7話 魔王? 違いますニートです①
【冒険者ギルド、アストール本部報告書】
ラクレル村にて、魔物の氾濫を確認。
大量のゴブリンが押し寄せるという、異常事態であったが、突如として光の雨が降り注ぎ、全ての魔物が消えていた。
その際に、異様な"圧"を察知。海洋国家アルカディアスの"魔王"の圧と、酷似している。
その圧を放って居た者の名は、小々波流。
出自不明、年齢不詳の男である。
要調査されたし。
その報告書を、指先で目線の高さまで上げ、口元に笑みを作りながら、見ている女性。
「ここに書かれている内容は、誠か?」
見る者全てを魅了する、真紅に染まった眼。
流れるような睫毛に、細い顔立ち。
長い赤髪を纏め上げ、華美な玉座にて、その引き締まった長い脚を組む、その威風堂々とした佇まい。ジアストール王国女王・ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
「ははっ。避難して来た者達の話を、聞く限りはで御座いますが。全てが嘘という訳では、ないモノかと存じます」
女王は腕を組み、考える。
ラクレル村から、避難して来た者達の証言と、冒険者ギルドからの報告書は、一致する。
大量のゴブリンの襲撃。
迷宮の氾濫か、はたまた、南の連合国家の策略か。どちらにしても、現実は変わらない。
兵を挙げて、討伐に向かう規模の魔物が、光に包まれて消え去るなど、神の奇跡か人外の技以外に、考えられない。
「ラクレル村の長は、避難して来ておるのか?」
「いえ。どうやら、村に残って居るとの事に御座います。お望みとあらば、呼びつける事も出来ますが……」
「ふむ、それには及ばぬ」
恐らくは、村を護っているのであろう。
魔物は何も、ゴブリンだけでは無い。
「教会の者達は、どうしておる?」
大臣は少し、困った顔をした。
「ラクレル村で起きた、光の雨の情報と、魔王に関しての報告を、求めてきております」
「儂らにも分からぬ状況で、何とも無茶な要求じゃのう。彼奴らには、困ったものじゃ」
大臣は更に、汗を拭きながら答える。
「また、大司教様を筆頭に、彼の地、ラクレル村を、"神降りた地"として守護する様、嘆願書という名の強迫文も、届いております」
「……彼奴ら、暇なのかや?」
美の神アルテラを唯一神と崇め、ジアストール王国において、絶大な支持を集める、扱いに要注意な集団。前王の時代に、急激にその権力を増大させ、今や国政にまで口を出して来る、女王にとっての厄介者。
「ふむぅ……」
女王は手に持った報告書で、ヒラヒラと自分の顔を扇ぎ、何かを思い付いた様に、深く笑みを浮かべる。
「魔王と同種の存在ならば、会ってみたいのう」
「陛下……本気に御座いますか?」
女王の言葉に、大臣が目を閉じ、深い溜息をしているのを、女王は見逃してはいなかった。
◇ ◇ ◇
あのゴブ騒動から、七日が経った。
ラクレル村は半壊状態で、多くの村人が亡くなり、残った村人達は、ゴブの再来を恐れ、逃げる様に王都へ避難して行った。
ゴブリンは殲滅したと、俺がいくら説明しても、全く聞いてくれなかったわ。
信じられない気持ちは、良く分かる。
俺だって、今だに信じられない。
「むにゃむっ……すぅ、すぅ、すぅ」
俺の膝を枕にして寝ている、犬耳幼女ミルンの頭を撫でながら、気持ちを落ち着ける。
ついでに尻尾もモフる。
自然と笑みが溢れ、もう一度頭を撫で撫で。
「ふぅ……起きろミルン。朝だそーい」
「むぅぅぅ、朝?」
「おはようさん」
ここ数日は、何かと大変だった。なにせ、村人全員が居なくなった訳だから、やらなければならない事が、山積みだったんだ。
生きて行く為には、食わなきゃならん。
だからこそ、村長に内緒でこっそりと、無事だった商店から、根刮ぎごっそり頂きました。
何を頂いたのか?
