5話 働く気は有るんです③
村長に渡された木の板を持って、渋々言われた場所に向かうと、腰の曲がった農家のおじさんが、待っていた。
「おおう、村長から聞いとるべ。兄ちゃんがぁ手伝ってくれるっていう、流さんかぃ」
「そうだけど……何すれば良いんだ?」
「こん芋を、あっちまでぇ、運んでけれぇ」
この芋を、あっちまで運ぶ?
大量の木箱の中には、これでもかと言う程芋が詰められており、台車も何も見当たらない。
「えっと……台車は?」
「何だぁそりゃあ? 手で持って運べんべぇ」
「あぁ、うん、やってみるわ」
持ってみた感じは、木箱一つで十キロ前後。
その木箱が、山の様に積まれている。
これを、あの小屋まで運べと……。
「早うやってけれぇ。芋さぁ、まだまだ掘るでぇ。早よせんとぉ、終わらんでぇ」
これは、やるしかないのか。
仕方ない、さっさと終わらせるか。
「どっせいっ! ふひっ、ふひひっ、何この力仕事っ! 糞重いんですけどっ!!」
一往復二往復と続けて行く内に、腕と脚がぷるぷると震え、反復横跳びの疲れも相まって、五往復も行かずにバテてしまった。
「何だぁ、情け無い兄ちゃんだのぉ。もう良いから、邪魔にならん所で休んでなぁ」
農家のおじさんはそう言うと、"片腕"で木箱を三つ担ぎ、軽い足取りで運んで行く。
「えぇ……何あのおじさん。馬鹿力じゃん」
人間フォークリフトだろうか。
そう思わせる程に、農家のおじさんは止まる事なく、あっと言う間に全ての木箱を、運び終えてしまった。
「兄ちゃんは、こん仕事向いてねえなぁ。明日からは来んでええから、違う仕事探せやぁ」
簡単に言うと、クビって事ね。
「当日にクビとか……初めての経験だなぁ」
朝から働き初めて、まだ昼前だぜ?
「……帰って掃除でもするか」
寝床を軽く掃除した後は、農家のおじさんから貰った芋を、今日の夕食にします。
汚い厨房に、火打石があったから、屋敷の裏庭らしき所で、味気ない焼き芋パーティーだ。
「んっ? なーんかまた、"視線"を感じるなぁ」
そして次の日の朝。
勝手知ったる村長宅にお邪魔をして、村長の目の前に座り、お茶とパンをそっと頂いての、優雅な朝食のお時間です。
「自然に不法侵入を、しないでくれないかね。昨日紹介した仕事は、どうしたのだ?」
「畑作業の邪魔になるからって、その日の内にクビになったぞ。呆れられたわ」
「ぬぅっ……まあ、仕事は沢山あるのでな。落ち込まずに、色々と試してみれば良いのだ」
そう言われたので、今度は村の出入口へと向かい、屋敷の場所を教えてくれた、自警団の人の前まで来て、木の板を見せる。
「ああ、兄さんが村長の言ってた人か」
「一昨日は助かったよ。んで、仕事をやりに来たんだけど、俺は何をすれば良いんだ?」
「村長から聞いてないのか? 俺らの仕事は、この村の外側を見回る事だぞ。最近だと、"ゴブリン共"が来やがるからな」
「ゴブリンっ!?」
異世界あるあるのスライムに次ぐ、最弱系モンスターである、あのゴブリンの事なのか。
「アイツら増えると、結構厄介だから、村の外側で発見したら、即討伐しなきゃ駄目なんだ」
「討伐……って、アレだよな。首をザクっと……」
「そうだな。ゴブリンは首が細いし、そこを斬るなり潰しさえすれば、一発で仕留めれるぞ」
これは中々に、キツい仕事ではなかろうか。
都会で産まれ育った身としては、血生臭い事と無縁であった訳で、討伐とかは勘弁だ。
前の豚野郎は、不可抗力。
殺されそうになった事と、思いがけない魔法の発動で、意味の分からない内にやっただけ。
「えっと、俺、武器とか触った事ないんだけど」
「そうなのか? 槍とか弓ぐらいは、持った事あるだろ? もしかして、良いとこの出か?」
「んな訳ないって。ただ武器に触れる機会が、なかっただけだしな。使い方を教えてくれるなら、やってみるけどさ」
「教える人手が足りないぞ。村長の頼みだから、聞きたいところではあるがなぁ……」
自警団の人は、腕を組みながら考えているが、この感じだと、この仕事も駄目そうだ。
「……兄さん。済まないが、この巡回の仕事は、あんたには荷が重そうだ。悪いけど、他の仕事を当たってみてくれ」
ほら、働く前に、クビになっちゃったよ。
その次の日の朝。
勝手知ったる村長宅にお邪魔をして、村長の目の前に座り、お茶とパンをそっと頂いての、優雅な朝食のお時間です。
「既視感を感じる光景であるな……村の外の見回りの仕事は、どうしたかね?」
「俺には荷が重いんだってさ。働く前にクビ宣言とか、人生初の経験をしたぞ」
「むぅっ……そうであるか。まっまあ、まだまたま仕事は有るのだし、頑張りたまえっ」
村長の口元が、ピク付いているのを、俺は見逃していないぞ。この村長、まさか俺がここまでポンコツだとは、思ってなかった様だな。
そうして次の日、次の日と、クビになり続けた俺が、唯一出来た仕事と言うのが、コレだ。
「流にーちゃーんっ! ワルツが蹴ったーっ!」
「リムが先にやったんだろっ!」
「うわああああああんっ! 僕のおやつ返してよおおおおおおっ! おじちゃあああんっ!」
「私の事を馬鹿にするからよっ!」
ラクレル村の子供達が、誤って村の外に出ない様に、村の広場で優しく見守る、警備員的なお仕事です。
村長から、『流君はアレだ……普通の仕事は、向いておらぬっ』と、苦言を吐かれ、仕方なく仕事という体にされた、子守ですね。
「あーっ、また流にーちゃんが、ボーッとしてるぞーっ! 皆んなーっ! 行けえええっ!」
「「「わああああああっ!」」」
これが、下手な仕事より、疲れるんです。
子供達を相手にしていて、分かった事がある。それは、俺のステータスが、この子供達よりも貧弱である事だ。
腕相撲したら、普通に負けたのよ。
最年少である五歳のリム君に、負けたのよ。
五歳児に負ける腕力ってっ……何?
「あれっ、知らない子が居るーっ!」
「何で尻尾生えてるの?」
「元からだからっ、触らないで下さいなっ!」
んっ? 今何か、知ってる声が聞こえたな。
「うわぁ、お耳が頭に生えてるぅ」
「おいこいつ、獣族だぞっ! 皆んな離れろ!」
「失礼ですっ。ミルンは何もしてないっ!」
ええっと、えっ? マジかっ!?
「大人呼んで来るっ!」
「おじちゃんっ、あの子悪い子よっ!」
「流にーちゃんっ! 早く追い出してっ!」
子供達がキャーキャー騒いで居る理由。
村には入れない筈の、可愛いケモ耳娘。
「流さんっ! ミルンのお家直してっ!」
ぷんぷん顔のミルンが、そこに立っていた。




