12話 ジアストール王国の女王②
ジアストール王国の首都・アストールは、王城を中心に、東西南北の門に向かって、下る様に道が整備されており、故に、暴動が起きているとされる北門までは、一直線。
「決して民を巻き込むなっ! 行くぞっ!」
「「「ははあっ!!」」」
プゥゥゥ──ッと緊急時の笛を鳴らし、行き交う馬車や民を避け、マッスルホースを北門へと走らせる。
第二騎士団騎兵隊、五十名。
僅かな時間でマッダリー大臣が召集した、即応性と武力に長けた、精鋭達。
「ダイルっ! 冒険者達の説得はお主に任せたぞっ! 儂は聖女を抑えるでのっ!」
「分かっておりますっ!」
騎兵隊の隊長、ダイル・プシュバー。
元高ランク冒険者で、幾度もの魔物の進行を食い止めてきた、武勇に優れた者。
暴徒化した民衆の多くが、冒険者達であるのならば、顔見知りのダイルの言葉であれば、聞いてくれるであろう。
冒険者は、国に属さない。
西のアルカディアス、南の連合国家、我が国であるジアストールの三カ国の中で、中立を保つ独立した組織である。
「儂の言葉ではっ、止まらぬからの」
「心中お察しいたしますっ」
「っ、見えた──総員抜剣っ! 決して殺してはならぬぞっ! 良いなっ!」
「「「ははあっ!!」」」
下手に死者を出してしまっては、冒険者達からの不況を買い、面倒事になりかねない。
そんな事を考えつつも、北門へと到着したのだが──これは一体、どういう状況なのか。
「暴動が……治まっておるじゃと?」
傷付いた門兵達が、そこかしこに転がっているものの、息はしており、なによりこの場にいる筈の、暴徒化した民衆がいない。
「なんじゃ、どういう状況なのじゃ……ダイル隊長っ! 転がっている門兵を介抱し、事情を聞き出すのじゃっ!」
「ははあっ! アスル班は負傷者の治療っ! レイゲッツ班は周囲での聞き取りっ! サムゲッツ班は外壁内部の調査だっ! かかれっ!」
「「「ははあっ!!」」」
マッスルホースから降りた兵達を横目に、周囲をくまなく観察する。
「小娘め……孤児院に逃げ帰ったのかっ」
そうなれば、少し厄介だわ。孤児院には、元近衛騎士団団長である、院長がおりますし、冒険者ギルドよりも、手が出し難い。
「お兄様の、元近衛……っ、儂に何か隠しておるのか。影共も妙に、従順であったからのぅ……」
赤判定の者の捜索を、『畏まりました。では影達、行動開始』と、冗談の一つも言わずに行動に移すなぞ、おかしいと思ったのよね。
「呼び出すか……いや、ここでは不味いのぅ。流石に人の目がありすぎる。孤児院に行くしか、あるまいて……」
「陛下っ! 門兵隊長のメイビスを発見しましたっ! いかがなさいましょうかっ!」
「っ……」
孤児院へ向かう前に、この場をどうにかしませんと、王都への出入りの管理が出来ませんわね。あの小娘っ……分かっててやったわね。
「事情を聞き出し休ませよっ! 動ける者はこの場の復旧を急げっ!」
「ははあっ!」
「聖女リティナっ、覚えておれよっ……」
◇ ◇ ◇
「ぶあっくしゅっ!?」
「あらぁ、風邪ですかぁ?」
「ずずっ……大丈夫やでニア」
こんクシャミは、誰かがウチの噂をしとるんやろなぁ。タイミング的にいうたら、あん女王ちゃうやろか。
「ふむ、あと少し動くのが遅れていたら、騎士団と鉢合わせるところで、御座いましたな」
「ほんまやで。あん魔王のにーちゃんも、上手く逃げれたようやし、どうにかして合流したいんやけどなぁ……」
壁の上から声が聞こえた時は、正直あの魔王のにーちゃん、なにしとんねんっ! て思うたけど、ミルンの声も聞こえたし、元気そうで良かったわ。
「して、聖女様。今はどこに向かっておられるのですか。周りがやけに、静かなのであるが」
