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21話 アランの言葉とジークの言葉

恋をした者の瞳は、このようになるのか。

輝き、燃えて、思い人を脳裏に浮かべた揺らがない瞳。


ロマンス小説のようだ。

彼自身も、登場人物のような男だが。



「すまない、もしあそこで腕を見せてしまったら明日貴殿に勝てないかもしれないと怖気づいた。僕は明日勝って、アンナにプロポーズするんだ」

「なぜそれを我に言う。あの場で理由を付けて戦いを回避すればいい。なぜ巻き込んだ」

「ヴァルカンティアらしくないからだ。王族はこの国の誰より純粋なヴァルカンティア人の血を守ってきたんだ。戦士として、気高く正々堂々としなければ」



なるほど、王族というものは大なり小なり血の宿命があるのか。

確かに、アンナ嬢、アニータ殿、アラン殿と王族に近しいものほど見た目以上の筋力や感覚を持っていた。


ディオメシアの不死の呪いは極秘だが、ヴァルカンティアは隠されておらず国民周知の事実だろう。

だが完全なる実力主義のヴァルカンティア。


腐ったディオメシアよりも、穏やかに生きられるだろうに。



「我を道連れにあの場を強引に切り抜けただろう。あの場に、一人でも貴殿を責めるものがいたか?」

「それは、そうだ……逃げたのも間違っていない。でも」

「心配せずとも、我はアンナ嬢と結婚する気はない。望むならば、貴殿が頂点に立てるよう手心も加えよう。これで満足か」

「それはダメだ!!」



いきなりアランは我の両肩を掴んだ。

さすが王族というべきか。

アニータ殿に殴られたときよりも、力が強い。


命乞いをするような顔は変わらないのに、腕はどうにも怒っているようだ。



「八百長はご法度だ。絶対にしてはいけない、力で、持てるすべてで臨んでこその武闘会なんだ!!」

「口は割らない。言わないと誓おう」

「いや……だめだ。すまないディルクレウス、同い年の君は立派に王としての使命を果たしているのに僕ときたら情けない」

「取引ではないが、我が帰国した後に対等の軍事同盟を結ぶ手助けをしてくれればいい」

「なんという人の良さだ!!政略結婚でアンナを縛らないように身を引くのか!?どうしたことか、僕は戦う前に負けた気分だ何と素晴らしい」



話を聞いてほしい。

勝手に一人で盛り上がり、思い込み、自己完結をするな。


アンナ嬢といい、ヴァルカンティア人は肉体に思考をとられ過ぎではないか。

だが、勝手に良い方向に捉えられているのであれば、わざわざ否定する理由もない。


王族は象徴だが、発言権くらいはあるだろう。

ハイネ殿とも話せる仲になったことだ、政略結婚なしの同盟はうまくいくに違いない。



「そのような評価は過分だ。だが、受け取ろう」

「貴殿は、辛い思いをされて、ヴァルカンティアに来たのは父の起こした戦いを止めるためだと聞いた。そんな気高い貴殿にそんなことは頼めない」

「……辛い思い、だと」

「ああ。病院のものから聞いたぞ、夜中に錯乱を起こして短剣で自分を刺そうとしたらしいじゃないか!!余程痛ましいトラウマがあるんだろう?」



一週間以上前の、あの夜の事か。

アニータ殿に殴られて、ジークに寝込みを襲撃されて、自分でも何を口走ったのか曖昧だ。


だが、大勢の患者とジークに止められたことだけはよく覚えている。

その話がまさか王族にまで行っていたとは。



「だから、ハイネ叔父上はディルクレウスを面倒を見ると言っていた。僕は、他の男なら嫉妬で決闘を申し込んだだろうがそう言った経緯なら」

「待て。ハイネ殿は、そんなことを言っていたのか」

「そうだ。ジークのときといい、あの一家は優しい。何があったのかはわからないが放っておけないと……どうしたんだ?顔色が悪いぞ」



勘づいてはいたが、見ないふりをしていた。

あの夜、我の様子を目の当たりにしたジークがハイネ殿に伝えていないはずがない。


あの時何を口走ったのかは覚えていない。

だが、もし漏らした言葉で過去を知られてしまったら。

ディオメシアの不死の呪いも、側近たちが我とツキにしたことを、兄様姉様達が使われ続けていたことがバレてしまったら?


相手はヴァルカンティアを治める有能な宰相。

我が兄様たちを殺したことも知っている。

我のすべてが、知られてしまっているとしたら。



「戻る」

「え、何か気を悪くさせてしまったか?謝らせてくれ、そうだこれから市場で甘いものでも食べよう」

「不要だ、構うな」

「そう言わずに。まだ語りたいことも、明日の気合を入れるのもまだ」

「話が聞けないのか?失せろ、それ以外ない」



岩場を足早に出ていく。

アランが名を呼ぶ声だけは聞こえたが、追いかけては来なかった。


戻ったらハイネ殿を問い詰めよう。

どこまで知っているか、何を知ったのか。


我を屋敷に招き入れたのは、どんな思惑があったのか。


だが宰相家の屋敷に戻っても、夫妻はいなかった。

いつも書斎で仕事をしているハイネ殿も、夕食時には必ず戻るアニータ殿も、戻らない。


アンナ嬢に話を聞こうにも、避けられているのか屋敷内ですれ違うことすらできない。

ようやく訓練から戻ったジークを捕まえ問い詰めれば、怪訝な顔で返された。



「花嫁とその親が前日姿隠すのなんか当たり前でしょう。花嫁の誘拐、親への賄賂、八百長厳禁。明日、優勝者が決まるまで三人は帰ってこないので」

「今すぐハイネ殿と話がしたい。どこにいる」

「一応俺も出場者なんで知りません。アラン様だろうと、今日は三人に会えませんよ」



後手に回った。

いや、気づくのが遅かった。

もし、我のすべてを知った上で政略結婚なしの同盟作成を教えたのだとしたら。

何かを逆手に取られているのかもしれない。

あるいはその提案すら罠だった可能性もある。



「別に、明日には会えますから。じゃあ俺は明日に備えて寝ます」

「待て」



それは、反射だった。

ジークの腕を掴み、足を止めさせる。

彼の顔を見て、沸きあがったある疑念。


前日に話すことではないとわかっている。

それでも、この男に問いただすには今しかないと。


今、アンナ嬢と何の関係もない男である我にしか、聞けないことがある。

そう気づいてしまった。



「聞かせてほしいことがある」

「なんですか?忙しいんですがね」

「お前はあの夫妻に傷つけられている。なのになぜ、反抗しない」



ジークは強い。

その気になれば、一人で生きていけるだろう。

なぜ、愚かにも飼われているんだ。

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