14話 王都アストール散策①
「……納得いかねぇ」
「まだぶーぶー言ってるっ。仕方ないでしょっ」
「そうは言ってもさ、酷くね?」
街灯が光る、王都の街並みを眺めながら、服屋や宿屋を探しつつ、とぼとぼと歩いている。
「あのギルド、ぼったくり過ぎだろ」
「それでもお父さんは、小金持ちっ」
「そうだけどさぁ……」
冒険者ギルドで、身分証の提示を求められたけど、そんなもん持っている訳もなく、「ないのでしたら、五割減となりますが?」とギルド嬢に脅されて、泣く泣く了承しましたとも。
「二百万が、身分証ないだけで半分になるとか。本当にアレは、適正価格だったのか……」
「知らないの」
「だよなぁ。価値なんて分からんてっ」
異世界あるあるの、鑑定スキルなんてものがあれば、一発で貴重かどうかが分かるのに、そんなスキルは持ってません。
「空間収納が、あるだけマシか?」
「お父さんは、変な魔法も使えるでしょっ」
「アレを、使えるとは言わない」
ミルンが住んでいたボロ小屋を、一瞬で消炭にしたり、高圧の水を噴射したりと、コントロールが出来ないモノを、使いたくはない。
「すんすんっ、串焼き屋開いてるっ!」
ミルンが俺の着ている、ローマ風衣装を引っ張るが、脱げちゃうから止めて欲しい。
この下はパンイチだからね。
「はいよ、分かってるよ。約束だったからな」
「お肉っ!」
尻尾を振り振りさせながら、串焼き屋に向かうミルンの後を追って、ゆっくりと歩く。
体力が限界に近いから、早歩きは無理です。
「お肉下さいなっ」
「へいらっしゃ……なんだぁ? 貧民街の餓鬼が、何しに来やがったっ。金もねぇ癖に、寄ってくるなってのっ」
「ひんみんがい? お金ならあるのっ」
「あんっ? なんで金持ってんだ? まさかおめぇっ、盗んだんじゃねぇだろうなっ」
声がデカいから、よく聞こえるわぁ。
あの屋台の店主、ミルンを見て直ぐに、貧民街の餓鬼って言ったよな……やっぱり異世界にもあるんだなぁ、そんな場所。
「おいおっさん、串焼きは幾らだ?」
「ああんっ? おっと、いらっしゃい。串焼き一本、三百ストールでさぁ」
銅貨三枚、今のミルンなら支払えるな。
「だってさミルン」
「銅貨三枚持ってるのっ、はいこれっ!」
鼻息をふんすっ──と荒くしたミルンは、懐から小さな袋を取り出すと、銅貨を三枚取り出し、店主の目の前に並べた。
「えっ……銅貨……」
「串焼き下さいなっ!」
「固まってないで、早く串焼きを渡せよ」
俺とミルンを交互に見て、戸惑いの顔を浮かべる店主だが、体は自然と、串焼きをミルンに差し出していた。
反射的に動くとか、職業病っぽいな。
「串焼きっ! いただきますっ!」
「すぐ齧り付くとか……」
ミルンはその、立派な犬歯の生えた小さな口で、串焼きを頬張り、幸せそうな顔をして、尻尾を全力で回転させている。
「……俺も食べておくか。おっさん、俺にも串焼きを一本くれ。あっ、お釣りあるかな?」
「へぃ……あのっ、そこの獣族とは、どういったご関係で? 貧民街の餓鬼じゃぁ……」
「俺の娘だけど? なんか文句あるか?」
「いえっ、ねぇでさぁ……どうぞっ」
熱々の串焼きを受け取り、こっそりと『空間収納』から皮袋を取り出して、その中から銀貨を一枚抜いて、店主に渡す。
釣りは銅貨七枚、七百ストールだよな。
「見た目は美味そうだな……どれどれ」
濃厚な甘辛タレと、何の肉かは分からないけど、少しだけ硬い肉との相性は良く、噛む度に肉汁が溢れ出てきて、肉を食ってますといわんばかりの、食べ応えのある一品。
「何これ凄え旨いんですけどっ」
「もぎゅもぎゅっとするの」
「確かに、噛みごたえ抜群だよな」
店主のミルンに対する反応は、俺の逆鱗に触れかけだったけどもだ、ミルンは気にしてなさそうだし、肉も旨いから許してやろう。
「ご馳走様っと。小腹も満たせたし……俺とミルンの服を、買いに行かなきゃだなぁ」
「ミルンの服も?」
「そうだぞ。その服、結構前から着てるだろ。水洗いしてるから、臭いはしないけど、小さそうだしボロボロだからな」
ミルンはずっと、同じ服を着てるし、山暮らしだったから、替えの服がないのだろう。
「ミルンのお金、もうないよ?」
「そんなん気にするなっての。着替え用の服や下着もろもろ、全部買ってやるぞ」
「……綺麗なお洋服っ!」
せっかくお金を手に入れたんだ。ここは、今後必要な物とかを、買うべきだからな。
「さあミルンっ。周囲を警戒しつつ、お洋服店を探すんだ。ついでに宿もね」
「頑張りますっ」
冒険者ギルドには、俺の手配書とかはなかったけど、兵士に遭遇しないよう、気を付けて行動しないとだ。
「にしても……街灯のアレ、どうやって光ってるんだ? やけに明る過ぎるだろ」
電気、な訳ないし、異世界の不思議アイテムとかかな。火にしては、光り具合が違うし。
「どうしたの?」
「ミルンは、アレが何か知っているか?」
「知りませんっ。ラクレル村にもなかったよ。あれがどうかしたの?」
「いや、気になっただけかな」
ミルンは興味なさそうだし、いつか時間に余裕が出来たら、色々と調べてみるか。
優先すべきは、お洋服だ。




