↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
103/113

102話 消えた声

事は順調に進んでいた。

ディオメシア内には、不満を持つ属国の兵や、反乱軍が蔓延る。

月光国が何とかしようと動き回っているようだが、流れは変わらないだろう。


あと一年もつかどうか。

それが、我とレオンが導いてきたディオメシア王政の終わりであろう。

反乱軍に首をとられるでも、王政を打倒すると革命を起こされようとかまわない。


不死の呪いを消すために、我が血と、不死の呪いを知るものと、蘇れと望む者。

その3つが、すべて瓦解すればいいのだから。



「ディルクレウス王、失礼いたします。軍備のことでお話が」



一人きりの執務室で、大臣の声を聞く。

何年繰り返したかわからないこのやり取りも、終わりが見えてきた。


前に立つ大臣は老齢で、我が王になったときから変わらず働き続けている男。

貴族位を持つ者の中で、この者を含めまだ大臣として働く者に、我は敬意を持っている。


ディオメシアは、我が望む通りの泥船だ。

亡命した貴族も少なくない。

だが、逃げずにディオメシアのために働くのだ。


どれだけ重圧があろうと、国民に罵られようと。

我の無謀な政に異を唱えながら、覆せないとわかれば頭脳を使って民を守るよう動く。


ディオメシアがまだ、形を保っていられるのは大臣の力だった。



「拡充のための苦言であれば聞かん。民がどう思おうと、必要なのだと言い聞かせろ」

「王よ、あなたが変わってしまわれた理由は、この老いぼれにはわかりかねます。ですが、今回は別なのです。じきに大きな戦いになりかねない、きわめて、大切な」

「そう言うとは珍しい。申せ」

「はっ……世界一の武器庫を持つ、タイタニー社をご存じですか。大国を容易に潰せるとまで言われた大倉庫。武器を買い占めながら、そのすべてをしまい込んでいた」

「大規模な戦いが起きないようにと、タイタニーの翁の食えないところだ。何度打診をしても売ろうとしない」

「それが、その大倉庫が、昨日解放されたとのこと。世界中に武器が大量に流出し、ディオメシアの海岸にも武器が大量に運び込まれたと、報告が……!!」



血の気が失せている大臣の顔は、珍しくもない。

ディオメシアはとうに反乱分子への対応で弱っている。

その中で、大量の武器を手にすれば何が起こるか。

そして、ディオメシアに着いたということは、他国にも流れ着いた可能性がある。


武器を潤沢に持った勢力のぶつかる先は、何であるか。

それは、愚かな先人たちが歴史の中で語っている。



「戦争になるだろうな。ちょうどいい」

「何がちょうどいいのですか!!陛下に仕え続けて二十年ほど。この大臣、今回は言わせていただきます!!なぜ、どうして、この国の未来をお考えにならないのか!!!!」

「我が血に頼る未来など、消し去るためだが」

「な、なんということを。そんな、それでは我々は、あなた様がこの国を大きくするために、戦いをしていると、信じていたのです!!」

「肥大しただけの国はいらん。戦争が起きるのであれば、そのまま我が汚名をすべて被り、首を切って死ねればなによりだ」



何一つ嘘は言っていない。

大臣たちは、呪いを知らない、王族の絶望を知らない。

ただ純粋に、ディオメシアを愛していた者たちだ。


涙を流しているのだろうか、片手で目元を覆っている。

悲しみなのか、我への憎悪なのか。

推測は立てられるが、確定できるほど感情を知っているわけでもない。


この大臣含め、ただディオメシアを愛した者たちが、踏みつけられる戦争だ。

意味があるかと言われたら、その痛み自体に意味はない。


だが、それを言って何になる。

これは復讐、因縁の切断、野望の成就、ディアーナの解放。

それをすべて知ったとき、この大臣を絶望に叩き落とすのはすぐにわかることだ。


大臣がよろけながら部屋を出ていく。

そして入れ替わりにやってきたレオンは、常と変わらないしかめ面。

大臣に怪訝な顔を向けるだけの奴に、安堵した。



「なんですか?会話は聞こえていましたけど、何がそんなに悲しいんでしょう」

「お前ならわかるか、大臣の泣いた意味」

「全く分かりません。俺はエラが過ごした土地であるというだけで、この国には何の思い入れもない」

「七年ほど貴様はこの国にいるだろう」

「だから何なのですか?故郷に帰ったところで、ルシアンが治める国に居場所はない。エラのものがもらえれば、それでいいですから。いい加減、渡してくださいよ」

「あれはやらん。他の物をやっただろう」

「エラが、社交界デビューの時に着たっていうドレス。あれは逸品だったと聞く、もう着る者もいないだろうに、なぜ渡してくれないのですか」

「執着するな、醜い」

「……あなたが、それを言うのか。おかしなところで後妻にこだわる」



エラが着た、空色のドレス。

あれは、エラのものではなく、アンナのものだ。

ディアーナが、ドレスを用意できなかったエラのために着せただけの、貸しもの。


他の人間が着たのであれば問題だが、アンナであればそれくらいは許すだろう。

だが、渡せるものか。

アンナが減ってしまう。

アンナの遺品たちが、あれ以上減るのは我慢ならない。


それを、レオン、貴様は知らないだろう。

何年も、真実に気付かない貴様には。



「戯言を吐くな。戦いはどうなっている」

「市街地まで反乱軍やらが来ています。俺と、兵たちが何とか制圧してますが手が足りない。出撃したらどうですか?昔は戦場で、あれだけ殺してきたのに」

「ディセルの兄様が何を仕掛けてくるかわからん。お前は我の指示通り動け」

「ただの手紙に、そこまで踊らされますか。馬鹿正直に王宮にいろって言葉に従うなんて」

「ここまで順調に事が進んでいる。貴様が文句をつける筋合いはない」



ここから、戦いが激化していくだろう。

反乱分子たちが、武器を持って王宮に攻め入る日も近い。


口角が上がってしまう。

やっと、やっとだ。

やっと絶えることができる、呪いから、生から、きっと蘇ることなく。



「表情豊かですよね、笑顔が恐ろしいです」

「ああ、笑っていたか」

「……はい。見せないほうがいいと思います、じゃあこれで」



レオンが腕をさすっていた。

我が口角を上げれば、いつも奴はああなる。


何を考えているかなど、分析に意味はないのでしない。

奴は、餌さえあれば裏切ることはないのだから。



「アンナ、やっとだ。終わりは近い」



つぶやいたその言葉に、返事が返ってこなかった。

咄嗟に、周囲を見渡す。

見えるはずなどないと、知っていたがそれでも。


頭に、アンナの声がしない。



「……アンナ?」



ああ、なぜだ。

腕が、寒い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。