10話 駆け抜ける犬耳幼女②
ジアストール王国首都、正門検問所の外壁内部に、どうやったら入る事が出来るのか。
お父さんが連れて行かれた光景を、ジッと見ていたお陰で、入口は分かっている。あの水晶を触る場所の隣にある、小さな通路。
「あそこっ……」
問題は、往来する人達を監視している、詰所に居た兵士とは違う雰囲気の、門兵達。
その門兵達を、どう対処するか。
「このまま突撃……するのは無理があるのっ」
「ここはウチらにまかせときーや。行くでニア」
「分かりましたぁ」
「リティナ、なにする気?」
リティナとニアノールは、ゆっくりとした足取りで、門兵達に近付いていき、あの水晶を持っている、お父さんを捕まえた門兵の前で、立ち止まる。
「えっと……聖女様、どうされましたか?」
「あーっ、あーっ、コホンっ……隊長はどこやゴラァっ! ウチに剣を向けた理由を説明しにこんかいあほんだらあっ!!」
「っ、ちょっ! 聖女様なにをっ!」
リティナは門兵から水晶を取り上げて、その水晶をニアノールに渡し、門兵に詰め寄る。
「どうしたもこうしたもあるかいっ! こん先の詰所でなあっ! 若い兵士が剣を向けてきおったんやっ! それがどういう意味を持つんかっ、分かっとんのんやろなあっ!」
ここは検問所。今も王都を出入りする冒険者や商人達が、自分たちの番はまだかまだかと、列をなして並んでいる。
その全員の視線が、リティナに向いた。
「あれ、聖女様だよな?」
「あの派手な見た目、間違いないだろ」
「兵士が聖女様に……剣を向けた?」
「儂らの聖女様に、国の兵士が……剣を?」
リティナが発した言葉は、ざわざわ──と並んでいる者達に伝播していき、「せっ、聖女様お静かにっ」門兵は焦りだす。
「聖女護衛騎士のニアノールがぁ、証言致しますよぅ。ほらぁ、早く隊長さんを呼んでぇ、釈明してくださぁい」
そこへ、ニアノールの追い打ち。
「国軍の奴らっ、聖女様を襲ったのかっ!」
「おいおいおいっ、俺の母ちゃんは、聖女様に助けてもらって、元気になったんだっ」
「儂だってそうじゃっ。疫病が流行った時も、笑って皆を助けてくれたっ、功労者じゃぞっ」
「私達の聖女様を、国軍が襲ったってことっ?」
並んでいる人達が、口々に聖女への恩を言葉にしながら、どんどんと殺気立っていく。
「ゴラァっ! 早よ隊長呼ばんかいっ!」
「せっ、聖女様っ! こっ、ここで声を荒げられますとっ、いくら聖女様といえどもっ、許される事ではないのですよっ!」
「ウチが悪い言うとんのかゴラァっ!」
周りに居た門兵達は、じりじりと、リティナとニアノールを包囲するように、周りを固めていく。が、その動きが悪かったのだろう。
一人の男が──『おい見ろっ! あの兵士っ、槍を構えているぞっ! 聖女様を襲う気だっ!』指を差し声をあげた。
列に並んでいた冒険者達が、腰から剣を抜き、斧を持ち、弓を構え、あっという間に、一触即発の空気となる。
「おい門兵共っ! 聖女様に槍を向けて何してやがるっ! その槍を下ろせっ!」
一人の冒険者が、剣を片手に前へ出た。
「っ、その剣を捨てろっ! ここでの抜剣は重罪っ! 冒険者とて例外は無いのだぞっ!」
一人の門兵が、声を荒げる。
「何言ってやがるっ! お前らこそっ、その聖女様がどういう存在かっ、分かってて槍を向けてんのかっ!」
「俺達の癒し手だぞっ!」
「聖女様に武器を向けるなんてっ、ジアストールに住まう者達をっ、敵に回すつもりかっ!」
並んでいる者達の、その声を荒げる姿を見て、リティナに対する印象を、改め直した。
残念聖女じゃない。
村長の腕を治した様に、その奇跡の力を使って、数多くの人達を助けてきたんだ。
「聖女様っ、どうか大人しくしてくださいっ!」
門兵の一人が、槍の穂先をリティナに向け、リティナはそれを見て、「悪手やな」肩をすくめてつぶやいた。
「っ、聖女様を護れえええええええっ!」
「朝からずっと並んでんだよおおおおおおっ!」
「冒険者舐めんなゴラァっ!」
「「「わあああああああああああっ!!」」」
並んでいた者達の──咆哮。
「ぐっ、総員構ええええええっ!」
「へっ、兵長っ! 数が多過ぎますっ!」
あっという間に、暴動になりました。
見ていて恐ろしい光景なのっ。
「聖女は……暴動装置なのっ」
ここにいる門兵の数は、十名程。対して、列に並んでいる者達の数は──数え切れない。
門兵達の取れる手段は、ピュィィィ──ッ『増援が来るまで抑えろおおおおおおっ!』と笛を吹き、他の仲間を呼ぶ事だけ。
「ミルン君、行くのであるっ!」
「分かったっ! 今っ!」
通路を塞いでいた兵が動き、見張りがいなくなった隙をついて──走り出す。が、少しだけ勇み足過ぎた。
『何事だっ!』
『急げっ! 正門からの増援要請だぞっ!』
通路の先から、声と共にガチャガチャと、金属の擦れる音が数多く聞こえてる。
「っ、頃合いを見誤ったであるなっ」
「いっぱい来るのっ」
一度通路から離れる──そう思ったのもつかの間、「その大男と獣族を行かせるなあっ!」冒険者達に応戦していた門兵が、こっちの存在に気付き、槍を向けて走ってくる。
このままでは挟み撃ち。
「ミルン君っ!」
「なあにっ────」
村長に掴まれ、そのまま勢い良く──「ふぬうんっ!!」と投げられた。
「────っ!?」
通路の先から迫り来る兵士の上を──「ぬぃぃぃぃぃぃっ」通り過ぎ、奥の扉を突き破って、そのまま中へ転げ落ちる。
『ここは任せて、そのまま行くのであるっ!』
遠くから村長の声が聞こえるが、兵士達が邪魔をして、見る事が出来ない。
「獣族が入ったぞおおおおおっ! 追えええええええっ! 先へ行かせるなああああああっ!」
兵士達が反転して向かって来る。
「っ、捕まる訳にはいかないのっ!」
痛む体を起こして、すぐに駆け出す。
入り組んだ通路の奥へと。
お父さんを、迎えに行くために。
「お父さああああああんっ!」
犬人の全力疾走で、外壁内部を駆け抜けた。




