8話 お前の事は忘れない③
皆が、玉葱香るシンプルシチュー食べるのを横目に、俺は、硬く冷たい石の上で正座をしながら、村長からの説教を受けてます。
「私の家に勝手に上がり込み、寛ぎ、勝手にご飯を食べる事には、目を瞑ろう。しかしだ……倒壊した村民の持物を、自分の物とするのは、大人として恥ずかしいとは、思わんのかね」
「はい……」
「君は、あそこのミルン君の、実質的な保護者で、手本とならなければならぬ存在であろう。村を救ってくれた恩は感じるが、それだとしても、火事場泥棒は頂けぬぞっ」
「はい……」
調理器具に、村人の物であると分かるマークが付いており、それを見られた所為で、お借りしている事がバレた様だ。
「というか村長。以前にも、圧がどうのこうのって言ってたけど、俺が魔法を使ったって事、信じるのか?」
ゴブ騒動の時、こっちは物見櫓の上に居たんだし、村長からは、結構距離が離れていた筈なんだけど。
「村の中央からでも、物見櫓は見えるのである。と言っても、途中眩し過ぎて、目を閉じたのだかな」
「へぇ……目が良いんだな」
「ぬっ、話を逸らすでないっ!」
チッ、駄目だったか。話を上手く誘導しようとしたのに、流石の年長者だわ。村長なだけあって、こっちのペースに持っていけない。
「ミルンが居ないと、力が出ないなぁ……」
「君は子供かねっ!?」
いつもなら、ミルンが俺の頭をテーブル代わりに使うのに、今は聖女と食べてるの。だからなのか、調子が出ない。
「それで、他には隠し事は無いかね……流君っ」
「無いよっ、無い無い断じて無いっ!」
肉屋の在庫とか、八百屋の在庫とか、勝手に拝借したなんて事は、絶対に無いからね? 放置していたら腐るから、回収しただけだよ?
取り敢えずは、謝っておくとしよう。
「村長……俺が悪かった」
しっかりと頭を下げての、大人の謝罪だ。
「ぬぅ……反省しておるのだな?」
「反省してます」
何だったらこのまま、必殺の『DOGEZA!』に移行して、許しを請う所存っ! 周囲の冒険者達から、怪訝な目を向けられるぞ。
「ならば、もう良いのである。折角の料理が冷めてしまわぬ内に、食べるのであるぞ」
村長め……俺の行動を察知したな。
「流さん。お話終わった?」
「んっ? 終わったぞ」
「それならっ、んしょっ、んしょっ、ここが落ち着くの。モゴモゴっ、美味しいっ!」
即俺の肩に跨って、頭の上をテーブル代わりにしたね……流石ですミルンさん。
「それにしても、空間収納とは……規格外のスキルであるな。それならば、ダンジョンのみならず、戦時の兵站問題も、解決するであろう」
この村長は、何を言っているのだろうか。
兵站問題とか、物凄く物騒な話なんだけど。
「いやいひゃ、そないなスキルにゃら、手ぶりゃで物資持ち運びひゃから、間違いにゃく商人向きやろ?」
「おい聖女様。マジで何言ってるのか分からんから、飲み込んでから喋れっての」
「んぐっ、そないなスキルなら、馬車使うて運ぶ必要も無いし、商人向きのスキルやろ?」
「商人ねぇ……兵站云々より平和的だけどさ」
商人するにも、金が要るだろう。しかしだ、今の俺、無一文ですからね。行商をする為の品集めとか、出来ませんて。
「私は単純に、羨ましいですねぇ。そのスキルがあればぁ、リティナ様の御召し物を、幾らでも、持ち運びができるのでぇ」
「それは同意。実際手ぶらで移動出来るし、貴重品も仕舞っておけるから、超安全ですよ」
あとは、コレは流石に言えんけど、俺の物と認識するだけで、自動収納出来ちゃうから、盗賊向きのスキルでもある。
怪盗紳士もビックリのスキルだな。
「流さんお代わりっ!」
ミルンが、皿を下に向けて渡しきた。
綺麗に食べて、どこぞの聖女とは大違いだ。
「はいよ。大盛り一丁な」
玉葱香るシンプルシチュー、好評に付き、完売致しました。又のご来店を、従業員一同、心より、お待ちしております。
全員がお腹をさすって、満足そうにしている姿を見て、ふと笑みが浮かんでしまう。
「流さんお代わりっ!」
そう思っていたのだが、約一名、まだ食い足りぬとばかりに、俺の顔にお皿をぐいぐいと、押し付けてくる。
「悪いミルン。もうスープしかないんだ。また明日にでも、コンテナの上で作るからさ。今日は我慢してくれ」
「嫌っ!」
「えっ……ミルン?」
「お代わり下さいなっ!」
ミルンからの、嫌嫌コール。
ミルンの口から、初めて聞いたんですけど。
「えっと、ミルン……また明日な?」
「嫌っ! いーやっ! いーまーっ!!」
「急にどうしたっ!?」
尻尾が勢い良く、回っているのが分かる。しかも、肩車をしてる所為で、ミルンの振り下ろす手が、良い感じに脳天に直撃してんのよ。
言って良いかな?
