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異世界とは愛すべき者達の居る世界(胸糞控えめver.)  作者: かみのみさき


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8話 お前の事は忘れない①



 遮る物が何も無い、何処迄も続く青い空。

 遠くから聞こえてくる、魔物の囀り声。

 お腹の上で寝そべる、ミルン。

 只今、移動式の馬鹿デカい馬車の上部で、のんびりと仰向けに寛ぎながら、王都を目指し旅をしております。


「暇だなぁ……」


「仕方ないのぉ……」


 王都まで来て欲しいと、聖女からのお誘いを受け、暇だった事と、ミルンと旅行が出来るなら、それも有りかと思ってしまい、断る理由が見当たらなかった。

 それに、費用は全部聖女負担。

 お土産代も、聖女負担。

 交通費、宿代が不要。

 無料で旅行をしながら、異世界を堪能出来るこの機会、逃してしまっては勿体ないだろ。


「無料より安いモノは無いってな」


「楽々ぅ……」


 あの聖女、何がしたくて、俺を王都に連れて行くのか知らんけど、今はただただ、馬車の旅を楽しみます。

 王都に着いたら、用件を話してくれるみたいだし、用件済んだら、自由に買物を楽しむも良し。名所巡りも、制限は無いっていう事だから、少しだけ楽しみだ。


「にしてもこの馬車……走るの速いなぁ」


「お馬さん……お肉っ」


「ミルンさんや。お馬さんを怖がらせたら、駄目だからな。爆走して、危なかっただろ?」


 最初は、こんな馬鹿デカいコンテナなんて、重た過ぎて、お馬さん二頭では動かせないだろうと、思っていた。

 流石異世界馬。たった二頭で、脚取り軽く、パッカラパッカラと苦も無く進んでいる。

 マッスルホースって言う、魔物の一種らしいけど、直訳したら筋肉馬。筋肉馬って何?

 それにこのマッスルホース、地頭が良過ぎて御者が不要で、一度行った場所であれば、迷う事なく進んでくれるらしい。

 俺より知力、高くないよね?


「暖かい日差しだわぁ」


「お馬さんの、お肉っ……じゅるっ」


 こうして時折ミルンが、『お肉っ…』と、お馬さん達を見つめる所為で、マジで怖いけどね。

 ミルンに喰われまいとする本能なのか、マッスルホースが気合いを入れて走り、体感速度時速六十キロ以上で、砂利道を爆走。

 路面なんて、補装されてませんから。

 右揺れ左揺れ上下上下と、揺れに揺れまくって、中に居るニアノールさんに怒られます。


「平和だねぇ……」


「んしょっ、お肉を観察……じゅるっ」


「ミルーン。お馬さんが暴れたら、馬車の上から落ちちゃうだろ。それに、またニアノールさんに、怒られちゃうぞーい」


 起き上がったミルンは、涎を垂らし、二頭のマッスルホース達から、ジッと目を離さない。


『ブルゥッ! ヒヒィィィィィンッ!』


『ブルゥッブルゥッ!』


 あぁ、また爆走しちゃうよ。


「落ちない様にっ、しがみ付かなきゃなぁ」

 

