9話 拘束脱出迷子の男③
小々波流の、脱獄講座。
あまり煩くすると、兵士に気付かれてしまいますので、拍手はご遠慮下さいっ。
「はいはい皆様っ、小々波流で御座います。本日は誰にでも出来るっ、牢屋からの脱獄方法を、お教え致しますっ」
目の前には鉄格子。
周りを見ても、窓の無い石壁で、ここからどうやったら脱獄が可能なのか。皆様疑問に思う事でしょう。
「そんな時に役立つのがコレっ、『空間収納』」
容量制限無し。防腐効果、劣化軽減付きで、効果範囲半径二十メートル以内の、己の物と認識している物であれば、何でも収納出来ちゃう便利スキルっ。
このスキルの欠点をあげるのならば、毎回倫理観が試される感じがして、心が痛むんだ。
だってコレ、絶対に盗賊向きのスキルだろ。
「鉄格子を収納して、逃げるのかって? もしも鉄格子を収納して、石壁が崩れちゃったら、大音量で即バレしちゃうからねっ」
それならどうするのって、話ですよ。
それは、半径二十メートル以内に、鍵がある事を信じて、それを拝借する算段なんです。
ちょっとした運ゲーです。
「必要な事は、この牢屋の"鍵"が、自分の物であるという事の"認識"だけ」
ここでふと思い浮かんだのは、自宅です。
鍵の開け閉めを、必ず行う場所。
家に帰れば鍵を閉めて、外に出る時は、一度鍵を開けてから、外に出て閉めますよね?
「それなら簡単。ここを自宅だと思えば良い」
ラクレル村で、お肉屋さんや、野菜家さん。雑貨屋さんから色々と拝借した時の様に、〇〇だから俺の物と、"認識"すれば良いだけ。
「牢の見張りが居ないザルさなら、鍵さえ手に入れてしまえば、あとは逃げるだけって事」
それならどうやって、この牢屋を自宅だと認識するのかというと、これも簡単な話ですよ。
雑貨屋から拝借した、綺麗な毛布を敷いて、その上に横になり、生野菜をボリボリ齧りながら、ボーッとだらけるだけ。
「あぁ……引き籠るの、最高だぁ……」
籠もれる場所こそニートの自宅っ!
以上、小々波流の脱獄講座でした。
「なーんて、一人芝居乙っ……」
こうでもして気を紛らわせないと、若干手足が震えて、嫌な汗が出てきている。
時間が経つごとに、牢屋のツンとした鼻に付く臭いが、これは現実だと告げてくるからだ。
「兵士達の姿が、中世っぽいんだよなぁ。となると、有無を言わさず拷問とかかねぇ……っ、集中しろぉ、俺っ」
牢屋からこっそりと抜け出して、ミルンと合流した後、この王都から爆速で逃げる。
聖女様には悪いが、問答無用で牢屋に入れてくる国なんてのに、長居はしたくない。
だからそこの、牢屋の鍵っ!
