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勇者が十二人ならクソスキルはバレない2〜異世界召喚帝国編〜  作者: 乙女座の一等星
第五章 このスキルにレベルアップを

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第113話 ヨトゥンヘイムの戦い。剛

 ヴコルの気味が悪い地下室を後にして、オレたちは帝都のさらに奥へと足を進めた。

 玲がレベル5になったことで、空気は少しだけ変わっていた。


「剛、お前も続け」

「おう……。本当にサシで戦うことが必要だったんだな」


 張り詰めた緊張感の中に、確かな熱のようなものがある。

 帝国の理不尽なルールでも、足掻けば手が届く。

 その事実が、重かった全員の足を前へと進めさせていた。


 次に目指すのは、北領を束ねるヴィンターハルト家。

 あの『ヨトゥンマスター』、ヴァルラの屋敷だ。


「あの女らしいですわね」


 帝都の重厚で暗い街並みの中で、そこだけが異常だった。

 高くそびえる屋根や窓枠の装飾が、太陽の光を反射してキラキラと乱反射している。

 遠目には、テーマパークのお城か、あるいは成金趣味の塊のように見えた。

 ヴコルのあの隠遁者のような平屋とは、真逆の自己主張の強さだ。


「……趣味が悪いにも程がありますが」


 遠くで輝く屋敷を見て、蹴鞠がまた扇で口元を隠して呟いた。

 やがて辿り着いた屋敷の外周は、予想に反して厳格なものだった。

 黒いアイアンワークで作られた、トゲトゲしいゴシック様式の塀が、視界の端から端まで延々と続いている。

 不用意に触れれば串刺しにされそうな、冷酷で威圧的なデザインだ。


 だが、その重厚な鉄格子の門をくぐった瞬間。

 オレは、頭の処理が追いつかずに立ち尽くした。


「嘘だろ……」

「これは、また……」


 剛が目を丸くし、栞が呆れたようにため息をついた。

 塀の向こう側に広がっていたのは、視界を埋め尽くすほどの『広大なお花畑』だった。

 誇張じゃなく、野球の球場が何個もすっぽり入りそうな、異常な広さの敷地だ。

 そこに、赤、青、黄、ピンクと、目が痛くなるような極彩色の花々が、狂ったように咲き乱れている。

 蝶が舞い、噴水がキラキラと水飛沫を上げている。

 外壁の威圧感とも、遠くから見た屋敷のキラキラした成金趣味とも、全く噛み合っていない。


「脳がバグりそうなんだけど」


 オレが顔をしかめると、玲が右腕のSF装甲を鳴らしながら油断なく周囲を見渡した。


「気をつけろ。この狂ったお花畑自体が、何かの陣や罠になっている可能性もある」

「確かに。幻覚系の魔法陣が仕込まれているかも……」


 日向が怯えたように身を寄せ、舞が慎重に足元を確認しながら進む。

 無駄に広く、無駄に手入れの行き届いたお花畑が続いている。

 延々と続くお花畑を抜け、ようやく屋敷の目前、中央のエリアに辿り着いた。


 あのヴァルラの屋敷だ。マジで華やかだった。

 そして中庭が、馬鹿みたいに広かった。

 白く美しい石畳がどこまでも平坦に整備されていて、巨大な噴水があって、手入れされた花壇があった。

 絵に描いたような、優雅な大貴族の庭だった。


 ——でも、今日はそういう気分じゃないらしい。


 全てが端っこに移動されている。

 なんで、備え付けの噴水までもが、移動しているのか。

 考える理由はない。だって彼女はヨトゥンマスターだ。


「また、知らないオジサンいるんだけど」


 そして優雅な中庭の中央に、一人の男が立っていた。


 南領のランルフ辺境伯すらも凌駕するような、規格外の巨体だった。

 ヴァルラの父親だと聞いていたが、あの白金の髪を持つ北欧系の美女であるヴァルラとは、遺伝子の欠片も似ていない。


 艶っぽい娘の父親があれか。

 ベタではあるけどなぁ


 岩の塊のような巨漢で、顔の半分を覆う立派な白いヒゲを蓄え、服の上からでも分かる隆々とした筋肉の鎧を纏っている。

 ただ一つ、その威厳ある姿の中でアンバランスだったのは、頭部の毛量だけがひどく少なかったことだ。


 いや、なんで髪の話した?!


