定石なのだろう。

ヴァルカンティア王族はすでに象徴としてしか機能していないとはわかっていた。

だが、この過酷な精鋭兵訓練に次期国王の彼は何度も参加し、誠実で公正で、嘘のつけない実直な人物だろうことはわかっている。


話したことはない。

だが、彼の周りの人物が彼をそう称える。


まるで、アンナ嬢の愛読書に登場するヒーローのようだ。



「僕はアラン。ずっと手合わせして見たかったんだが、機会がなくて」

「我は構わないが、貴殿はやめた方がいいのではないか」

「どうしてだ?勝ち残れば戦うことになる。少し早まってもいいだろう?」

「ここで戦い方を学習し、当日我が勝てば国民感情を逆撫でする」



元より、戦いの才能は兄様の誰よりあったのだろう。

我は戦いに出てわずか1年で兄様達が立てた討伐数や、撃破数を越した。

戦いの中で強くなった剣技は、ディオメシアの中でも並ぶものがいないほどになった。


なにより、相手の動きを学ぶ能力の高さに気が付いた。


もしここで我がアランの動きを学び、当日優勝でもしたらどうなるか?

次期国王を他国の王が打倒し、勝利の証であるアンナ嬢との婚姻を捨て、ディオメシアに帰ることになるのだ。



「ヴァルカンティアに恨まれることは、避けたい」

「……ククク……ふっ、ははははは!!な、なんだその断り文句は!?まって、待ってくれ腹が、よじれる」



こちらは至極真面目に捉えているのだが、アランは腹を抱えて笑い出す。

冗談の類を考えることは、苦手だ。

だが、知らず笑われる冗談を言っていたらしい。

困った。

笑っている人間の応対方法など、覚えがない。



「フフフ、いやあそんなことを言われるとは。やはり、貴殿は面白い男だな」

「事実を述べたまでだ」

「そうかそうか。……なぁ、少し抜け出さないか?」

「何を言っている。訓練中だ」

「わかっているさ。でも、僕は腰を据えてディルクレウス王と話がしたくなった!!」



構えていた双剣を鞘にしまうアラン。

そして目にも留まらぬ速さで我の手を取ると、そのまま引いて駆け出していく。


アンナ嬢も力が強いが、倍はあるだろうか?

同じ速さでついて行かねば、こちらの体が浮くほどの力!!

始まるはずの手合わせのために集まった兵たちを飛び越えて、軽やかに「二人で特訓してくる!!」と宣言したアランには皆が呆れ笑いをしていた。


そのまま数分走り続け、彼が足を止めたのは人気のない荒野の岩場。

足場もよくはないが、何よりも太陽が照り付けている。


アランは足早に岩陰にしゃがみこみ「ディルクレウスも座ろう」と軽やかに言ってのける。


訓練に戻りたい。

だが、明日の武闘会への対策はすでにできている。

訓練に今戻ろうと、あまり意味はない。


それならば仕方がない。

ヴァルカンティアの王族が、次期国王がどれほどの男か見極めるもいいだろう。



「ずっと話してみたかったんだ。今、ハイネの家に世話になってるんだろう?うらやましい」

「貴殿はこの国の王族だ。そちらの居城を見たが、宰相家の屋敷より広く豪奢だろう」

「そうじゃないさ。うちに不満はない、けれど僕は王族である以上宰相家には深入りできないんだ。立場ってものがある」



我にはわからないが、ヴァルカンティアの象徴と裏の権力者が仲が良すぎるのも問題なのだろう。

だが、我もなぜ宰相家に世話になっているのかわからない。

初めから世話になるならまだしも、滞在して二週間後のことだ。


羨まれても困る。



「わからない。なぜ我を羨む?」

「アンナは、いとこなんだ。アニータおばさまは、国王である父の妹。ハイネ殿はヴァルカンティア生まれではないけれど武闘会で優勝して、密かに両思いだったアニータおばさまと結婚したって」

「話が見えない。何が言いたい」



アニータ殿は元王族だったか。

であれば、アンナ嬢も王族関係者ということになる。

なるほど、ハイネ殿があれほどまで権力を持つにいたる経緯も見えてきた。


だがわからない。

宰相夫妻の経緯など、我には何の関係もない。


わずかに顔が赤いアラン殿は、何かを言いあぐねている。

早く話してほしいものだ、待つこちらは退屈でならない。


自分でここまで連れだしたのだろう。

何をぐずぐずしているのか。



「わからないか?」

「わかるわけがない」

「アニータは、数個下だったけれど昔から魅力的だったんだ。そんな彼女が、ついに武闘会で婿探しをしてる。これは好機だ」

「優勝すれば宰相家の威光が手に入るな」

「違う。僕は……アンナが、好きなんだ。ずっと、昔から」



アランは我の右手をいきなり握ってきた。

強い力で、一瞬握りつぶすのかと危惧したがそれはない。

彼の顔は、懇願して、命乞いをするような表情だったからだ。



「僕は、アンナと結婚したい。ヴァルカンティアに利益をもたらす政略結婚だとしても、それを潰して僕がそばに居たいんだ」

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