「ここは俺の家、俺の家、俺の家……っ、頼むから成功しろよっ! 『空間収納っ!』」
このスキルを何度か使って、分かった事は、某ゲームの様な、コマンドを入力してのスキルの発動ではなく、持っているスキルを意識して使えば、発動するという事。
若干体が熱くなる感じがしたら、"発動したよ"という合図っぽいんだけど、空間収納以外の検証は済んでない。
「うしっ、発動したっぽいな。何が入っているのかねっと、空間収納一覧確認っ」
ステータスをポチッとな。
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(一覧)
ハイオークの魔石
ミルンの尻尾の毛玉
ミルンの耳毛
ミルンの髪の毛
肉屋の在庫▼
花屋の在庫▼
農作物▼
資材▼
汚れた村人A装備セット
流のリュック▼
門兵Aの家の鍵
門兵Bの家の鍵
門兵Cの家の鍵
門兵Dの家の鍵
門兵Eの家の鍵
門兵Fの家の鍵
門兵Gの家の鍵
門兵Hの家の鍵
門兵Dの"不倫相手"の家の鍵
門兵Fの"不倫相手"の家の鍵
門兵Hの"不倫相手"の家の鍵
門兵Eの"貞操帯"の鍵
隊長室の扉の鍵
門兵詰所の鍵
門兵女性用詰所の鍵
手錠の鍵×二十五錠
手枷の鍵×十二錠
牢屋の鍵A
牢屋の鍵B
牢屋の鍵C
牢屋の鍵D
牢屋の鍵E
牢屋の鍵F
通路の鍵
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「鍵……多くね? 取れ過ぎじゃね?」
偶然にしては……ヤバいだろ。これって近くに兵士達の詰所がありますよって、言ってるようなモノじゃん。
てか門兵D、F、Hって、不倫してる門兵多すぎじゃね? そこまで門兵ってモテるの? 不倫は理解出来ないけど、少し羨ましいぞっ。
「それに……貞操帯の鍵って……」
貞操帯ってアレだよな。身分の高いお嬢様が、殿方から身を守る為に装着する、ある意味での防具品。
「……」
うん、そっと放置しておこう。
そんな事よりも今は、急いでここから脱出しないと、鍵が無くなっている事に気付かれたら、兵士が動き出してしまう。
「牢屋の鍵は六つか……先ずはAの鍵っ」
空間収納から鍵を取り出し、鉄格子に腕を通して、手探りで鍵穴を探す。
「どこだ……っ、早くしないとっ」
小さな鍵穴を見付けたら、手首を捻って鍵を差し込み──鍵がガキッと回らなければ、次の鍵を試す。
「チッ、この鍵じゃないのかよっ」
Bの鍵を差し込み──違う。
Cの鍵を差し込み──これも違う。
「焦るなっ……焦るなよ、俺っ」
Dの鍵を差し込み──違う。
Eの鍵を差し込み、「あぇっ」汗で手が滑り、石の床にキィン──と嫌な音を発しながら、鍵が落ちてしまった。
「────っ!」
動きを止めて手を口に当て、ジッと息を殺して、足音が来ないか耳を澄ませる。
「……」
誰も来る気配がない。
遠くで足音は聞こえるが、それもまた少しずつ、遠ざかって行っている気がする。
「ぷはぁっ、ふぅっ……」
心臓に悪過ぎるだろっ。
落ちたEの鍵は放置して、一旦Fの鍵を差し込み、それを回すと──カチリッ──小さな音と共に、鍵が開いた。
「うしっ、Eの鍵じゃなくて助かった」
いそいそと毛布を回収して、音が鳴らない様にゆっくりと、鉄格子を開けて、左右を確認。
「確か……左側から来たよな」
ぶっちゃけ覚えていない。
運ばれている最中、ずっとだらぁっとしていた所為で、どこをどう運ばれたのかが、記憶からスッポリと抜けている。
「……」
左へと真っ直ぐ進むと、T字路になっており、左右どちらともが、扉となっている。
「右……か?」
右の扉へと進み、ゆっくりと開こうとするが、目の前の扉はピクリともしない。
「なんだ? あぁ、ここも鍵か。確か……」
空間収納から通路の鍵を出して、ゆっくりと差し込んでみると──カチリッ──と鍵は回り、扉を開く事が出来た。
「さて……誰にも見つかりませんようにっ」
そっと扉を開けて、先を確認。
人影はなし。
しかし、油断は禁物だろう。
手に入れた門兵の鍵の数は九つ。となると、最低でも九名の門兵が、半径二十メートル以内に居た事になる。
「出会いませんようにっ……」
足音に警戒しながら、真っ直ぐ通路を進んで行くと、今度は十字路に差し掛かった。
まるでこの場所は、迷路。
どの通路も、似たような造りとなっており、十字路を進んでもまた十字路。右へ進むとT字路て、左に進むと行き止まり。
「っ、完璧に迷子じゃん……俺」
頭を掻いて反転し、別の道を探そうと踏み出したその時、ピュィィィ──ッと笛の音のような音が聞こえた。
「この笛っ、バレたのかっ!」
通路の至る所からら兵士の踏み締める足音と、鎧の擦れる音が近付いてくる。
「チッ、出口はどこにあるんだよっ」
俺はすかさず身を低くして、足音の聞こえない方へと、全力で駆け出した。




