7話 魔王? 違いますニートです②
次の日も、俺はミルンを肩車しながら、村長宅モーニングを楽しんだ後、健康の為の散……巡回に勤しんでいた。
昨日の夜は、大変だった。
ミルンが本当に、離れないんだ。
いや、良いんだよ。良いんだけども、流石にお風呂は、一人で入って欲しいんだ。
「像が怖いっ」
斧を持った、ミルンさんよりも?
じゃあトイレは? 俺の臭いよ?
「鼻を摘むから大丈夫っ」
あっ、大丈夫ですか、そうですか。
寝る時はちゃんと、一人で寝ようね?
「一人は嫌っ」
こんな感じで、延々諤々と押し問答を繰り返し、なんとかトイレだけは、死守したんだ。
流石にあの空間で、ジッと見られていると、落ち着いて出す事が、出来ないからね。
それ以外は、追々だなぁ。
「それじゃあミルン、朝の体操をします。俺の後に続いて、体を捻る様に向くんだぞ」
「分かりましたっ!」
腰を痛めない様、柔軟は完了済みだ。
「右見て──っ、誰も居ない道」
「誰も居ないの!」
「左見て──っ、誰も居ない家」
「音聞こえないの!」
「上見て──っ、ミルンの可愛いお顔」
「綺麗なお空っ!」
「下見て──っ、舗装されてない道」
「流さんの頭っ!」
「前見て──っ、"何か光ってる人"……?」
「ぴかぴか──っ!!」
ふぅ……一度空を見てっと。良しっ!
「前見て──っ、"何か光ってる集団"……?」
「ぴかぴか光ってる!」
「……うん?」
ミルンの言う、ピカピカ光ってる、装備を付けまくった集団が、こっちを……見つめてくるんだけど、何あの集団?
「ぴかぴかっ」
ミルンの尻尾が、凄い振れているのが分かるよ。そうだね、ぴかぴか光ってるね。太陽の光が反射して、目が痛くなってくるぞ。
「凄げぇ眩しいな……」
光ってる集団と見つめ合う事、数分。
こいつら……何っ!?
目を離さず見てきて何なの恐いっ!?
「あの、お間違いなければで、宜しいのですが」
先頭に立っている、頭も身体も一番光ってる男が、恭しく話しかけてきた。
「貴方様は魔────」
「違います唯のニートです」
絶対に最後まで、言わせない。
灯りに夢中な虫を、誘い込める程、光輝く豪奢な装備に身を包んだ、光るおっさん共。そんな奴等が、往来で腰を低くして、魔王がどうのこうのと言って来るとかっ。
誰も居ないから、良いんだけど。
取り敢えず住居と称して、村長宅へ御案内。
因みに、村長は留守だ。
許可? そんなの要らないよ? 俺と村長の仲だもの。優しい村長なら、許してくれるさ。
そうして、村長宅に到着してすぐ、ミルンが俺の膝を枕に、スヤスヤと気持ちよく寝た。ミルンを起こすのは悪いから、何となしに無言で、光るおっさん共を見ていたんだ。
そしたらさ、なんにもね、話もしてないのにね、豪奢な装備に身を包んだ男共が、唐突に、見事としか言い様のない──『ジャパニーズ・DOGEZA!!』を、披露してきたんだ。
土下座……あるんだ。
土下座。
ドン引きだよ。
「魔王様っ! どうかっ、どうか哀れな私共にっ、魔王様の御慈悲を頂きたく存じますっ!」
んでまた唐突に、変な事を言ってきたぞ。
何だよ御慈悲って。
頭が痛くなってくるわ。
「えっと、あんた達は誰? 違うな、何者? これも違うか。ああ、何をしに来たんだ。こんな誰も居ない村なのにさ」
聞きたくない。物凄く聞きたくないけど、話を聞かないと、お帰り頂けなさそうな感じなので、聞いてみる事にする。
「はい。私共は、唯一神っ、アルテラ様を信仰する教会の者で、私は神官のザルッ、ザルブと申します。ここ、ラクッレル村にて、神が奇跡をお示しになられた事を知り、急遽っ、この村を、魔王様より返して頂く為の、ご相談に来た次第で御座いましてっ……」
「うん、話が長いっ!」
「もっ、申し訳御座いませぬっ」
めっさ震えてるよ、このおっさん達。
あと、何か失礼だな。俺がこの村を、占領したみたいに言ってくるとか。どちからと言うと、助けた側なんですけど。
「返還を了承して頂きましたらっ、おおお礼といっては何ですがっ、魔王様の望まれる物をとっ、大司教様より申しつかってっ、おりっ、おりおりますっ!」
「んな事言われてもな……」
「あとっ、先にこちらをっ、献上したくっ」
震える手で差し出してきたのは、華美な装飾の入った、すげぇ趣味の悪い宝石箱。これは、ミルンが見たら、欲しがりそうだな。
「どうぞ……お納め下さい」
一切顔を上げず、土下座の姿勢のままだ。
開けろって事か?
凄い怪しい……けど、土下座だもんなぁ。
「中身見るぞ?」
「どうぞっ……」
えいっと、躊躇い無く箱を開けた瞬間──この世の全てを包み込む様な、真っ白な光と音が溢れ出し、俺に降り注いだ。
「あっ……やっぱり罠なのかっ!?」
眩しっと思いながらも、眼を閉じでしまった。光の中、土下座の光るおっさん共が、ガチャガチャと、立ち上がる音がする。
「ふっふはははっ、馬鹿めっ! この邪悪な魔王めが! その箱には我の為にと、大司教様の固有魔法、"神の審判"を込めて頂いたのだっ!邪を滅する事に特化したこの魔法、いかな魔王でも耐えきれまいっ! 滅ぶが良いっ! 悪しき魔王よっ!」
何か言ってる?
