第8話
あ、呼ばれた。ちょうどいいタイミングだ。
「あ、少年。この前はありがとねえ。結局、家まで運ばせちゃってごめんねえ。」
いつも5番窓口を担当している女性の職員の方だ。
「いえいえ、お役に立てたなら何よりです。」
「あっはっは。いい子だねえ。今度は一気にトイレットペーパーを4つも買ったりしないようにするよ。あっはっはっは。」
そう、このお方、ドラッグストアで18個1組のトイレットペーパーを4つ同時に購入していたのだ。それで帰る途中に力尽きてしまったらしい。そこに自分が立ち会ったというわけだ。
「今度からは3つにするよ。」
「すみません。たぶん、奇数はやめたほうがいいと思います。」
12個1組のトイレットペーパーもご一考願いたい。
「それもそうか、あっはっはっは。」
5番窓口に用がある人は少ない。だから割とこんな感じでカジュアルに話をすることがある。
「そういえば、最近導入されたAI補助利用システム、使いづらくてたまったもんじゃないねえ。おばちゃんもうついていけないわぁ。」
「たしかに、中々慣れませんよね。」
最近、電子パーティ編成画面でAIを補助利用することができるようになった。個人の能力や適正などから、最適なフォーメーションを人工知能が自動で提案してくれる。自然言語ベースでの戦略の提案とかにも対応したらしい。
自分は割と便利だと思うのだが、たしかに使いづらいと感じる人がいてもおかしくはない。全世代がデジタル世代というわけではないので、電子化だけでも大変なのに、そこにAIなんかが入ってきたらますます混乱してしまう人がいるのは当然だ。
「何がAIだ。知能も愛もあったもんじゃないねえ。」
Oh……。ずいぶんとばっさりとお切りになりましたね。
まあ、ある意味こういう人のためにこの施設は存在している。QMCにはそういった側面もあるのだ。ここにはデジタルの処理が苦手だからという理由で来る人もいる。
「毎度、すみません。今回もよろしくお願いします。」
ソロで結界の外へ出るための指導を受ける。いつも親切にわかりやすく説明してくれる。
「危ない場面になったらすぐ撤退すること。あと注意事項はこんなところかな。」
「ありがとうございます。」
「はい。これ許可証ね。いってらっしゃい。」
「いってきます。」
あとはQMC内に設置されているコインロッカーに荷物を預ければ、外へ出る準備は整う。
今日はオリエンテーションのみだったので荷物は少ないが、戦闘では何があるかわからないので、できるだけ身軽なほうが良い。備えあれば憂いなし。憂いを完全に消すことは不可能だが、やれることはやっておくことには賛成だ。
あれ、めずらしいな。先ほどのような事情もあり、この施設を利用する年齢層は高めで、若者は少ないのだが、ドア付近で短い黒髪の少女とすれ違った。
「あ、すみません。先どうぞ。」
あ、前にも見たことがあるような気もするな。
「ありがと。」
少女は少し急いだ様子で奥へ進んでいった。
***
外に出る。時刻は大体14時半。まあ18時前には帰れるな。今日の朝に話した真由との約束は守れるだろう。帰ったらすぐにゲームだな。
守護結界自体は物理的な構造物でないのだが、基本的に境界線には柵や塀などがあり、どこからが危険かわかるようになっている。それ故、どこからでも出られるわけではなく、関所以外の部分の人の出入りは制限されている。
関所はQMCからはすぐだ。忘れ物はないし、準備もばっちりだ。
「パーティの方はどちらにいらっしゃいますか。」
「あ、すみません。いません。ソロです。」
「単独任務許可証はお持ちですか?」
「はい。お願いします。」
「どうぞ。」
さあ、いこう。守護結界の向こう側へ。
お読みくださりありがとうございます。
後書きを追加いたしました。(2026年4月25日)




