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101話 何度目かの冬の日

年月は、数える間もなく過ぎていく。

ディアーナが生まれてから16回目。

アンナが死んで、9回目。


太陽が最も嫌う冬至の日。

もう、王宮で誕生パーティーが行われることはない。

この日に生まれたディアーナがいないのだから、当然だ。


この日は、ディアーナの誕生日を最後に行った日から、待つことにしている。

暖炉の明かりのみが頼りの暗い部屋で、ひとり、あの不思議な女を。

ディアーナを止めろと言った、赤銅色髪の、魔女を。


だが、日付が変わる前に扉が叩かれた。



「失礼します。昨日、側近一族の書庫で妙な記述が……って、何してるんですか」

「レオンか。待っている」

「何をですか。今日はもう客人もいないのに」

「だが、もう終わりだ」

「は?」

「今年も、現れないらしい」



レオンの返答のすぐあと、大時計が12時を告げる。

12回鳴る、時計の鐘の音。

12月23日となったからには、今年も待つのは無駄だったということだ。


何やら吠えているレオンを素通りし、まっすぐに歩く。

向かうのは、外。

星明りしかない王宮の敷地内だが、我が歩くのには十分だった。


見えてきたのは、王宮内にある教会。

蘇生に使っていた地下教会の上に建つそれは、側近一族がいない今、使用人たちが掃除を欠かしていない。

向かうのはその奥。

教会の側にある、王族の墓。



「アンナ、嫌な夜だな」



すべての墓を素通りし、最も新しい墓の前に立つ。

墓石に刻まれた名前や、アンナの功績の文字までは見えない。

だが、それでいい。


彼女の功績や、身分に焦がれたことは一度もない。



「ディアーナは生きていると我は考える。あの小賢しさで、早々に死ぬなどあるはずがない。……今日で、16になる。専属たちの状況は掴めたが、ディアーナだけはわからなかった」

『知っているよ。私は君の中からずっと見ているからな』



耳元で、アンナの声が聞こえる。

姿なき、我の中にいるのだという彼女の声だ。

間違っても、この墓の中から蘇ってくるはずのない声。



『もっと墓に来てくれていいだろう?いつもこの日にしか来ないなんて、寂しいじゃないか』

「悲しみに暮れていれば、応える声がある。なぜ来る必要がある」

『私は、アンナであってアンナではない。わかっているだろうに、君ってやつは』

「黙れ。お前はアンナだろう」

『君が作り上げたじゃじゃ馬姫だ。本物じゃない……だが、今日は強く言わないでおこう。悼んでくれるんだろう?私は嬉しい。花でもあれば、もっと嬉しかったがな』



花、花か。

この冬の時期に花を持って来いと。

だが、生前の要望や、破天荒な行動から見れば、大人しいものだ。


それにしても、アンナはどんなものが好きだっただろうか。

華美なものより、実用的かつかわいげのあるものが好みだった。


確か、出会ってすぐのヴァルカンティアにいた頃。

ディオメシアではまず見ない、紫色の花を見せてもらったことがあった。


『なんだ、それは』

『知らないか。これは紫晶草といって、危険な猛毒の花だ』

『我に盛るか』

『するわけないだろう。これを特殊な方法で加工すれば、一転して痛覚を鈍らせる薬になる。痛みで暴れる者たちに使えば、安全に治療ができる』

『信じられんな』

『本当なんだ。近くの山に生えているんだが、寒くなると枯れてしまうからな。医者たちに頼まれて獲ってきた。役に立つし、かわいいだろう?』


まだ、互いが夫婦になることなど考えもしなかった頃の会話。

出来事というものは、忘れないらしい。

喜ばしいことだ。



「次に来ることがあれば、紫晶草をもってくる」

『時期が違うだろうに。そんなことしてる場合か?国民の不満も、属国の怒りも、もうすぐ頂点になる。ルクが望んだ崩壊が、とうとうはじまるのに』

「その予測が当たっているか、あの魔女に問いたいと何度願っても現れない」

『女にご執心とは。さては浮気か?』

「笑えない冗談だ」



赤銅色の髪、どこか高飛車で、不安定な発言。

佇まい、気配、あれは浮気というよりむしろ。


どこか、ディアーナを前にしたような気がして、言いようのない感情になる。

あるはずがない。

あの女は、我が幼い頃から姿変わらずにいた。


あれは、人間ではないのだろう。



「変わったものだ、何者も我の側から消えていく。ディアーナを排除してから、あのジークすら一度も見かけない」

『レオンがいるだろう。ルクが珍しく、育てながらしっかり人を使うなんて』

「……それは」

「どこだ!!どこにいる!!勝手に王宮を出ないでいただきたい!!」



やかましい声が、背後からする。

まだ距離は遠いが、この大声はレオンの物だろう。

振り向けば、松明だろう明かりが一つ見える。


ただ光る炎を眺めていると、それは瞬く間にそばに寄ってきた。

奴の顔は、代わり映えなくどこか怒っている。


近頃、レオンの感情がやけに眩しい。

これは、我にも老いが始まった証だろうか。



「なんでこんなところに。アンナ王妃の墓参りだとでも?」

「お前に何か言われる義理はない」

「エラの墓は作らなかったくせに。先妻の命日に墓参り?……エラのものがなかったら、とっくにこんな国出てってる」

「エラの死体は跡形もなかった。入れるものがない墓を、なぜ作る必要がある」

「墓石すら、そこにいないだろうがエラだと思えば、俺は毎日でも会いに行く」

「無駄なことだ」



アンナとの逢瀬を、誰かに見られるのは好ましくない。

踵を返せば、レオンは大人しくついてきた。


もう、側近にして何年も経つ。

側近一族含め、我のものとしてここまで仕えたのは、ツキ以外にレオンしかいない。


歪なことこの上ない男だが、今や奴以上に信用できる人間もいないのだ。



「レオン、お前何歳になった」

「なんですかいきなり。25ですけど」

「駄々をこねることも、我を闇討ちすることもなくなったな」

「駄々こねれば授与日が遠ざかるし、返り討ちにあうのにする意味もない」

「我は、死ぬと思うか」

「死んでもらわないと困る。ちゃんと報告は聞いてもらおう、呪いについて妙なことが分かった」

「なんだ。今更新しいことなどない」

「でも」

「後にしろ。我はもう休む」

「聞けよ!!王族は、死んでも10年寝かせれば勝手に生き返るって」

「すでに知っている。得意げに語るな」



この不死の呪いは、王族にかけられた、祈りの呪い。

死した王族を、どうか蘇れと望む者の願いに、応え続けるもの。

そして遺体が残っていれば、強い祈りがなくとも10年後、よみがえる。


エラが死んでいるならば、蘇るわけはない。


側近一族がいなくなろうが、王族という絶対的なものが国民の中にある限り、死は訪れない。

我は今、何歳になるだろうか。

数えることが、ひどく面倒だった。

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