色々とだよ、色々と。
「むぅぅぅ、起きたっ! おはよう流さんっ!」
「寝覚めが良いこって。そんじゃあ行くか」
「行きますっ!」
村人達が居なくなったこのラクレル村で、ここ最近の日課が、ミルンを肩車しながらの、朝のお散歩です。
村の中が珍しいのか、ミルンは辺りを見回して、尻尾を振り振りさせてんの。その尻尾が背中に当たって、気持ち良いんです。
「すんすんっ、魔物の臭い無しっ」
「索敵係、おつかれさん」
「むふふっ、もっと頼っても良いの」
右を見ると、誰も居ない肉屋。
左を見ると、誰も居ない花屋。
後ろを見ると、誰も居ない通り。
上を見ると、ミルンの可愛い顔。
前を見ると、遠くに見える片腕のおっさん。
まるで、村人総出の夜逃げをした様な状況。
「村長が手を振ってるっ」
「あぁ……朝から元気な筋肉だなぁ」
のんびりと歩いて向かいます。
実を言うと、今だに筋肉痛が治っていなくて、早歩きすら辛い状況なのよ。だから、急いで向かうとか、絶対に無理です。
「待っていたぞ、流君。体は大丈夫かね?」
「それはこっちの台詞だわ。動いて良いのか?」
「うむ。血は止まっておるからな」
そう言って村長は、肘から先が無い腕を上げて、笑顔を向けて来る。ここまで来ると、メンタルまでも筋肉なのかと、疑うレベルだ。
「痛々しいから、見せんなっての」
「それは済まぬのである」
「それで、何の用だ? 村の見回りなら、ミルンとしっかりやってるから、大丈夫だぞ」
「魔物を見付けたら、斧で割るっ」
ほら、ミルンもやる気全開だしね。
「うむ。それなのだが、朝食を食べながら、話をするのである」
「あいよ。そんじゃっ、ミルンの朝食も用意するか。調理場借りて良いかな?」
「構わぬよ」
と言う事で、慣れ親しんだ村長宅で、美味しい料理を作ります。
「おとっ、流さん。朝ご飯はお肉が良いっ」
今一瞬ミルンが俺の事を、お父さんって言いかけなかったか? そんなん言われたら、喜びのあまり発狂しちゃうぞ。
「……分かった。ミルンの朝ご飯は、お肉たっぷりのシチューにしようか」
勿論、ミルンを肩車したまま作る。
可愛い尻尾がパシパシと、リズミカルに背中に当たって、幸せいっぱい胸いっぱい。
「王都から、早馬が来たのだ」
「唐突にどうした村長?」
「どうやら、避難した村の者や、村に居た冒険者達から、情報が出回った様でな……魔王に類する者が現れたと、王都で話題になっておる」
「へぇ……村人達が王都に着くの、早過ぎだろ」
そう言えば前に、馬車で三日の距離だって、言ってたな。あれから一週間だから、別段早くも無いのか?
「この村には、冒険者も居たのでな。村民に先んじて、報告に向かったのであろう」
「ふーん……んっ? 何か今さっき、魔王がどうのって言わなかったか? 俺の聞き間違い?」
「聞き間違いでは、ないのである。どうやら一部の冒険者が、その様な報告をした様である」
ゴブ騒動の時に、魔王に類する者が出た?
そんな奴、見てないんですけど。
「村長は見たのか? その魔王っぽい奴をさ」
「……君の事であるぞ、流君」
「えっ? 俺……魔王って言われてるの?」
「流さんは、魔王じゃないっ」
可愛いミルンの言う通りだ。
そもそもあの時、俺は魔法を使っただけだし、魔王ムーブなんてやってないぞ。
「人違いじゃね?」
「そうであるな。流君は、魔王ではない」
「だろ? 寧ろ俺、助けた側よ?」
良く分からない魔法だったけど、ミルンのボロ小屋の時と違って、魔物以外には被害を出してないし、魔王呼ばれは心外だ。
「そうなのだが……あの時は、私でも一瞬、寒気を覚える程の"圧"であったぞ」
「圧って何だよ圧って。意味分からんわ」
そうこうしている内に、完成しました。
「ほーらっ、シチューが完成したぞーっ」
「お肉が沢山っ!」
勝手に戸棚から皿を出し、シチューを注いだら、肩の上のミルンにそのまま渡す。
「頂きますっ!」
はい、俺の頭がテーブル代わりです。
「ほら、村長も食うだろ?」
シチューを取り分けて、村長の前にも出す。
あったかトロける、美味しいシチューだ。
「うむ、頂くとしよう」
「流さんの作ったお料理は、美味しいのっ」
「あんがとさん」
ミルンの可愛い尻尾が、ピンッとなってるけど、位置的にモフれないんです。でも、ちゃんと作れた様で、何よりだわ。
「君等アレだな。見ていて親子の様に感じるとは、不思議でなのである……」
「親子? そりゃあ、ミルンの様な可愛い娘が居たら、毎日が楽しいだろうな」
「ほんと?」
おっ、ミルンの尻尾が背中を叩いたぞ。
「本当だぞ?」
「むふふっ、嬉しいっ」
本当に、こんな可愛いケモ耳幼女が娘なら、幸せな毎日をおくれるだろう。
本気でそう、思えるんだよなぁ。




