13話 先立つモノを得る為に④
そうして待つ事、何時間経ったのか。
時計なんてモノはなく、遠くからゴォーンゴォーンと、鐘の音が響いてくる。
「百四番の方、どうぞーっ」
壁の上の窓に、顔を向けると、夕焼け色の光が差し込んできており、さっきの鐘は夕方を告げる為のモノだったのか。
「……眠い」
隣の席を見ると、ミルンが盛大に涎を垂らしながら、「おにぐぅ、むにゃむにゃ……」と寝言を口ずさみ、爆睡しています。
「ふわぁふ……俺も寝たいけど、流石に無理か」
眠気眼を擦りながら、意識を保つ。
緊張のし過ぎは不味いが、それ以上に、油断のし過ぎの方が、もっと不味い。
寝ている間に、兵が来ました。
捕まりました。
なんて事になったら、間抜けにも程がある。
「あと少しだし、用意しておかなきゃだな。ミルンさんや、そろそろ起きろーい」
ミルンの尻尾をもふもふすると、「むぅぅぅ、もうお夕飯の時間?」と目を擦りながら、ゆっくりと動き出した。
「寝ぼけてんのね。もう少しで番号呼ばれるだろうから、起きてなよ」
「ばんごぅ……おきるぅ」
もそもそと椅子に座り直し、耳をぴこぴこ動かしながら、少しずつ目が開いていく。
こういうところは、まだ六歳児だよな。
「百五番の方、おられませんかーっ。百五番の方ーっ……百六番の方、どうぞーっ」
「マジで、役所感が半端ないなぁ。ミルン、順番きたから、受付に行くぞーい」
「うにゅ……ゴブの魔石、売るのぉ」
皮袋を手に、ふらふらと歩き出すミルンを支えながら、ギルド嬢の待つ席へと向かう。
「百六番の方ですか。番号札をお預かりします」
「はいよ。これで良いか?」
ミルンの手から木の板を取り、ギルド嬢に渡すと、まじまじと確認したあとに、営業スマイルを向けてきた。
「はい、確認できました。本日の御用件を、お伺いいたします」
このギルド嬢……何で俺じゃなくて、ミルンをガン見してるんだ? なんか目が怖い。
「ここって、魔石の買取りとかしてるか? 冒険者ギルドに、登録はしてないんだけど……」
「承っております。ギルド会員でない場合、買取り金額が一割程減りますが、それでも宜しければ、買取りさせて頂きます」
「ギルド会員か……」
一割減額って言われても、魔石の相場なんて知らんし、買い叩かれない様に、注意して話をしないとだな。
「冒険者ギルドに、登録なさいますか?」
それは暗に、日雇い労働者になれって言ってるのと、同じだからね?
「冒険者っ」
「っ……ミルンさんや、急に覚醒しないでね? びっくりしちゃうだろ」
「冒険者って、楽しいですかっ」
純粋なケモ耳の質問に、ギルド嬢の顔が、一瞬だけ困った様な、何と言ったら良いのかと迷う様な、そんな顔になった。
「えぇっと……楽しいとは思いますよ」
「嘘吐きなのっ」
「嘘では御座いません。決して嘘では……」
「犬人に、嘘は通じないのっ」
ミルンはアレかな? 嘘発見器。
ケモ耳の直感なのか、尻尾をふりふりと揺らしながら、ギルド嬢をジッと見ている。
「話が進まんから、冒険者ギルドの登録は無しで。魔石だけ、買い取って欲しいんだけど」
「かっ、畏まりました……魔石をご提示下さい」
「はいよ」
拳大の濃い緑色の魔石を、ゴトっとカウンターに置くと、同じ様にミルンも、灰色の小ぶりな魔石を三個置いた。
「……えっ?」
なぜだろうか……ギルド嬢の目が見開いて、緑色の魔石を、凝視している。
「ギルド嬢さんや、どうしたんだ?」
「えっと、あの……この魔石を、どこで?」
どこで? 手に入れたのって聞きたいのか?
「大きな豚……オークから取ったぞ」
「……」
「急に黙るなよ、不安になるだろっ」
「コホンッ……場所を聞いております。ハイオークが近場に出たとなると、一大事ですので」
ギルド嬢が、カウンター越しからぐいぐいと迫ってくるんですけど、何なの急にっ。
「どこでって……魔龍の川近くで遭遇して、運良く倒す事が出来たんだ」
「魔龍の川にっ……よく死にませんでしたね。ハイオークの体は、どうされたのですか? 貴重な肉なのですが」
「貴重な……肉?」
倒してすぐ、ミルンが生食しちゃったし、骨の一本も残ってないんだけど。
ミルンの顔を見ると、肉という言葉を聞いたからか、少し涎が垂れてきてます。
「魔石の買取りを、お願いしますっ」
「っとそうだ。そんな話よりも、この魔石の買取り額を、提示してくれよ」
根掘り葉掘り聞かれるのも嫌だし、魔法の事は伏せておいた方が、正解だろうな。
「……」
「……何で無言なんだよ」
ギルド嬢が、ジッと見つめてくる。
これ、嫌な感じがするなぁ。
言っちゃあなんだが、俺は美女に見つめられても、心臓がバクバクと鳴るだけで、顔には一切出さないぞ。
「冒険者ギルドに、入りませんか?」
「入りません」
即答一択。
誰が好き好んで、命を賭けた日当一万の、日雇い労働者になるんだよ。そんなん、命が幾つあっても足りないだろ。
「お姉さんっ、魔石の買取りっ」
「ほら、ミルンがちょい怒だから、早く査定してくれっての。こっちは疲れてるんだ」
「くっ……しばしお待ち下さい。ハイオークの魔石ともなると、買取りには、ギルド長の許可が必要となりますので」
そう言うと、ギルド嬢は席を立ち、そのまま奥へと引っ込んでしまった。
「……なあミルン」
「なあに?」
「あのオーク、そんなに珍しかったのか?」
「あの大きさは、珍しいのっ」
住んでいたミルンが、そう言うのなら、間違いないのだろうけど。大事には、ならないで欲しいなぁ。