「吾輩が、ベルンハルト・フォン・ヴィンターハルトだ!!」


 髪の毛が吹き飛ぶほど、声もでかかった。

 ビリビリと空気を震わせる名乗りに、オレたちは思わず一歩後ずさった。


 ゴシックな塀も、狂ったお花畑も、キラキラの屋敷も、全部このヒゲと筋肉の親父の趣味……というわけではなく。


「吾輩の愛娘、ヴァルラの花園へ、ようこそっ!」


 その巨漢のすぐ隣で、ヴァルラが目を細めていた。


「あらぁぁ。数日ぶりでしたわねぇ」

「玲の装甲の回復。それから移動。宿に時間が掛かるからな」


 そんな感じで、時間はたっぷりとあった。

 何度も、興味本位でマジッククローゼットを使えるほど。


「帝国はよいところでしょう? そのまま下ってもよろしくてよぉ」


 アンバランスすぎる父娘が、お花畑の中央でオレたちを見下ろしていた。


 そして間違いなく、本心で言っていた。


 すると剛。

 オレの隣で、正面の巨漢を見据えたまま低い声で言った。


「下野などしない。ここで戦う約束だ」


 戦わないとキーワードが貰えない。

 とは言え、オレは耳を疑った。


「ただ。そうだな。戦う前に五分くれ」


 は……?


