6話 エンカウント①
さて、どうやってこれを乗り切るか。
目の前には、豚野郎の斧を背負って、鼻息を荒くしている、ケモ耳幼女のミルンが居る。
他の子供達は、我先にと走って逃げたが、大人を連れて来られるのは、非常に不味い。
「ミルンのお家っ、直して下さいなっ」
「それを言う為に、わざわざ危険を冒してまで、村の中まで来た訳か……良く俺の居場所が分かったな」
「ミルンのお鼻からは、逃げれないっ」
犬耳だけに、嗅覚が優れてるのか。だとすれば、今ここで俺が逃げたとしても、直ぐに発見されてしまい、斧でバスンとデットエンド。
いや、今のミルンを見る限りだと、今直ぐ俺をどうこうしようって感じじゃないから、ミルンの要望通りに動けば、助かる可能性がある。
「家を……壊した事は、御免なさい。でもな、ミルンの小屋を直そうにも、それをする為の、道具やお金が無いんだ」
「お金が無い?」
「そうそうっ!」
「ろくでなし?」
「そうそっ……その言葉、有るんだ……」
「駄目人種?」
「てっ、的確に心を抉って来るっ!?」
その幼さで、語彙力凄くね? とても森の中で暮らしている、ケモ耳幼女とは思えないぞ。
「直してくれなきゃっ……狩るのおっ!」
背負った斧に手をかけ、瞳をギラギラとさせるその姿は、可愛いと恐ろしいを両立させた、奇跡の存在であろう。
今の所は、可愛いが優って……じゃなくて、どうにかしてミルンの気を逸らさないと、俺の睾丸がピンチだわ。
「どうどうっ……取り敢えず落ち着けミルンっ。ていうか、村の中まで来ちゃったらっ、危ないんじゃないのかっ?」
「危ないのっ。皆んなに見付かったら、石を投げられたりするから、斧で真っ二つにするっ」
「頼むからグロは勘弁してっ!?」
石を投げた相手を真っ二つとか、豚野郎を生食していたミルンなら、やりかねない。
額から冷汗が、ツーッと垂れて来る。
お互いに見つめ合う事、数分だろうか。焦れたミルンが動き出そうと、姿勢を低くしたその時、ヒュン──っと何かが飛んで来て、俺の顔面にダイレクト。
「おごっ!? 痛っ……何だ今のっ」
「流さんっ、鼻血出てるっ!」
「あっ? ずずっ……めっさ痛いんだけど」
地面を見ると、さっき迄なかった小石が転がっており、俺の顔面に当たった物だろう。
問題は、誰がコレを投げたのか。
「獣族さあ出てけ──っ!」
「芋泥棒っ! 村に入って来てっ、今度は俺達を襲う気か──っ! 出て行けえ──っ!」
「ウチの子達に何するのよ──っ!」
「村に入って来るな──っ!!」
いつの間にか、そこそこの数の村人達が集まって来ており、その村人達の手には、小石が握り締められていた。
「ちょっ、待て待て待てっ! あんたらその手に持ってる物をっ、どうする気だっ!」
村人達の目が、血走っている。どう見ても、冷静な判断が出来るとは、到底思えない。
「獣族は村から出てけええええええっ!!」
一人の男が石を投げた。
一人目投げると、二人目が投げた。
二人目投げると、三人目が投げた。
ヒュンヒュンと、投げ付けられる小石。
俺はミルンの盾になろうと、前に出て体を大の字に広げ、その小石を全て受け切る。
「おぼばばばばばっ、糞痛っ────っ!?」
その最中、疑問に思う事が一つ。
投げ付けられる小石のその全てが、"俺の顔面に"ジャストミートしているんだ。
「流さんのお顔がっ、膨れていくのっ!?」
この高さだと、ミルンには当たらない。
そう、当たる事がない高さなのだ。
「ぼぼじで……ぼべぼばんべんばっばび……」
どうして、俺の顔面ばっかり狙うのか。
「流さんに何するのっ!」
「びぶんっ……ばべびべぶばっ」
前に出ようとするミルンを、手で制して、ジッと村人達の顔を観察する。その村人達の顔は、好きでやっている者の顔ではない。
「早く山へけえれ──っ!」
「とっとと村から出て行け──っ!」
「っ、危ねえからさっさと行けえええ──っ!」
「頼むからっ、出て行ってくれえっ!!」
好きでやっているのでは無いとしたら、俺に対するこの仕打ちは、一体何なのだろうか。
ミルンを狙いたくないから?
そう考えると、納得が……行く訳ないな。俺の顔面を狙うとか、マジで意味分からん。
となると、今ここで取れる手段は一つ。
「びびばべんばべぼおおおおおおっ!!」
「何言ってるのか分からないっ!」
「……びぶんっ、ぼんぶばばっ!」
ミルンを担いで、全力で逃げるっ!!
「あっ、逃げたぞおおおおおおっ!」
「俺達の勝利だああああああっ!」
「「「わああああああああああああっ!!」」」
声を張り上げるだけで、ミルンを追いかけて来るでもなく、立ち止まったままの村人達。
その行動に、疑問を感じながらも、全力で向かう先は、村長から借り受けているあの屋敷。
今の俺の、唯一のセーフゾーンだな。
「ぼぼびっ、びぶんぼぼばびっ……」
「今っ、ミルンの事重たいって言ったっ!?」
「びっべばびぼっ……ぼぼばびっ」
意識が朦朧とする中、歯を食い縛り、酔いどれサラリーマンもかくやという足取りで、屋敷へと到着した。
「びばび……ぶぅ……」
「つんつん。痛そうっ」
「びぶん、ばべべべ?」
さてさて、帰って来たのは良いとして、これからどうすれば、良いのだろうか。
取り敢えず、傷薬が欲しいなぁ。




