第9話
さあ、いこう。守護結界の向こう側へ。
平原が広がる。まるで最初からそうだったように。
少し歩くと、一段低い区画の周りをわずかに高い縁が取り巻いている地形になる。段差があるので足元には気を付けよう。
そう、今歩いている部分はかつての畦道だ。昔はここにも人が住んでいた。9年前の大侵食で大きな被害を受けた地域である。かつてはここにも結界が張られていたが、大侵食をきっかけに結界を移動し、他の結界の補強にすることに決定した。
かすかに水の音が聞こえる。先ほどお墓参りに行くために渡った川は、もちろん結界を超えた先にも続いているのだ。境合川と呼ばれるこの川は、おおよそ町を南北に貫くように流れている。川の向こう側はまだ瓦礫が残っている。
A圏に分類されるこちら側と違い、川の向こう側はC圏に分類される地域で危険度が高い。A圏では魔法の適性が低い人でも、ある程度活動することができる。しかし、C圏ともなると安全に活動できる人が限定されるのだ。ゆえに、復興作業が進んでいない。
周囲を警戒しつつ、さらに先へ進む。すると、そこには異質な、くすんだ灰色の球体が浮かんでいる。中心には不透明な部分があり、それを囲うように雲のような領域がある。これが侵食体だ。
中心の小さい不透明領域を核、雲のような部分は干渉場もしくは守護雲という。文脈によって使い分けられる感じだが、実戦の現場ではもっぱら雲と省略されて呼ばれることが多い。
今回のクエストのターゲットはこの種類の侵食体でないが、安全のために討伐しておこう。
無属性魔法を叩き込む。無属性の侵食体といっても物理的な打撃などは有効でない。たとえ、どんなに強力な近代兵器を使ってもダメージを与えることはできないのだ。
この侵食体は単核無属性侵食体に分類される。様々な侵食体が観測されている中で、もっとも危険度が低いとされているものだ。
先ほどまで蠢いていた球体が中心を残し消滅する。守護雲に守られた侵食体の核。その中身はからっぽだ。
***
「目標、前方50メートル。単独。」
こちらが今回のターゲットだ。前方では赤色の球体が2つ連なったような何かが蠢いている。こちらの侵食体は先ほどのものより、少し手ごわい。さらに慎重にいこう。
炎核偏性侵食体の最もシンプルなバージョンだ。その形状からスライムとも呼ばれる。偏性侵食体の最小構成は、この侵食体のように2つの核からなる。
無偏性侵食体との違いは、2つの核の雲の大きさが違うということだ。目の前の侵食体は2つの雲の大きさにあまり偏りがないので、どっちかというとスライムよりも雪だるまといったほうが適切かもしれない。
目標をよく観察しながら距離を詰めていく。炎属性の侵食体なので攻撃を受けるとやけどに似た傷が残る。この危険度の侵食体だと大事にはならないだろうが、注意する。
集中。水属性魔法をイメージ。角度、モードを調整。
放つ。
お読みくださりありがとうございます。
数字に関する表記を調整いたしました。(2026年4月23日)
後書きを変更いたしました。(2026年4月25日)