「無論だ。何をしてくれても構わんぞ!」

「あ、いいんだ……」


 ベルンハルトが、その豊かな白いヒゲを揺らして豪快に笑った。


「戦の前の陣立てと準備もまた、戦の醍醐味であるからな! 存分にやるがいい!」


 剛が小さく頷く。

 やはり巨漢同士、筋肉で語り合っているのだろう。


 剛が、その身を包むグリーンの重装甲が、ガシャン、ガシャンと不気味な駆動音を立て始めた。

 肩部、胸部、そして背面のリアクティブアーマーがスライドし、鈍い金属音と共に何かが射出される。


「何それ。外せたのってか単体で動くの?」

「俺のガジェットだ。まさか使う日が来るとはな」

「いや、最初から使えよ……」


 ドスッ、ドスッ


 白い石畳に突き刺さったのは、固定式のエネルギーシールド発生装置。

 多銃身を備えたSF的な自動迎撃砲台、タレットだった。


「外れるんかい!……終盤でそんな機能あったのかよって、なるやつじゃん」

「外せることは知っていたが、戻せなくなるかもしれないだろう」


 剛は装甲の腕部からホログラムのコンソールを展開させた。

 目まぐるしい速度で中庭にタレットを配置し始める。


「エリクサー症候群発症してんじゃん。ってか、マジッククローゼットは」

「風呂は苦手でな」

「いや、カルディナ山脈から使っとけ? 後衛役要らないよね?」

「そんな話はいい。——駆。マップ把握しろ。一分で覚えろ」


 タレットの配置と射線を可視化した中庭の俯瞰図。

 剛はそれを、オレの目の前に弾き出した。


「配置は俺が決める。俺の装甲からパージしたタレットとシールドを要所に展開する。お前は敵のヘイトを買い、キルゾーンに誘導しろ」

「分かったって。つまり囮だろ……」

「そうだ」


 如月栞のグルグル回るディスプレイ。

 アレと同じ、いやアレよりもとんでもデバイス。


 オレは今更責めるのを諦めて、どこまでも青い空を見上げた。


「黒焔の剣、最強じゃねぇか! なんでオレが追い出されたんだよっ」



 タップリと時間を使った。

 五分どころか、恐らく三十分は準備をしていた。


 待ちくたびれたようにヴァルラが言う。


「では、始めましょうかぁ」


 フレイヤを思わせる衣装、彼女がゆったりと白い手を上げた。


 ヨトゥンが、来る。


 北欧神話に登場する霜の巨人、という知識はあった。

 青白い肌をした三メートルを超える巨体が多数。

 六メートルを越える巨体が四体。


「コロッセオ以来だな……」


 お花畑から生えて、中庭に現れる。

 石畳を踏みしめるたびに、ズシン、ズシンと地面が揺れた。


 カチカチカチカチカチ……


「スタートダッシュだ。走れ!」

「了……解っ!」

「グォォォォォッ!!」


 咆哮と共に、ヨトゥンがオレを追ってきた。

 でかい足で、でかい体で、信じられないほどのストライドで迫ってくる。


「そっちじゃねえ!」


 後ろで剛が怒鳴った。


「え? マジ? どっち?」

「右! もっと右! 三番タレットの射線に引き込め!」


 オレは急ブレーキをかけ、右に直角に曲がった。

 初速を失ったオレには追いつけるだろうと、ヨトゥンが怒り狂ってついてきた。


「追いつける……と思った?」


 そう……オレには分かっていた……ではなく、言われた。

 栞曰く、逃げ速度二倍は完全にチートらしい。

 ゲームに置き換えると、即通報レベルらしい。


「 逃げ速度二倍を舐めんなよ」


 指定されたポイントを通過した瞬間、剛のエネルギーシールドが展開した。

 緑のLEDが激しく明滅し、石畳からせり出した光の壁に、ヨトゥンの巨体が激突する。

 動きが止まったところに、タレットからの容赦ない光弾が浴びせられ、巨人が光の粒子となって消えた。


「よし」

「良しじゃねぇし。死体が残る設定どこいった?」

「お庭を汚したくありませんものぉ」


 そして、ヴァルラのこれはジョブスキル。

 ステータスではなく、レベル5の力だった。


「次をそっちに回せ」


 剛からの命令。

 別地点にヨトゥンを連れて行く。


「普通のタワーディフェンスと、違くない?」


 剛は、また無視した。

 ヨトゥンが二体目、三体目、四体目と、地面から湧き出すように現れた。

 そして、ベルンハルトが笑っていた。

 腹の底から響く、豪快な笑い声だった。本当に楽しそうだった。


「素晴らしい! 吾輩のヨトゥンをそのように翻弄するとは。面白い! もっと出そう!」

「増やすな! 親父、空気読め!」


 オレは悲鳴を上げながら走った。

 巨大ヨトゥンが六体になった。

 ここからが、オレの斜め走りのターン。

 ヨトゥンをギリギリまで引き付けながら、剛がホログラムで示したルート通りに、シールドとタレットのキルゾーンへ誘導する。


 ここからは繰り返しだ。

 ヨトゥンが激突する。タレットが火を吹く。


「まだかよ」

「弾切れか。次の地点だ!」


 次から次へと追加されるヨトゥンに、剛の兵装の処理能力が追いつかなくなってきた。

 タレットの銃身が赤熱し、シールドの緑のLEDが警告音と共に赤に変わり始める。


「駆!」

「分かってる!」


 オレは、走りながら『溜め』の姿勢に入った。

 追いすがる三体のヨトゥンを真正面に見据えながら、斜め後ろへと高速でステップを踏む。

 カチッ、カチッ、カチッ。

 五回溜めた。


 そして、この意味不明な力。

 ユリウスとの戦いからずっと、こう呼んでいる。


 ——【ひだりためみぎにゅうりょく】と。


 先頭のヨトゥンの腹部に、オレの全体重とレベル4の超加速が乗る。


 ドゴォォォォン!! 


 衝撃音と共に、三メートルを超える巨体が軽々と宙を舞い、後ろの二体を巻き込んで吹き飛んだ。

 石畳が砕け散り、背後の噴水がへし折れ、花壇が土塊となって消し飛んだ。


 ベルンハルトの豪快な笑い声が、ピタリと止まった。


「……なんだ、今の動きは」


 豪快な声から、純粋な困惑が滲んでいた。

 あのヒゲの親父が、初めて見せる素の顔だった。

 ヴァルラもその隣で「あらぁ」とゆったり言ったが、その青灰色の目は、オレの不可解な動きを見て僅かに細くなっていた。


「教えたらダメなんだっけ」


 オレは止まらず、また走った。

 剛が展開しているシールドの数が、目に見えて減っていた。

 オーバーヒートで次々と沈黙していく。


 だが、ヨトゥンの数も確実に減っていた。残るは、あと数体。

 その瞬間、後方にいた剛が動いた。


 展開していたシールドとタレットの接続を、全て強制解除したのだ。


「成った……な」


 重装甲が限界を訴えて大きく軋み、本体に残された緑のLEDが、リミッターを外したように全て同時に眩く点灯した。

 剛が、一直線に走った。

 残ったヨトゥンを完全に無視した。


 オレが作り出したヘイトの隙を突く。


 ベルンハルトがハッとして太い腕を構えた。

 ヴァルラも異常を察知し、指先を動かそうとした。


 だが、剛の突進の方が速かった。


「隠しステータスの差だっ!」


 ドンッ! と地面が陥没するほどの踏み込む。

 剛は、ベルンハルトの太い首筋に、無骨な剣の刃をピタリと当てた。


 そして全てが、静止した。


 ヴァルラが、持ち上げた手を途中で止めた。

 残っていたヨトゥンたちも、主の危機に動きを止める。


「——キーワードを言え」


 中庭が、しんと静かになった。

 ベルンハルトが、首筋に当てられた刃を見下ろして目を細めた。

 それから、ふはははっ、と豪快に笑った。


「吾輩の負けか! 見事な盤面制圧であった!」


 ヴァルラが、つまらなそうに小さく息を吐いた。そして、ゆったりとした声で彼女のキーワードを吐いた。


「ねえ、そこの重装甲の貴方」


 ヴァルラが、色を帯びた青灰色の目で、ゆったりと剛を見た。


「あたくしの、犬になりません?」

「ふん」


 剛が、鼻で笑って剣を引いた。


「なるものか」

「あらぁ。戦い方も、その心も、ずいぶんとお硬いですねぇ」


 ベルンハルトが、呆れたように横の娘を見た。


「吾輩の娘ながら」


 そして、薄い髪の毛を掻きながら言った。


「勝手に自分の相手を決めるな。血統の管理は選帝侯の——」

「あらぁ、お父様。うるさいですよぉ」


 とにかく。これで、二つ目のキーワードが揃った。

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