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13話 精鋭たちを育てた閣下

ヴァルカンティア滞在一週間。

今日はヴァルカンティア軍隊の中でも厳しい訓練をしている部隊に参加した。



「槍部隊、腰の入れが甘い!!」

「双剣部隊、利き手ではない指の使い方が荒い!!」

「遊撃隊、初速が遅い!そんなもので敵は死なん!!」



総勢300人もの男たちが、檄を飛ばされながら武器を構え、走り回る。

ヴァルカンティアの西側にある、草木がほぼ生えていない荒野は天然の訓練場だった。


半分以上が赤毛の男たちで、混ざっている別の髪色の男たちは身体機能が劣っているはずだ。

なのだが、ジークと同様にヴァルカンティア人に引けを取らない強さなのはよくわかった。


そもそもヴァルカンティア人はそうでない人間に比べて力も強ければ、足も速く視力や聴覚といった戦闘感覚が鋭い。

人間離れした集団の訓練に食らいつき、同じ鍛錬を行うことがどれだけ脅威であるか。



「おい、大丈夫かディルクレウス。さっきから足とまってんぞ」

「ヴァルカンティア人じゃないからって甘えんなよ~。閣下の鞭は痛いからな」

「お嬢の武闘会にお前も出るんだろ?今のうち、ヴァルカンティア人の戦い方に慣れとけよ」



汗だくになりながら話しかけてくるのは、精鋭部隊の兵士たち。

我をディオメシアの王と知りながら、宰相家のアンナを嫁に欲しいと言う情報も知れ渡っているのに、分け隔てない。


最も、この男たちも武闘会に出るということなのだが。


視線を逸らせば、ジークの姿が見えた。

我より体躯が細いのに、双剣部隊の筋骨隆々な男たちと打ち合いをしている。


先ほどまで遊撃部隊と乱戦訓練をしていたはずだが。



「……ああ、圧倒されていただけだ。この内容を淡々とこなすとは」

「おや、光栄だなディルクレウス王。勇敢な不死身王から見ても、私の兵たちは素晴らしいか」



背後から聞こえた声に、話しかけてきた男たちはすぐに姿勢を正して振り向き、敬礼をする。

一秒遅れて我も立ち上がった。

敬礼はしない。

立場上、我が軽々しく敬礼をすればディオメシアが侮られる。


やってきたのは、たっぷりとした癖のある赤毛を高い位置で一つにくくった女性。

背はハイネ宰相と同じくらいか。

我より小さく、鍛えられているのはわかるが筋肉で肥大していない肉体。

ヴァルカンティア軍服に身を包み、手には黒光りする革製の鞭を持っている。



「お前たち、無駄口を叩く暇があるのか?他人を気にするくらい余裕か?ならば、私が義母になる覚悟もできているのであろうな」

「滅相もございません閣下!!」

「早く訓練に戻れ。私はそこの王に挨拶せねばならん」



女性の言葉に、話しかけてきた男たちは駆け足で訓練に戻っていく。

まるでハイネ宰相に睨まれたあの二人のようだな。


それを満足そうに見て、我に視線を移すその動作。

夫婦ゆえに血の繋がりはないはずだが、どうも我が子を見るハイネ宰相と似ていた。



「挨拶が遅れてすまなかった。生憎、訓練兵の遠征に付き合っていてね。ハイネから話は聞いているよ」

「貴殿はアニータ将軍でよろしいか」

「いかにも、私がアニータだ。ははっ、思ったより肉体は出来上がっているんだなディルクレウス王」



今日ここにやってきたのは、彼女に会うためだった。

ヴァルカンティア軍全体の技術向上、軍の指揮、そしてヴァルカンティア全体から慕われる女。


アニータに特別に目をかけられれば、兵士の技術向上の方法を間近で見られるのではないかと。

さらに言えば、武闘会に有利に働く何かを得られるのではないかと考えていた。


だが、どうやらそれは的外れだったらしい。



「事前に言っておこう。私には何の力もないぞ」

「貴殿の兵士教育や戦術は、素晴らしいものだと理解していますが」

「建前はいい、ハイネに認められないと同盟ができないから、ここに来たんだろう?お前の前にもそうやってすり寄ってきた奴はいくらでもいる」

「我が、そのような有象無象と同じだと」

「同じとは言わん。見させてもらったが、ちゃんと訓練内容はこなしている。戦闘力も申し分ない、ヴァルカンティア外の人間でもここまでの男は初めて見た」



彼女は、実力主義の人間のようだ。

権利や利権を貪るために、賄賂や密約を交わしていた我が国の貴族は見習ってほしい。


やはり、女の身で軍の幹部に上り詰めたその精神力は高潔と言える。


だが、それだけではないはずだ。

軍人ではあるが、この女も人間。

揺れるものはある、例えば……政略結婚の駒にされそうになっている一人娘、など。



「では、貴殿から見て我はアンナ殿をもらい受けるのに十分だろうか。国益も、彼女の生活も、望むのであればあなた同様に軍の指揮権も用意できる。ヴァルカンティアのどの男より、利は大きいだろう」

「そういうところだディルクレウス王。やはりハイネの言った通りだな」



アニータにため息をつかれてしまった。

ヴァルカンティアは実力主義だ、それはわかっている。

国としての歴史は浅いかもしれないが、ディオメシア近年の動向は好調のはずだ。


愚王のせいで作られた不況も、何とか持ち直して国民の生活も安定している。

我自身の力も、兵士たちの力も、問題はない。

何が不満なのだろう。



「理解に苦しむ。武闘会を開かずとも結果は明白だろう」

「他国の王にこんなことは言いたくないが、今のお前に嫁がせるくらいなら今の我が国の王子に嫁がせた方が10倍マシだ」



アニータが顎で示した方向を見る。

そこには、ひと際赤毛の彩度が濃い男が大剣を振るっていた。


我と年も近い、体の大きさもあまり変わらないだろう。

今も、十人を相手取って勝利している。

爽やかだろう笑顔に、背中を叩かれて大笑いする快活さ。

王族とは思えないが、国民に慕われているのだろう。



「あれが、王子。ヴァルカンティアの王族はほぼ象徴だと聞いている、宰相家が実権を握る以上、結婚の意味があるのか?」

「ある。王妃の椅子は、お前が思うより重いものだ」

「わざわざ、いい駒である娘を政略結婚に使わない親の心理がわかりかねる」



政略結婚という手法は、あらゆる国が使う同盟の手法だ。

利益の担保として姻戚になり、見せかけの絆で縛られる実にわかりやすい方法。


姉様達も、それで出ていった。

王族や立場の高いものは、そうやって駒になるのが当然だろう。


それでも、考えなくては。

アンナを政略結婚に使えない、理由を。



「ああ、理解した。アンナ嬢をそのようにできない理由が」

「なんだ、言ってみろ」

「彼女が言うことを聞かず、自由で奔放で大人しく使用されない。じゃじゃ馬と言っていい女だ。面倒でしかな」



ドゴッ と 鈍い音がした。


顎下に、突如力の塊が飛び込んできた。

そのまま、空に飛ばされ、眼下にこちらを見上げる兵の姿が見える。


痛み、口の中の血の味、脳が揺れる感覚。

真下にいる、拳を突き上げたアニータ将軍。


どうやら、我は大きく何かを間違えたらしい。

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