7話 魔王? 違いますニートです④
〈ミルン視点〉
「もう嫌ああああああああああ────っ!?」
「おとっ、流さんっ!?」
扉を開けた瞬間、急に流さんが鼻水を垂れ流し、泣きながら踊り始めて、股間を湿らせながら、変な姿勢のまま倒れた。
若干尿臭い。
何をされたのかは、分からない。
「うっひゃひゃっ! 何や今の顔っ! 偉い面白ろう倒れたやんっ、やばいわっ!」
けど、誰にやられたのかは、分かるっ!
すぐ様床に手を着き、歯を剥き出しにしながら、本気の殺意を鋭く尖らせていく。
「ゔゔゔっ」
「おーおー怖い怖いお犬さんやんか。飼い主やられて血管ぷちぷちっ、くくくっあかんっ! 笑いがとまらへんっ!」
目の前に居る隙だらけの女が、足をばたばたさせながら、腹を押さえて転がっている。
「流さんに何をしたっ!!」
ドンッッッ──と床を蹴り、一度天井に飛び付いて、それを足場に勢いを付け、女の腹を目掛け──全力の蹴りを打ち込む。
「仕留めたっ!」
女は反応し切れていない。確実に仕留めた。そう思っていたのに、「だめですよぅ」突如としてニアノールが現れ、蹴りを打ち込む為に出した足を掴まれて、そのまま投げ飛ばされた。
「ぬぅぅぅっ」
宙返りをして勢いを殺し、そのまま着地。
すかさず床を蹴り、今度は真正面から突っ込んで、ニアノールの眼球を狙う。
「がぅっ!」
「恐い事しないで下さいよぅ」
それも難なく避わされ、逆に腕を回し落とされ、そのまま床に優しく、組み伏せられた。
「じゃっまっ、しないでっ! にあのーるっ!」
何とか抜け出そうとするけが、腕を完璧に絞められた所為で、一向に抜け出せない。
「もぅっ、動かないでってぇ……ふぅ」
溜息を吐いたニアノールが、メイド服からゆっくりと取り出したのは、鋭利なナイフ。
「仕留めますよぅ」
「放してぇぇぇっ!」
そのナイフがそっと、首に向かって来たのを避けようとした時、「聖女様っ! お戯が過ぎますぞっ!」筋肉を膨らませた村長が、そのナイフを掴んでへし折った。
「あぁ……私のナイフがぁ」
聖女と呼ばれた女は、村長の顔を見た後に、ゆっくりと体を起こす。
「ニア、もうええやろ。ヘラクレスが本気でキレる前に、そん子放しーや。ナイフはまた買ったるさかいに」
「……分かりましたぁ」
拘束から解放されたので、流さんを護れる位置に移動して、ジッとニアノールを警戒する。
「お前っ、何! 流さんに何したのっ!!」
「なんや? そこの筋肉達磨に聞いとんのんちゃうん? なぁヘラクレス。話してないん?」
「聖女様の御姿は、伝えておりませぬ」
聖女と呼ばれた女は、「しゃあないなぁ」と呟きながら、ゆっくりと立ち上がった。いつの間にか、ニアノールも、見た事のない形のモノを、肩に添えている。
突然部屋が部屋が、暗くなった。
四足で構え、周囲を警戒する。
暗がりだろうと、夜目が効く犬人だから、一切の油断無く、何かあればすぐ飛びかかる。
────ポンッ────
「あ、魔物蔓延るこの世界ぃぃぃ」
────ポンッ────
「迷える人を、救うためぇ」
────ポンッ────
「古今東西、なんのそのぉ」
────ポンッ────
「亡者共も救いを求め来るぅ」
────ポンッ────
「清き心の、聖なる乙女ぇ」
────ポンッ────
「あ、我のこそわぁ」
────ポンッポンッ────
「聖女、リティ────」
「もう嫌ああああああああああ────っ!?」
変な姿勢のまま倒れていた流さんが、どうやってかその姿勢のまま、起き上がった。
「あらぁ……」
「流さんが起きたっ!」
「今起きんなやあああああああ────っ!?」
◇ ◇ ◇