駄々っ子ケモ耳幼女……可愛い過ぎるっ!
「どないしたんや?」
「あらぁ、元気ですねぇ」
「ふむ……」
他の三人は、物凄くほのぼのした顔になってんだけど、助けてくれる気はなさそうだ。
俺はゆっくりと、駄々を捏ねるミルンを下ろして、抱っこ姿勢で、優しく言い聞かせる。
「御免な。今日は夜も遅いし、食べ過ぎるのも体に悪いぞ。明日、明日また作ってやるから、今日は我慢しような?」
「むぅぅぅっ、おにぐぅぅぅっ」
ミルンの握力、強くね?
抱っこしてるんだけど、俺の貴重な赤ジャージが、今にも破けそうなんですけど。
「なんやあんた……変わったやっちゃなぁ」
「私にはあんなにぃ、気持ち悪くなるのにぃ」
「本当に、親子の様であるな」
周りのヤジは気にしない。
気にしないったら、気にしない。
その後、直ぐに我にかえったミルンは、顔を赤くして謝ってきた。俺は頭を優しく撫で、尻尾をモフモフと堪能した。
雲一つ無い、満点の星空の下。コンテナ馬車の上に、毛布を敷いて、そこに寝そべり、ボーッと夜空を眺めている。
「射手座、天秤座、乙女座、さそり座……知ってる星座が、一つも無いよなぁ」
北極星なんて、見つけ様も無い程に、その空に広がる全ての星々が、輝きを放っている。
お月様なんて、二つも有るんだぜ。
しかも超デカいの。
「……流さん」
「んっ? どうしたミルン。眠れないのか?」
毛布に包まっているミルンが、芋虫の様に動きながら、ゆっくりと近付いて来た。
スマホが有ったら、永久保存するぞ。
「流さんは……どこから来たの?」
「あぁ……」
そう言えば、ミルンに教えていないなぁ。別に隠す事でも無いし、ミルンになら良いか。
「地球って言う、お星様からかな」
俺は正直に伝えた。ミルンに出会う、前の話を。ここがどこで、どうしてここに来たのか、本当に分からない事も。
「流さんは……そこに帰りたい?」
地球に、日本に帰りたいかどうか。
帰れたとしても、既に両親は亡くなっているし、結婚もしていないので、待っている人なんて俺には居ない。
長年勤めた会社を、クビになり、何年も家に引き籠り、誰とも会話をせずに暮らす日々。
「そうだな……帰る必要は、無いだろうなぁ」
「本当?」
「ああ、本当だ」
丁度良い機会か。ずっと聞くべきか悩んでいたけど、この際だ。聞いておくとしようかね。
「なあミルン」
「なあに?」
「何でミルンは、あの森で、たった一人で暮らして居たんだ? ご両親はどうした?」
寝そべりながら、ミルンの顔を見る。
ミルンはジッと、俺の目を見つめてくる。
「パパとママは、ミルンが小さい時に、死んじゃったの。獣族の仲間に追われてっ、魔物と戦ってっ……ミルンを庇ってっ……」
「分かった。もう良い……御免な、辛い事を聞いちゃったなっ。許してくれ……御免なっ」
ミルンの背中に手を回し、優しく撫でる。
獣族は村に入れない。
石を投げられる。
最初にミルンと出会った時に、聞いた話。
一体ミルンは、どれ程の長い期間、魔物蔓延る森の中で、生き抜いて来たのだろうか。
「おとう……さんっ」
六歳の子供が、一人きりだぞ。
俺の父さんと母さんなら、どうするのか。
俺はどうすべきなのか。
「一人には、しておけないよなぁ」
一度は逃げてしまったけど、あの時の自分に会えるのなら、全力で殴り飛ばすだろう。子供を置き去りにして、馬鹿野郎ってな。
「ミルン……」
「っ……なあにっ?」
「俺は帰る気は無い。ミルン一人を残して、居なくなる事なんて、絶対にしない」
「本当?」
「ああ、約束する」
ミルンにそう約束してすぐ、小さな寝息が聞こえて来た。とても可愛らしい寝息だ。スマホが手元にあれば、連写をしまくるだろう。
「娘か……俺、結婚もしてないのに……」
ピロン(小音)
レベルが1上がりました(闇医者?)
ピロン(小音)
「……っ、ツッコミはしないぞっ」
なんでそのネタ知ってんのと、今声を張り上げて、このアナウンスにツッコミをしてしまったら、ミルンが起きてしまう。
「ふぅ……俺も寝るか」
傍のミルンが、何故かこそっと起きる気配がしたけど、眠気に負けて、そのまま夢の中へと、旅立って行った。




