13話 先立つモノを得る為に③
冒険者ギルドの隅っこで、他の人の邪魔にならない様しゃがみながら、ミルンの貨幣講座を受講します。
「お父さんの居た日本では、貨幣の事をなんて言ってたの?」
「貨幣? よくそんな言葉知ってんな……日本だと、一円、十円、百円みたいな感じで、円って言ってたぞ」
「ふーん。ここだと、ストールって言うの」
国名も知らなかったのに、お金の事は知ってるとか、誰に教えてもらったのかねぇ。
両親は亡くなったって聞いているけど、まさか、赤ん坊の時の記憶を、覚えているのか?
「ジアストール王国だから、ストールとか、分かりやすくて良いな」
「そうなの。光らない石で、十ストール。銅のやつで、百ストールです」
「光らない……石? 石貨ってやつか。銅貨が百って事は、銀貨が千なのか?」
「そうなのっ」
ふむふむ、となると……さっきの討伐依頼の報酬である、半金貨ってのは幾らなのか。
「半金貨は、一万ストールであってる?」
「飲み込みが早いっ」
「あんがとさん……物価が分からんと、なんともなぁ」
「ラクレル村のパン一つで、百五十ストールだったの。値札が残ってたっ」
流石ミルン。村を巡回した時に、しっかりと確認してたのね。俺も目にはしてたけど、ただのミミズにしか見えなかったから、ただの模様かと思っていた。
ジアストールの貨幣は、分かりやすいな。
石貨十枚で、銅貨一枚。
銅貨十枚で、銀貨一枚。
銀貨十枚で、半金貨が一枚となる。
「金貨は幾らになるんだ?」
「十万ストールっ」
「成程ね。本当に分かりやすいな。となると、パンは銅貨一枚と、石貨五枚か」
「計算が早いのっ」
「そりゃあ、大人ですから」
言葉は通じるし、金の価値さえ分れば、文字が読めなくてもどうにかなる。
文字は、勉強する暇なんてないからな。
「……」
「また悩んだお顔なのっ」
「そりゃあ……オーク三体討伐で、半金貨一枚って、冒険者達の目が、死ぬ訳だよなぁ」
それに、貨幣を情報で知れたところで、実際にどんなものかを確認しないと、どの貨幣が石貨なのか分からんぞ。
「魔石売る時にでも、確認してみるか」
「ゴブの魔石を売って、お金を手に入れるっ」
「そうだな……服も買いたいし、宿でのんびり出来る金額だと、有り難いんだけど」
ギルド内を見回しても、手配書は見当たらないし、今のところ、捕まる気配はない。
気は抜けないけどな。
「番号を呼んでたから、札がありそうなモノだけど、どこにあるんだ?」
「あそこにあるのっ。取ってくるーっ」
そう言ってミルンは、受付カウンターの端にある、木の板を取り、空いている席に座って、こっちに来い来いと手招きをしてきた。
「手招きミルン……ほっこりする光景だなぁ。緊張し過ぎも、良くないか」
重たい体をゆっくりと動かし、ミルンの右隣り、通路側の席へと腰を下ろす。
「どっこいしょ」
「まだ体痛む?」
「大丈夫だよ。心配してくれて、有り難うな」
本音を言えば、物凄く痛い。
さっきから嫌な汗が、額を濡らしているけどもだ、ミルンに心配をかけたくない。
「んで、その札には、何番って書いてるんだ。ミミズの様な線が一本と、小さな線が六本書いてるっぽいけどさ」
「百とんで六番っ」
「……んっ?」
「聞こえなかった? 百六番なのっ」
耳を澄まして、受付にいるギルド嬢っぽい人の声を、しっかりと聞いてみる。
「七十二番の方、こちらへどうぞーっ」
ギルドに入った時は、七十番の人を呼んでいて、今呼ばれたのが、七十二番だ。
ミルンから貨幣の話を聞いたけど、体感時間で十分程度しか、時間は経ってない。
「……ガチでお役所じゃん」
「なあにそれ?」
ミルンに言っても、分かるかどうか。
俺達の番の前には、三十人以上が待っていて、確実に長時間待たされます。
「なあミルン」
「なあに?」
「暇だろうけど、耐えるんだぞ」
「?」
可愛く首を傾げているが、すぐに俺の言葉の意味を、理解する事になるだろう。
役所の待ち時間は、本当に長いんだ。
六歳児の、斧を振り回す元気なケモ耳に、この苦行が、耐えられるかどうか。
「すんすんっ、なにか変な臭いがするの」
ミルンの左隣りに座っている人が、ビクッと震えて、ゆっくりとミルンから距離を取る。
「この臭いって、なあに?」
「ミルン……お口チャックしてような?」
「ちゃっく?」
ここは、冒険者ギルドだ。
しかも、項垂れたまま座るという、日雇い労働者的な人達がいる、暗い空間だ。
そしてミルンは、可愛い犬耳。
嗅覚が優れている。
「周りに座ってた人が、離れていくのっ」
「そうだろうよ」
「なんで?」
誰だって可愛い子供に、遠巻きに臭いなんて言われたら、心が折れるんだよ。
離れていく人達の顔、涙で濡れてんじゃん。
「大人しく、順番を待ってような?」
「むぅ、お腹すいたっ」
「興味なくなるの、早くね?」
周りの目を確認して、『空間収納』から肉の切れ端を取り出し、ミルンの口に放り込む。
「あむっ、薄味……」
「我慢してくれ。流石に人目がありすぎるから、こんな場所で料理は無理だぞ」
「仕方ないっ」