「へーへー。すまんかった、すまんかった」
胡座をかきながら、不貞腐れた顔で、テーブルに肘を付き、お菓子をぼろぼろこぼしながら、食べている女の子。
行儀が悪いと言うか、殆ど溢してるだろ。
「コレが……聖女様なのか?」
「流君っ……その通りなのだ」
「マジでか……」
空色の瞳には、何者にも支配されないと言う、力強さを感じさせる何かを感じる。
褐色の肌に、白銀の纏められた髪色。
何だか、神々しさが滲み出てるな。
日本の着物と似た衣装を着ており、大人になれば、さぞ男を惑わす傾国の美女とかに、成りそうだ。
胸が成長する事が、大前提ではあるが。
あとこの性格と、喋り方もアレだな。
残念聖女・リティナ・オルカス。
「なあ聖女様。俺が見たあの豚野郎……どこ行ったんだ? アレは、何だったんだ?」
俺は目が覚めてすぐ、村長に別室へと連行され、臭いからと着替えろと言われた。
股間が滲んでますからね。
じんわりしっとり、温かい。
空間収納から、懐かしの赤ジャージ上下セットを取り出し、しっかりと着替えましたとも。んで戻ると、さっきまで歌舞伎のポージングをしたまま、固まっていた女の子が、不貞腐れたまま自己紹介。
因みに、ミルンはずっと俺の腰に、万力かと思う程の力で、メキッとしがみ付いてます。
ベアバッグかな?
犬耳なのに?
腰の骨がガチ目にヤバいけど、ミルンの頭を撫でながら、何とか耐えてます。それで、俺が気を失っている間、何がおきたのかの説明を、村長から受けた。
やったねっ、犯人確定したぞっ♪
「お前の仕業かこの糞餓鬼っ!?」
俺がプチ切れを起こして、聖女に掴み掛かろうとしたら、首元にヒヤッと冷たい感触が……暗殺者だろうか。
「だめですよぅ」
「流さんに何するのっ!」
「リティナ様にぃ、害を為すならぁ……」
ニアノールさんは目がヤバい。
猫目だからか、瞳孔が縦に伸びてんの。
一瞬で冷静になったわ。
「あぁひょれな…ぷはっ。ウチはアンタが、何見たんか知らんのよ。ほんまゃやで。アンタがここ最近で、いひゅ番恐怖を感じた物を、見せる力やからな」
「食べながら喋るなよ……お菓子をボロボロと行儀悪過ぎて、何言ってるのか分からんぞ」
「んくっ。それでな、なんやニアが『気持ち悪い人来たっ!』って、涙目で言うてきたんや」
「気持ち悪っ……それで?」
「それでな、可愛いニアに何してくれとんじゃ! 懲らしめたるわって思ってん。ホンマすまんかったわーっ」
「あーなるほどなるほど……」
俺は椅子から立ち上がり、ニアノールさんに身体を向け、両手の先をを揃えたまま勢いをつけて膝をおり、地面に額を押し付けた。
「すみませんでしたあああ────っ!!」
これぞ、完璧な"DOGEZA"である。
光るおっさんとは、モノが違う。
こちとら社会人になってから、至る所で研鑽を積んで来た、本場の"DOGEZA"だからな。
「ヒィッ!?」
「いひゃっひゃっひゃっ!!」
一人は怯え、一人は笑う。
大丈夫。これは謝罪をしているだけなのだから、屈辱感なんて、微塵も感じません。
「何をしておるのだ君は……」
「あかんっ、ホンマおもろいなアンタ。まあええわ。挨拶もこのへんで、来てもろた本題や」
聖女は、笑いを堪えてこう言った。
「一緒に王都へ、行って欲しいんよ。まお────」
「ニートです」
言葉を潰すには、素で返す事が重要だ。
「……」
「……」
ほら、聖女様も睨んできてるぞ。
「ま」
「ニートです」
徹底的に言葉尻を潰す。
「……」
「……」
俺は断固として譲らない。魔王云々なんて、絶対に言わせてやらない。だって、聖女にそんなの言われてしまったら、確実に魔王じゃん。