◇ ◇ ◇


〈ヘラクレス視点〉


「むぅっ、ようやく収まったのである……」


 マッスルホースが暴れる度に、馬車の中に置いてある家財道具が、まるで生きているかの様に飛んでくるので、非常に危険なのである。

 足の踏み場もないとは、この事であろう。


「まったくぅ、困った方達ですねぇ」


「ニア、もうええやん。諦めーや」


「せめてぇ、足下は綺麗にしませんとぉ」


 こうしてニアノール殿が、忙しなく片付けをしておるが、こう何度も馬車が揺れては、終わる事などないであろう。

 この惨状の元凶である、流君とミルン君に、何度も注意をしても、全く改善しないのだ。


「お気に入りのカップもぉ、割れちゃってますねぇ。結構高かったんですけどぉ」


「もうええて。そんなんやるより、ポットは無事やねんから、ウチにお茶淹れてーな」


「うーん……分かりましたぁ」


 渋々ニアノール殿は諦め、散乱した棚の上に座し、椅子に胡座をかいて座っている、聖女リティナ様に、お茶を淹れ始めた。


「なんやヘラクレス。偉い静かにしとるな」


「……」


「筋肉が三角座りて、結構おもろいで?」


 足の踏み場がないので、仕方なく小さな椅子に脚を折り曲げ、丸まって座るしかないのだ。

 正直、付いて来るのではなかった。

 少し後悔しているのである。


「なーっ、筋肉のおっさん?」


 私は筋肉という名前ではない。

 目を閉じて、聞いてないフリだ。


「なーなーっ、マッチョムキムキマン」


 私はマッチョムキムキマンではない。

 大胸筋をピクピク動かす。


「なーなーなーっ、脳筋変態もっこりマン」


 私は脳筋変態もっこりマンではない。

 うむ、何も言うまい。


「なーなーなーっ、ヘラクレスのおっさん」


 私はヘラクレスのおっさんではない。

 いや違う、私はヘラクレスだ。


「何でしょうか……聖女様」


 普段の、白い歯を見せる笑顔ではなく、恭しく、失礼のない様に聞き返す。そうせねば、命が危ないのだ。聖女の傍で世話をしている、ニアノール殿の目が、『大声を出したら、斬りますよぅ』と、言っておるのだ。

 その様な幻聴が聞こえる程、ニアノール殿の目は、瞳孔が開いており、実際にメイド服から、ナイフが見え隠れしておる。

 相当苛々しているのだな。


「なんでアンタまで、付いて来たん?」


「ぬっ……」


「ウチが一緒に来て欲しかったんは、お漏らし魔王の、あん兄ちゃんだけやねんで。筋肉達磨は呼んでへんよ? 今からでも帰らへん?」


 眉間に手を当て、もみもみと。

 この聖女は、子供であるか?

 ああ違う、まだ子供であったな。


「申し訳ないのですが、私は帰りませんぞ」


「なんでーや?」


「なぜ流君を、王都に連れ出すのか。その理由を聞かずして、帰る訳にはまいりませぬ」


「ヘラクレスに関係ないやろ?」


「私はラクレル村の村長なのです。流君に話をするのならば、私も同席致します。何も知らぬままでは、対処が出来ぬのですから」


 目に力を込めて、聖女リティナを睨む。が、ニアノール殿が、ナイフをスッと出して来たので、すぐに目を逸らす。


「腕治したったやろ? その御返しにと思って、今からでも帰ってくれてええんよ?」


「対価として、相当な額を納めましたぞ」


「……貰うたかな? あーっ、忘れてたわ」


 この聖女……腕一つとはいえ、あの様な大金を受け取っておきながら、『忘れてたわ』の一言で、済ませようとしてくる。

 これが聖女か……何故聖女なのだ?

 そんな事を考えていたら、馬車が跳ねるかと思う程の揺れが起き、椅子から転げ落ちた。


「ぬぐっ!?」


「うぉっ! またかいなっ!」


「あの方達は……」


 ナイフを取り出すニアノール殿。

 流君を殺る気満々であるが、今までと違い、この揺れと速さは、異常なのであるが。


「違う、これはっ────」


 私は散らばる物を押し除けて、前方に取り付けられた物見窓を開け、馬車の前方を見た。


「あの数っ、魔物の集団であるぞっ!!」


「あー魔物? 大丈夫ちゃうん?」


 聖女はひっくり返ったまま、その口元にはなぜなのか、自身満々に笑みを浮かべてる。


「聖女様っ、何が大丈夫なのであるかっ!?」


「ウチんとこのマッスルホースは、そこいらのマッスルホースと、一味も二味もちゃうわ」


「そうですねぇ」


 私はその言葉を聞いて、不味いと思い、出来るだけ転けない様に、壁側にピッタリと体を押し付ける。その数秒後──馬車が飛ばん勢いで、魔物の群れへと突っ込んで行った。



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