13話 先立つモノを得る為に⑤
俺は一体、いつまで待たされるんだろうか。
窓から差し込む夕日が、ゆっくりと沈んでいき、暗くなってきてんだけど。
「……」
「ひーまっ、ひーまっ、お暇っ!」
「だよなぁ。他の受付に、木の板が置いてあるけど、あれ絶対『受付終了』って書いてるだろ」
「文字読めないって言ってたのに、合ってるの」
そこはそれ、雰囲気で分かる。
ミミズみたいな文字だけど、この役所感半端ない冒険者ギルドなら、そう書くだろうしな。
「宿探す前に、服屋探そうと思ったのに……とんだ時間のロスだよなぁ」
「ろーす?」
「お肉じゃない。時間の無駄使いって意味だぞ」
「……お肉のお店、閉まる?」
ここで閉まると言ってしまえば、間違いなくミルンは、暴れ出すだろう。
誤魔化しておくしかないか。
「たぶん大丈夫だろ。魔石の査定終わって、買取りしてもらったら、見に行ってみるか」
「むぅぅぅっ、早くして欲しいのっ」
ミルンの尻尾が、膨らみかけてるから、相当苛々を、我慢しているようだ。
このままだと、受付カウンターを飛び越えて、さっきのギルド嬢を襲いに行くかもなぁ。
そんな事を思っていたら、「お待たせ致しましたーっ!」と早歩きで、ようやく戻って来た。
「遅いのっ! お幾らですかっ!」
カウンターをタンタンッと叩いて、ミルンがプチ怒で抗議をしている……可愛いな。
「申し訳ございません。ギルド長が対応中だったもので。先ずはゴブリンの魔石から、買取り価格をお伝え致します」
「ミルンの魔石っ……お幾らっ」
ミルンがゴクリと、喉を鳴らした。
「ゴブリンの魔石は、一つ百五十ストール。三つですので、四百五十ストールとなります」
「んっ? それって、銅貨四枚と石貨五枚って事じゃあ……ゴブリン安過ぎないか?」
「……パン三つ分っ!?」
ほら、ミルンがショックを受けて、面白い顔をしたまま、固まっちゃったよ。
あのゴブリンが一体、パン一個分って、冒険者の労働環境、マジでどうなってんの。
「ゴブリンは数も多く、その魔石も手に入れ易いので、この価格となっております」
数が多いというのは、同意しよう。実際ラクレル村で、大量のゴブリンと戦ったしな。でもそれにしたって、安過ぎる気がするぞ。
「ゴブのっ、魔石……パン三つなのぉ」
「どうするミルン。その魔石売るか?」
「売るしかないっ。持っていても邪魔っ」
尻尾が垂れ下がったまま、プチ怒の状態をキープするとか、中々器用な尻尾だな。
「という事らしいです」
「畏まりました。次に、このハイオークの魔石ですが……本当に、冒険者ギルドに入りませんか? 買取り価格も色が付きますよ?」
「丁重に、お断りします」
このギルド嬢、ヤケにしつこいな。
「そこをなんとかっ、考えては頂けませんでしょうか? ハイオークを討伐出来る人材は、とても貴重なので御座います」
「知らんがな。本気でこっちは疲れてるんだ。さっさと魔石の買取り価格を、教えてくれ」
「……」
「黙ってても、意味はないからな」
「……チッ」
今このギルド嬢、舌打ちしたよな? 見間違いや、聞き間違いじゃあないよな? アレか、見た目は清楚なのに、中身はブラックなのか。
「せめて、横向いて舌打ちしなよ」
「何の事でしょうか?」
「……もういいから、さっさと言ってくれ」
ただでさえ、痛みを堪えて長時間待ってたのに、こんなやりとりをされたら、俺だってプチ怒流になっちゃうぞ。
「コホンッ、ハイオークの魔石の査定額ですが、二百万ストールとなります」
「はいはい、それで良いから買い取って……?」
このギルド嬢、今なんて言った? 二百万ストールって、言ったような気がするけど。
「えっと、すまん。上手く聞き取れなかった。もう一度、この魔石が幾らだって?」
「査定額ですが、二百万ストールとなります」
「……んんっ?」
横に居るミルンに、顔を向けると、「にひゃく……まん?」と、耳をピンッと立てて、ぷるぷる震えている。
二百万ストールって、金貨が二十枚?
パン一個が百五十ストールだから……一万三千個以上、買える計算なんだけど。
「ゴブリンの魔石が、一つ百五十ストールなのに、なんでこの魔石は、桁が違うんだよっ」
「それ程に、上位の魔物の魔石は、貴重なので御座います。オークの魔石でしたら、肉がなければ……千ストール程度でしょうか」
「千っ……あそこの依頼書には、オーク三体で一万ストールって書いてたぞっ」
「あの依頼内容はあくまでも、"肉ありき"の報酬となっております。魔石はオマケですね」
何それ……命懸けで、魔石だけ持って帰って来ても、ただのオークだと千ストールって、割に合わなさ過ぎる。
「魔石よりも、肉が貴重とか……っ、それだと、ハイオークの肉があったら?」
「提示額の"三倍"になります」
「六百万っ……マジかぁ」
隣に居るミルンに、顔を向けると、「あのお肉がっ……」と、口をもごもごさせて、食べた時の事を、思い出しているのだろうか。
あの時のミルンが、やけに美味しそうに、生食していた訳だ……高級肉だったのね。
「いかがなさいますか?」
「そんなもん……是非買取りお願いします」
「畏まりました。それでしたら、身分証をご提示下さい。直ぐにご用意致します」
「……なんて?」