耳がキーンって痛いな。
ゆっくりと、光が消えてく。
ん? 何も起きてない?
目をゆっくりと開けて、身体を確認。
ミルンも確認。
尻尾も確認モフモフ。
箱の中を見る。
箱の中には……ボロボロの……石?
「ふはははっ! 魔王は滅んだっ! 聖地を魔王から取り戻したぞっ! ふはははははっ!」
「やりましたぞっ!」
「これでこの地は、我ら教会の物っ!」
「あの──っ」
「これで私もっ、司教に成れるであろうっ! いやっ、これならば大司教も夢ではないっ!」
「おぉっ、おめでとう御座います、ザルブ様っ」
「我等は一生、貴方様に着いていきますぞっ」
「聴こえてるか──っ」
めっちゃ騒いでいるなぁ……あっ、ミルンの耳がペタンってなってて、物凄く可愛いぞ。
「早急に王都へ戻り、報告せねばなっ!」
「凱旋ですぞっ!」
「やりましたなっ!」
「「「あっはっはっはっはっ‼︎」」」
『人の家で何騒いでおるのだああああああっ!』
勢い良く扉が開いたと思ったら、白い歯を見せながらの鬼の形相で、村長が入って来た。
シーンと鎮まる歓喜の声。
そりゃあ、筋肉隆々の、クソでかいおっさんが、白い歯を見せて、血管切れそうな顔で現れたら、誰も騒げないわな。
「お帰り──っ、村長」
「「「えっ?」」」
光るおっさん共が、俺を凝視した。
「むっ?」
村長が、光るおっさん共を見る。
「おっ?」
んで俺は、そんな村長を見る。
「くわぁあああむにゃむゅ、何してるのぉ」
ミルンが可愛い欠伸をした。
物凄く可愛いんです。
「くっ、何だ此奴はっ!?」
光るおっさんの一人が、馬鹿な事に、腰にぶら下げた剣を抜き、村長に向けて走り出した。
自ら一線を、超えてしまった訳である。
「んしょっ、んしょっ、何してるの?」
「うん? 俺にも良く分からん」
起きたミルンが、俺をよじ登ってきたので、肩車して、淹れたお茶を啜りながら、俺は目の前の光景を見ている。
さあさあ今回の試合は、村長VS光るおっさん共の、異色のエキシビジョンマッチっ!
その夢の闘いが今あああ──っ、始まった!
試合開始だあああ──っ!
村長が一瞬で移動して、強烈なボディブローが、おっさんBの鳩尾に突き刺さるぅ!
速いっ! 速いぞ村長っ!
後ろから、おっさんAが襲いかかるが、屈んで避けたああああああからの脚払いっ!
すかさず空中で一回転っ!
踵落としだああああああっ、脳天直撃っ!
これは一発でノックアウトオオオ──っ!
若干頭が陥没したかあああああっ!?
さあさあ、おっさんCが、距離を計りながらああっと、凶器を取り出したあああああっ!
これは卑怯! 卑怯者だあああああっ!
それでも村長は怯まない!
おっさんCの、凶器を振り回しながらのヤケ糞の攻撃を避わしつつ、右!右!左!左!右!左!の顔面サンドバッグだあああ──っ!
前歯が飛んでいくううう──っ!
これは堪らずっ、膝から崩れ落ちたぞおっ!
おっと、おっさんBが、腹を押さえながら立ち上がりいいいっ、拳を振りかぶるがあああああ残念っ! 空振ったああああああっ‼︎
それを逃さず、村長のカウンターが──入ったああああああああ──っ! 試合終了おおおおおおおおおおっ!!
カンッカンッカーンッ。
お茶請けの食べ欠けパンを片手に、村長の口元に向けて、にこやかに聞いてみる。
「今のお気持ちをどうぞ、村長」
「流くん。君は何をやっておるのだ……」
額の汗を拭い、村長が睨んできた。
俺に言われても、どうしようもない。
「んしょっ、ぴかぴかぁーっ」
光るおっさん共を縛り上げる村長だが、ほんの少し前まで、肘から先がなかったのに、今の村長には何故か、肘から先がある。
「えっ……村長の腕って、生えるのか?」
ミルンが笑顔で、光る装備を剥いでいる。
「流君……腕が生える訳がなかろう」
呆れた声で言われたよ。
冗談の通じない筋肉だなぁ。
「腕、どっかに在庫があるのか、村長?」
ミルンが笑顔で、光る装備を剥いでいる。
「在庫が有れば、直ぐに付けるであろう」
突っ込みがヌルいぜ、村長。
「聖女様に、治して頂いたのだ」
「んっ、今何て?」
「この腕は、聖女様に治して頂いたのだ」
異世界あるあるの聖女キターっ!
「聖女とか居るのかよっ!」
「此奴らは、その聖女様のお連れの者達だ。私が聖女様と面会をしている間に、いつの間にか消えていたがね」
「えっ……何それ」
ミルンが笑顔で、光る装備を剥いでいる。
尻尾をフリフリさせて、可愛いなぁ。
「それじゃあ……俺に何かしようとしてきたのは、聖女なのか? こいつら、大司教がどうのこうのって、言ってたんだけど」
「いや、聖女様は関係無いであろうな」
疲れた顔をしながら、ハッキリ言う村長。
「何でそんな事分かるんだ?」
「会えば理解するのである」
村長が、光るおっさん共を縛り上げ終わる頃には、おっさん共は、その輝きの丸ごと全てを、失っていた。
「ぴかぴか光ってるっ!」
傍のミルンの手によって。
素材の剥取りだな。
弱肉強食、狩のマナーなのかも。




