13話 先立つモノを得る為に②
ミルンと二人、横に並びながら、目の前の立派な建物を、見上げている。
「これ……西洋建築か?」
「なあにそれ?」
石造りの外壁に、塗装された屋根。
高さ的には、三階建てくらいだろうか……横幅も、周りの家の三倍はあるぞ。
「剣や槍を持つ人達が、出入りするとか、マジでファンタジーっぽいな……」
「せいよいふうって、なあに?」
「俺の世界の、昔の建物っぽいって事だぞ」
「日本?」
残念ながら、日本じゃあないんだ。
この街並みといい、奥に聳え立つ城といい、どこからどうみても、中世っぽいの。
「この異世界が、地球違うのは、魔物の存在や、魔法の有無ってところかねぇ」
「?」
「なんでもない。入るか」
「入るのっ」
そう言って、足を進めたのだが、扉の前でふと──嫌な想像をしてしまい、足が止まった。
「どうしたの?」
「いや……ちょっとな」
異世界あるあるの展開だと、冒険者ギルドって、見慣れない奴が入ったら、絡まれたりするんじゃなかろうか……。
「……急に、入りたくなくなってきたわ」
「駄目っ。お金が無いと、ミルンのお家の材料が買えないし、宿にも泊まれないのっ」
「うん、分かってるんだけどね」
持っている魔石を売って、金を得ないと、このローマ風衣装からも、脱却出来ない。
それは分かっているんだ。分かっているんだけど、疲弊しているこの状態で、襲われようものなら、フルボッコされる自信があるぞ。
「他に魔石が、売れそうな店は……」
王都の大通りっぽいから、多種多様なお店が並んでいるけど、正直言って分からん。
武器屋かアレ?
あそこは……串焼き屋っぽいな。ミルンの口から、涎が凄い出てるわ。
「……」
「お父さん、ギルドに入るっ」
「それしかないか……良しっ、腹を括るぞ」
そう意気込み、ギィィィ──っと嫌な音を出す扉を押して、建物の中へと足を踏み入れる。
そして俺は──予想外の光景を、目にした。
「……えっ」
冒険者ギルドのイメージとしては、酒場っぽいカウンターに、丸いテーブルが幾つも置かれた、荒くれ共の溜まり場だろう。
「これが、冒険者ギルドなの?」
ミルンまでもが、可愛く首を傾げて、不思議そうな顔を、こっちに向けてくる。
そりゃそうだわ。だってね、仕切り板で区切られた、横長のカウンターで、ギルドの制服を着た女性が、「七十番の方どうぞーっ」と、どこかで聞いた事のある台詞を、言ってんだもん。
「……」
カウンターの前には、二十席以上の椅子が設置されており、そこに座っている、筋骨隆々な冒険者達は、騒ぐ事なく、何故か下を向いて、静かに座っている。
「なあ……ミルン」
「なあに?」
「ミルンは、冒険者ギルドに入るのって、初めてだよな? あれを見て、どう思う?」
あれとは、項垂れている冒険者達の事。
「お顔が死んでるのっ」
「だよな……」
この空気には、身に覚えがある。
日本での社畜人生の中で、たった一度だけ転職をした時に、お世話になった、あの場所だ。
「ある意味冒険者なのか」
「お父さんのお顔も、暗くなってるよっ」
「うん……ちょっと待っててくれ」
一度外に出て、深く息を吐き、笑顔で行き交う人々を眺めてから、ゆっくりと建物の中へと戻ってみる。
「……落差やばくね?」
「あそこに、何か貼ってるのっ」
「あっ、勝手に行くなって、ミルン」
横目で、死んだ顔をしている冒険者達を見ながら、ミルンの後を追いかけると──壁一面に、依頼書とおぼしきものが、貼られていた。
「良かった……ここはちゃんと、異世界だ」
「なに言ってるの?」
「一人言だよ。気にしなくても良いぞ」
壁に貼られた紙を一枚、剥がして見てみる。
どこかで見た様な、二足歩行の豚が描かれてるけど、討伐クエストっぽい感じだな。
「報酬は……」
「お安い金額なのっ。普通のオークで三体討伐で、半金貨一枚っ」
「へぇ……」
一度天井を見て、もう一度紙を見てみる。
「なあミルン」
「なあに?」
「これ、なんて書いてるんだ?」
「……?」
何を言ってるんだろうって顔をして、こっちを見ないでね。挫けちゃうから。
これは、今まで気が付かなかった。
ラクレル村でも、目にする事はあったが、ただの模様だと思っていた。
「文字がっ、読めないとかっ」
「っ!?」
ミルンの顔が、クワっとなった。
これはアレだ、本気で驚いてる時の顔だ。
俺もびっくりだよ。
「こんな、ミミズみたいな絵が文字だなんて、普通思わんて……」
「ミルンは、読めるよ?」
「うん、そうだね。ていうか、なんでミルンは、文字が読めるんだ。一人で山暮らしを、してただろうに……」
ミルンの頭の良さは、六歳児を、遥かに超えている感じがするぞ。
本当に六歳なのか……そんな事を気にしている余裕なんて、俺にはありませんとも。
「頼むミルン。魔石を売る前に、貨幣の価値だけでも、教えてくれないか」
「良いよ? 見返りは、お肉を要求しますっ」
「……魔石が売れたらね」
この食い意地は、腹ペコ六歳児だわ。
受付の札っぽい物を取る前に、文字が読めない事に気付けて、本気で助かったな。
「お金ないから、口で説明するのっ」
「お願いします」