「んっ? あぁ、ウチの家やで」
「聖女様の……家ですと?」
ヘラクレスはキョロキョロと、辺りを見ているけど、そんな事しとったら、カモやと思われて襲われてまうやろ。まぁ、ウチとニアがおるから、大丈夫やろうとは思うけど。
「ヘラクレスのおっさん。あまりこの辺で、キョロキョロすんなや。危ないで」
ヘラクレスに近付こうとしてた女を、キッと睨み付けると、『チッ』と舌打ちをして、ゆっくりと下がっていく。
その手には──小振りのナイフやろか。
「ここは……なんなのですか」
「あんた、王都に来た事あんねんやろ?」
「こちら側には、来ておりませんので……」
となると、ヘラクレスでもキツいやろなぁ。
王都の掃き溜め、犯罪者の巣窟、なんでもありのヤバい場所が、ここやねんから。
「言うとくけど、ウチから離れんなや。間違った道行くと、身包み剥がれて終わんで」
細い路地裏の先から、『べああああああっ!』と、誰かの悲鳴が聞こえるけど、助けに行く事はない。ヘラクレスが動こうとしても、ニアがすぐにそれを止めて、行かせまいとする。
「あん叫び声は"餌"やで。行ったらあかん」
「餌……ですと?」
「そや。助けに行ったが最後、囲まれて終わる」
叫び声を上げとるのは、下っ端やな。
気持ち悪い声やでほんまっ。
「っ……聖女様の家に、向かっているのでは?」
「そやで。この奥に、ウチらの家があんねん」
こん広い王都には、四つの生活圏がある。
貴族共の暮らしとる、貴族街。
商人共がうろちょろしとる、商業通り。
平民達が暮らしとる、平民街。
んで最後がこの先の、貧民街やな。
「ふむっ、聖女様は、貧民街の出なのですね。初めて知りましたぞ……」
「王都やと知られとるで。ウチはここん孤児院の出やし、ニアもそうや。せやからウチと一緒におれば、襲われる心配がないねん」
「襲って来たらぁ、細切れですからねぇ」
そやねんなぁ。貧民街の新顔やったら、ウチを知らんから、平気で襲ってくんねんけど、ニアに即殺されて放置されるねん。
「まさか王都に、この様な場所があったとは」
「驚く事ちゃうやろ。魔物に家族襲われて、親失ったガキが行くのは、あん糞教会か、この先の貧民街やからな」
「聖女様は、教会所属なのでは?」
「ウチが力を貸しとるだけやで。癒しの力があるからて、聖女なんて肩書き寄越してきおったけど、そんなんどーでもええわ」
困っとる人がおったら治す。
金持ちからは大金を取って、貧乏人からは適当に貰うて、タダで治した事はない。
そん方が、双方にとって後腐れがない。
「聖女なんて肩書きは、正直に言うとや、ウチには要らんねん。タダで教会に奉仕しろとか、アホらしいやん」
「ぬぅっ……聞かなかった事にするのであるっ」
「肝の小さい筋肉やなぁ」
教会で思い出したけど、そういえばあの三人……ラクレル村へ連れて行った、あの教会のおっさん達は、どうしたんやっけ?
「なぁ、ヘラクレスのおっさん」
「……なんでしょうか」
「ラクレル村でやらかしたっていう、あの教会のおっさん達は、結局どうしたんや?」
「……っ」
こん顔まさか、忘れてたんかっ。
ウチらの馬車には乗せてなかったから、縄で縛ったまま、ラクレル村に放置しとるんかっ。
「……飢えて死ぬんちゃうん」
「うぬぅっ」
「まぁ、教会の奴らは変にしぶといし、自分らでどうにか、するやろうけど……」
今は気にしても意味ないし、さっさと孤児院に帰って、院長に報告せなな。魔王のにーちゃんも探さなあかんし、大忙しや。
「ほら、さっさと行くでっ」
「うっ、うむっ」
「帰って報告が済んだらぁ、探さないとですねぇ」
「ホンマにな……あん魔王のにーちゃんは、どこを彷徨っとるやろな」




